暗く喜ぶ竜
こんな幼い子を番にしてしまうなんて。
見境がないにもほどがある。
ノヴァイハは軽率だった自分を責めた。
いくら半ば理性を失ってたとはいえ…
見るからに幼い姿のツムギを番にしてしまったことには良心の呵責を覚える。
しかし…まだ鱗も固くなりきれていないような幼子だったとは。
千年を越えて生きる竜人とは違い、人族の寿命は200歳程度だと聞く。
魔力の低いものはもう少し短いとも。
そんな人族の19歳は成人前であることは確実である。
国によって多少の違いはあるが。
「このど変態野郎!!!」
メロデイアの罵倒とヒールが背中に刺さる。
その通りだと自分でも思う。
なのでこの攻撃は甘んじて受けよう。
「あのっ!私の国では19歳はそれほど幼くないんです!成人は20歳ですから!!」
愛らしい番の鈴のような声で紡がれる庇うような言葉が余計に胸に刺さる。人族の成人ですらない…
「つまりお嬢ちゃんの国でも未成年ってわけね…」
メロデイアがぼそりと呟いた。
「このくされ竜!!」
ドゴッ!!!
床に埋まる冷たさが私の煮えてる頭を冷やしてくれたらいい。
そうして隠してしまいたい。
胸の奥底にある喜びを。
ツムギの未来を全て奪い尽くしたほの暗い喜び。
捩れた醜い想いは、愛しい番には見られたくはないから。
私は自分の姿はとても平均的だと思う。
身長だって、体重だって、重すぎも軽すぎもしない、そんな平均的な19歳。
高校を出てちょっと少ないかもだけど…高卒で就職したどこにでもいる19歳。
ぱっちりとした二重はお気に入りだけれど…童顔ではない普通の19歳。
の、はずなんだけれど…
「ツィー様はまだ19歳だったのですね…わたくしはてっきり…」
マリイミリアさんも凄くうちひしがれている。
メロデイアさんもノヴァイハを踏みながら明らかに後悔していますっていう顔をして
「ごめんなさいねぇ…まさかそんなに小さいとは思ってなかったのよ」
と謝ってくる。
どうしてこうなった!?
いやいや、そこまで幼くないですよね!?
私の身長は平均的だったし童顔でもないよ!?
むしろ身長で言うなら竜人の皆さんが大きすぎるわけで、それに皆涼しげなすっとした切れ長の目は色っぽくて…でも、ちょっと爬虫類を感じさせる。
って、これか!?
ぱっちりと二重は子供っぽいってこと!?
こんなところで異世界ミラクル!?
19歳が小さい子なら竜人の皆さんの成人っていくつなの!?
マリイミリアさんに聞いてみることにした。ノヴァイハとメロデイアさんは楽しそうにプロレスごっこをしているからね。
「竜人の方々の成人はおいくつなんですか?」
「そうですねぇ、個体差はありますけれど、大抵200歳から250歳くらいですわね。竜人は竜体が大人になればほぼ成人とみなされるのですが…人の形を取ると外見と中味がうまく一致しない場合もありますわ」
200歳か~そう考えたら、私なんか子供なのかもしれない。
「竜人は長い時を生きるものですわ。なので…成人前の子供を番にすることは推奨されてはいませんわ。番の呪の効果には、『力の弱い番の寿命を強いものに合わせる。弱い番を長く生きるものに変化させる』というものがありますわ。それは、力の弱い個体の体内の時間を遅くする、つまり老化を遅らせる効果があるのですわ。幼い時に呪を結ぶと…その時から幼いまま非常に長く時を過ごすことになってしまうのですわ」
詳しく教えてくれるマリイミリアさん。
流石は異世界、色々違う。
「そういえば私の国は成人は20歳ですが、16歳で結婚できるんですよ」
「まあ…それは…珍しいお国ですわね」
マリイミリアさんは困ったよう微笑んだ。
ええ…これも珍しいのか。
難しいなぁ…
異世界転移といえば周囲の壮大なる勘違いだよね!
というこで…しばらくは「みんな大好き勘違い」編です。