番のいない竜と私
重くなってしまった空気を変えるように私は明るい声で
「そういえばメロデイアさんの番さんはどんな方なんですか?」
と。聞いてみた。
白い髪に赤紫のラインが入ったメロデイアさんの髪の毛。
その不思議な色を婚姻色に選ぶ番はどんな方なんだろう?
私の何気ない疑問にメロデイアさんは少し困ったように笑った。
「私の番はねぇ…ずっと前に死んでしまったのよ、まだ幼竜の頃にね。」
「え!?あ、ごめんなさい…」
痛恨の話題チョイスミス!
明るくするつもりが思いっきりミスった!
どーんと沈む私にメロデイアさんか慌てる。
「いいのよ、竜人ではめったに起きないことなんだけど他の種族では珍しいことでもないのよ。」
「そう、なんですか?」
「そうね、竜人は滅多なことじゃ死なないのよ、この世界の頂点に居る生き物だからね。子供の頃から他に食べられたりすることもない。卵から孵ったら殆どが寿命を全うするものなのよ。大きくなったら尚更死ににくくなるわ。私の番はその中で珍しく死んでしまった、とても弱い竜だった、ただそれだけよ。」
そう言いメロデイアさん肩をすくめた。そしてくるりと白いなかにある赤いひと房を指にからめた。
それは長い間かけて納得したであろう人の言葉。
「番に強すぎるほど惹かれたり、生死に影響するほど働くのは竜人と魔人の一部くらい。人族や獣人は寿命も短くて、移動できる距離もそう長くないから番が一生見つから無いこ ともよくあるのよ?」
「ええっ!?」
すっかりこの世界では番が標準装備なんだと思い込んでいた。
そうか、違うのか。
「竜人の隣人となりえるのは魔人族や精霊族くらいね。人族も獣人族も私達にとって瞬くような一瞬に生まれてそして消えていく、そんな儚い命だわ。そんな彼らの、その短い一生の中では番が生まれないことも、みつからないことも、よくあることよ。まあ、人族はともかく獣人は大変みたいね。獣性が強い個体はより番に縛られるけれど…その相手の獣性が薄かったりすると、やっと出会った時に相手は既に結婚していたり…なんてこともあるみたいね。獣性が弱いものは獣人族の中でも寿命もとても短い。同じ獣人族で生きている時間は全く違うのよ。」
そうか、ゾウとネズミの生きる時間が 違うように、獣人族は種族によって命の時間が違うんだ。
ふと、気になった言葉を思い出す。
そしてドキリとする。
「竜人にとって番が居るかどうかは生死に関わるんですよね?なら、メロデイアさんは…」
不安そうな顔になっていたのかもしれない。
そんな私の頭にポンポンと手を置かれる。
「私は番を失ったのがとても小さいときでね…うっかり追いかけ損ねたの。だから、それから待ってるの…私の魂の片割れがまた現れるのをね。」
そう言って窓の外を見るメロデイアさん 。その、横顔をみつめているとふと気が付いた。
現れるのを待っているといいながら…
それはあらわれぬ待ち人を、待つ顔ではないような気がした。
きっと、もう生まれているんだメロデイアさんの番は。
そして…きっともう、メロデイアさんは出会ってる。