大人びた子ども
ノヴァイハとお嬢ちゃんの掛け合いはなかなかに、面白い。
特に仕事のくだりは見物だった。
卵から孵るその時より定めを持つ竜王種に仕事に就けとは面白い。
ノヴァイハが戸惑っている様子が笑いを誘った。
ただ、お嬢ちゃんのおかれていた環境は非常に問題がありそうだが。
「ねぇ、お嬢ちゃん。ノヴァイハはこれから色々と仕事が増えるから安心するといいわ、ノヴァイハしかできずに溜まった仕事が、山のようにあるのよ」
感極まったノヴァイハに抱き込まれたお嬢ちゃんは隙間から顔を出して「そうなんですか?」と聞き返してくる。旦那が甲斐性無しだと困るのは竜人も人も同じ。
「ええ、そうよ?こんなに一緒に居られるのも今のうちだけよ?」
あの山のように溜まった仕事は、なんとしてでも終わらせてもらいたい。そのノヴァイハは抱き込んだお嬢ちゃんに見えないのをいいことに、おもいっきり嫌そうな顔をしている。
一方お嬢ちゃんはにこやかな笑顔で
「なら、安心ですね!!」
と言ってノヴァイハの心を抉っていた。
くっついたばかりの番を引き離す時は大概酷く嫌がるものだが…酷なことかと思ったが、お嬢ちゃんは意外なほど、さっぱりとした反応だった。この反応の薄さは人族だからなのかもしれない。
「私はツムギと離れたくはないよ…」
鬱陶しいほど愛が重い、と言われる竜人の雄であるノヴァイハは不服そうである。きっと胸の中は荒れ狂っているのだろう。
「お嬢ちゃんはノヴァイハが仕事の時はこの国について学んでもらうわよ?」
「はい、わかりました。」
返事は良かった。己に必要なものが何か解っている、この子は頭がいい。自分の置かれた状況を、把握するのに長けているのだろう。
「ノーイも頑張ってくださいね、ノーイが居ない間、私もがんばります」
ノヴァイハの服を掴む手はきつく握られ白くなっていた。
前言撤回だ。
人族だとしても番の呪で縛られているのだ。
番と離れることに不安にならない訳がない。
こんなちいさな子どもなら、なおさらだ。
この子は知っているのだ。
幼子のように泣きわめくことの無意味さを。
荒れる気持ちを律するすべを
己の心を殺すその方法を。
この幼い身の内に。