撫でられた私
朝食を終えた私の元にメロデイアさんが数冊の本を抱えてやってきた。
「さぁ、お嬢ちゃんは何が知りたいの?」そう聞かれた。
「うーん、何がわからないのかも…わからないんです。だから何が知りたいかも…」
解らないことだらけだ。
「そうね、じゃ、まずは一番嬢ちゃんに知っておいてほしいことを説明するわ。」
メロデイアさんはそういって話してくれた。
竜人国では竜を祖とする竜人が住んでいるのということ。
竜人は他の種より寿命がとても長くて力も強いく、そして竜としての本能がとても強いということ。
そんな竜人を纏め上げる竜王種という格段に強い種がいること。
そして竜人は番にとても執着することを。
「この世界で生きるものは力が強ければ強いほど、魂の片割れに縛られる。人族は竜人とは真逆ね、人族は力が弱く番との繋がりも希薄だわ。」
メロデイアさんはこの世界が明確な意思をもって、竜人に番という枷をつけているのだと言い切った。
まるで世界の意思を知っているかのように。
そして語られた竜と竜人と番の話。
番が居なかった頃、竜は、世界を何度も滅ぼした。
竜は世界の意思を聞くもの。
時おり襲うように頭の中に訪れる世界の意思。その時、竜は世界と溶けて混ざりあい、破壊の使徒としての役割を果たすことを求められ、導かれるままに対象を破壊する。
それは自然であったり国であったりひとであったり。
時折、世界と溶けすぎて戻れなくなった竜が、その強められた破壊衝動のまま世界を滅ぼしかけたりもした。
それを幾度も繰り返した後に、世界が竜の形を変えた。
意識と知能を持たせ竜人とした。
そして番という魂の片割れも与えた。
番という枷は竜人を縛る一方で竜人を守るものでもあった。
知能を持った竜人は今まで通りに世界の意思を聞き世界と溶け合い破壊する。
そして役目を終えるとまた世界から引き剥がされる。
竜と竜人の違う点は高い知能を持ったこと。
知能を持ったが故に、自分の行った行為がとても恐ろしいものだときづくようになった。
そしていつか、自分達も消される側にまわるという事実にも気付くことになった。
だから竜人は番を強く欲する。
番は世界が竜人に与えた枷。
竜人が愛する番のいる世界を滅ぼそうとしないように、世界と溶けて狂わないようにために与えられた枷。
枷があるのなら竜人は世界に溶けて狂ったりしない。
枷があるのなら竜人は世界を滅ぼす側に回らない。
番がいないということは枷がないということ。
世界を滅ぼす狂った竜としての役目を定められたいうこと。
それはつまり、終焉の竜となるということ。
ノヴァイハは竜王種といわれる、古竜に近い力と世界から定められた役割を持たせられた竜人だった。
世界と常に繋がり世界を調整する。ノヴァイハは力を、メロデイアさんは魔力を調整する役割を与えられた。
ノヴァイハはその役割故に常に破壊を求められる。
大きすぎる力を持ったものを世界の望むまま滅ぼすのだ。
そのため、他の竜人よりも破壊衝動が強い。
常ならば意思の力でその破壊衝動がおさえられているのだけれど…
長い間、番が居ない状態で常に世界の意思に晒されていたために、ここ数百年は自我が世界と溶けやすくなっていた。
一度自我が溶ければ古の狂った竜とほとんど変わらず…城の地下に幽閉されれていたのだという。
通常、竜王種には早い段階で番が傍に現れるのだという、けれどノヴァイハには現れなかった。
番。
すなわち私が。
それを聞いて私はなんだか凄く悲しくなった。
涙脆いほうでもないのに、とても悲しくなった。
ノヴァイハは寂しかったのかな、悲しかったのかな?
長すぎて解らないよ。
その間傍には誰もいなかったのかな?
ずっとひとりきりでただ待っていたの?
……そんなの悲しすぎる。
ぽろりと涙がこぼれた。
「ノヴァイハの為に泣いてるのか優しいお嬢ちゃん?」
メロデイアさんが茶化すように言って私の涙をぬぐってくれた。
綺麗に整えられて染められた爪。
けれど、いつもよりも低い声で…まるで男の人みたいなしゃべり方。
「いいんだよ、あいつは今幸せの真っ最中だ。アホみたいにな。」
いつもの阿達っぽい微笑みじゃなくて、ニヤリと笑うガキ大将みたいな表情。
「だから、お嬢ちゃんも幸せになれよ、そんであいつと笑ってろ、アホみたいにな。」
ああ、この人が傍にいたんだ。
哭いてるノヴァイハのすぐ近くに。
それがとても嬉しかった。
「アホなんて酷い…でも、ノーイが幸せなら…アホでも良いです。」
涙を拭いながらそう言い返したら頭をよしよしってされた。
アホの次は犬か。
そう思ったら自然に笑いがこぼれた。