貢がれる私
私の奇声に寝室に飛び込んできたマリイミリアさんは、窓際に転がる大きな竜の頭を見てあらあらまあまあと笑った。
「ご安心くださいませツィー様、この頭はもう動きませんわ」
そういって転がる頭をポンポンと叩いた。
そ、そういうことじゃないんですが…
「なあに?朝から騒がしいわねぇ」
そういって部屋に入ってきたメロデイアさんは転がる頭に「うおっ!」とびくついていた。
同士!!!
でも、メロデイアさんビックリすると男の人に戻るんですね…
「ツムギの言う通り仕事してきたよ。」
にっこりと笑うピンク色の竜人は見た目は可愛いのに随分と物騒だ。部屋の中でかなりの面積を占拠している金色の竜の頭はとれたてピチピチらしい。
「これはお土産」
そういってぺちぺちと竜の頭を叩くノヴァイハ。誉めて誉めてと顔に書いてある。
ああ…これどこかで聞いたことがあるあれだ。
朝に起きたら枕元に鼠と蜥蜴がお腹を上にして並んでいて…愛猫がその側で艶々の表情でこちらを見ていたと。
愛情表現。
うん、これは愛情表現だね。
私はぎろりとこちらを怨めしげに睨む金の瞳からそっと眼をそらす。
そらした先には綺麗に切られた切り口からしたたる赤い血。
おうっ…これは…これは無理かもしれない。
っていうか無理。無理だよねフツー。
だらだらと背中に嫌な汗が流れる。
これを受け取ったらどうなる!?部屋に飾られちゃうの!?このままここに置かれるの!?ど、ど、ど、どうしよう!?
メリメリッ
奇妙な音がした。
見るとノヴァイハが金色の大きな鱗を持ち上げてそこから音がする。
な、な、な、なに!?
メリメリッミシミシ…カッ…キーン
反り返った金の鱗は澄んだ音を立てて鱗が剥がれた。
剥がれたその下には綺麗な赤い…
「はい。この鱗は髪飾りにしてね。ツムギの黒髪にとてもに合うと思うんだ。」
目の前に差し出された鱗の端には赤い血がついていた。
ひいいいいいい!!!
涙目である。泣かないだけ偉いと思う。
「あ、あり…がとう…」
震える手で受け取ろうとしたとき
ベシッ!!!
という音と共にノヴァイハが目の前から消えた。
そして目の前にはメロデイアさんがにこやかな笑顔で立っていた。
「そのまま渡してどうするのよ!髪飾りにしてから渡しなさい!これだから気のきかない雄はいやねぇ~」
ゆるくウェーブした白い髪の毛を後ろに払いながらノヴァイハを踏みつけていた。
「お前だって雄だろう!!」
間髪いれずにそう言ったノヴァイハはまた沈められた。
うん、それは言っちゃいけないやつだよね。
ノヴァイハが持ってきた竜の頭は「よいしょっ」という掛け声とともに、マリイミリアさんが持ち上げて運んでいってくれた。
あんなに大きいのによいしょで運べるんだ…
「今日のお嬢ちゃんは朝食が済んだらお勉強よ。ノヴァイハはお仕事ね~」
そう言ってメロデイアさんはノヴァイハを連れていった。
朝から賑やかだったな…
私は床に広がる赤いシミを踏まないように気を付けながら朝の支度をすませた。