薄荷飴と私
あのとき、私の頭に急にあの声が響いてきた。
あの二人の声。
苦労性な先輩とちょっと適当な後輩君の声。
「あーー!!センパイ、つながったっす!つながったっすよ!!」
「何っ!!いまそっちいくからまってろ!!」
「つむぎちゃん、ちょっとまっててね~センパイは~トイレ入ってたみたいだから。」
「うそ教えてんじゃねえよ!!行ってねえよトイレ!」
相変わらずですね、お二人とも。
センパイは相変わらずイケメンだ。
銀髪に金の瞳のキラキライケメンだ。口調が残念でなければ。
後輩君は相変わらずのちびっこ。黄色味の強い金の髪の毛はつんつんしてる。顔はすっごく可愛いのに…
「久しぶりだなぁ地球でいうと3か月くらいか、よっく寝てたなぁ」
「それはセンパイのとこの竜が問題だった、ってだけじゃないっすか。」
「まあな、さて、どうだ?俺の世界は」
そんなに寝てたの!?
…どうってほど外にでてないんですが…
「番にはあったんだろう?俺の世界は番に逢えりゃそれで大概はなんとかなるんだよ、あっただろ?目が合うだけでぐっとくる感じ、無条件でぐっとくる、あれだよあれ」
「ほんっとあの番システムはテキトーっすよね、僕は良さが解らないなぁ、うちみたいに時々運命的出会い発生システムの方が絶対いいとおもうっす」
ぴんぴん頭の男の子が胸を張った。
なんだろう、ちょっとひよこに似てる。
「お前のところは不幸せが多すぎだ」
…これ聞いて大丈夫?知りすぎて世界に消されるとか嫌なんですけど。
「あ~安心しろ、世界に開示されてない内容は、下に降りた時、勝手に消されるから」
なら安心、アフターケアもばっちりだ。
「でな、ここに呼んだ理由は、ちょっーと、やってもらいたいことがあってだな~あと、こいつの加護が適当過ぎて、機能不全を起こしてたからメンテナンスだ」
あのものすごい眠気ですか?
「それだ、お前、さっきこいつの適当さと、お前の番の暴走で死にかけたんだよ。まぁ、あの番の様子なら、お前死んでも100年くらいは燃え尽きた灰みたいになって大人しくしてそうだから、このままイかせてもいいか~とは思ったんだがなぁ。お前が死んで、その魂更新して、卵にする時間を考えたら今のままの方が早くってな」
いま、何気にさらっと酷いこと言いましたよね!?そのままイかすって
、活かすじゃなくて、逝かすですよね!?先輩怖い!先輩酷い!!
「つむぎちゃんもそう思う?先輩長く管理人し過ぎてクールが冷血越えてブリザードだよね?ぎゃー!!!アイアンクローはぁぁぁっ」
「てめぇ、黙れや。でだな、あっち戻ったらちょっとお節介やいてやれ」
お節介?
それより手元のひよこが紅葉になったことが気にな…いえ、はい。
「じゃ、頼んだぜ?それと、俺の世界は異世界情報は開示してない。だから調整が入る。まあ、そこらへんは気にすんな」
えっ!?調整って何?
先輩は私の肩をとん、押した。
いやー!!!!!フリーフォール系は苦手なのー!!!!
時間にしたら一瞬の出来事だったんだと思う。そして私は再び墜ちてきた、この体に。
あの記憶はホロホロと崩れていく。もう、二人の姿は思い出せないほどに思い出したばかりの故郷の記憶もホロホロと崩れて薄れていく。
けれど、いちばん大切なものはもうここにあるから。
「ノヴァイハさん、それとも、ノーイさんとお呼びすればいいですか?」
聞くと目の前にあるチョコミント色の瞳がどんどん溶けていく。
「ノーイと、ノーイと呼んで。世界で君だけが呼ぶ名前だから。さんもいらない。でも…時々はノヴァイハと呼んでくれたら嬉しい」
溶けたチョコミントの滴は透明なんだ。
ポロポロ、ポロポロ落ちていく。
地球を思って泣けない私の涙のかわりに泣いてくれてるかのよう。
望郷すら既に遠い私のかわりに。
この涙が泣き虫な神様の涙みたいに、飴になればいいのに。
きっと凄く美味しいはず。
ぺろりと舐めた涙はほんのり甘かった。