噛めない私
ノヴァイハが脱ひきこもりとなり、仕事をすることを約束してくれた。
私はお勉強することが決まった。
話の途中にノヴァイハがあまりにぎゅーぎゅーと抱きしめるので、あやうく絞め殺されるかと思った。ノヴァイハの服を握っていた手は力を入れすぎて白くなっていた。危なかった…
それはともかく
することがあるって大事。
お勉強は明日からですから、お昼にしましょう?とマリイミリアさんに優しく言われたので食堂に移動するとこになった。メロデイアさんは仕事があると去っていった。颯爽と歩く姿はキレイなお姉さんだ。
食堂への移動はノヴァイハの腕…ではなくちゃんと歩いた。
ノヴァイハは嫌がったがさっきみたいに絞められてはいつかオチかねない。きけんがあぶない。
マリイミリアさんに従い席につく。
目の前には私より大きなお肉の塊がこんがり焼かれていた。まわりにサボテンのような植物が添えてあるのが衝撃的だ。
「今日からはお食事もきちんとしましょうね?」
目の前に置かれた大皿から取り分けられたものがキレイに盛られていく。れていく。
竜人国は大きなお皿に盛られた料理を取り分ける食べ方のようだった。「そういえば私は今までどうやって、食事をしていたんでしょう?」
「ノヴァイハ様とツィー様は、番の呪で命ごとつながっていらっしゃいますわ、なのでノヴァイハ様の生気は、ツィー様に送ることが可能ですの。
でも、これからはスープだけではなく、他のものも少しずつ食べてくださいね。」
そういって出された皿には、一口サイズに切られた肉が乗っていた。
病み上がりの最初に肉とは…やっぱり肉食な文化なんだなぁ。
「ツムギ、さあ口を開けて?」
ノヴァイハはフォークに刺したお肉を目の前に運んでくる。
マリイミリアさんが後ろから「ツィー様、番の雄から食事を差し出す行為は、求愛給餌といわれる求愛行為です。あまりお断りにならないことをおすすめいたしますわ。でないと…もう1段階進んだ給餌行為になりますわ。」と囁いてくる。
あーんが普通なんだ…
しかも、もう1段階進んだ給餌って何だろう?
ピンクの髪のイケメンは気にせず私にフォークに刺さったお肉を差し出してくる。美々しい、もう…絵のようである。
その先が自分だというのが非常に申し訳ない気分になる。ニコニコと期待に満ちた表情を曇らせるわけにはいかない。
覚悟を決めてぱくりとた食べた。
もぐもぐ…あ、美味しい味がする
もぐもぐ、でも、…お肉が…思いの外硬い。
見た目は柔らかそうなのに…
「ん?ツムギ?どうしたの?」
硬いな…これはちょっと時間がかかりそう…もぐもぐあぎあぎんぐんぐ…
「ツムギ?ちょっと口をあけてごらん?」
いやいや、人に噛みかけのものなんて見せられません。慌てて口を手でおさえる。
もっぐもぐもぐ
「ツムギ?その手をはずしてごらん?」だんだんノヴァイハが慌ててきた。マリイミリアさんも「ツィー様、だしてしまってけっこうですわ!」とお皿を差し出してくる。
いや、大丈夫、頑張ればもう少しで噛みきれそう。味は美味しいし。
出さないよ~大丈夫!と首をふると「ツムギ、ほらっ!」とむりやり押さえていた手を剥がされる。
そしてノヴァイハの顔がアップになっていく。
「ンんんー!!!」
噛み疲れてた顎は大した抵抗も出来ず、ぬるりと舌の侵入を許してしまう。舌は噛みかけの…というかほぼ噛めていないお肉を絡めとる。
「んむっんんっ…」
一度出ていったノヴァイハの舌は、再び戻ってきて、口腔内をぬるりと嘗めてから出ていった。
「マリイミリア、この肉はツムギには硬いようだ、ほとんど噛めていない、それに歯の作りが随分違う。」
私が苦戦していた肉は、ほとんど噛まれることなくノヴァイハのお腹に消えていった。
「これで硬いとなると…少し調理法を変えたとしても素材を変えないと難しいですわね。」
「口内も非常に柔かかったな、その添えてある野菜のトゲは無理そうだ。」
二人は至極真面目に論議している。
サボテンみたいな植物はどうやらそのまま食べるものだったみたい。
ちょいちょいで爬虫類感が出てくるなぁ…
そんなことを考えていた私は、ノヴァイハにお芋みたいなものを食べさせられた。
もちろん あーん で。
私のファーストキスが常に残念な消え方をしていったことは脳内から抹消したい。




