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向き合う竜と私


結論から言うと私は秘めたる力なんて覚醒しなかった。


そりゃそうだよね!


じゃあ、なんでピシッっていったのか? それはあの先輩後輩コンビが介入したから。

永遠にも思えるゆっくりとしたような、一瞬だったような不思議な邂逅。


話をしたのに、色々思い出したのに目覚めるととたんにほろほろりと輪郭が端から消えていく不思議を感じながら瞬きをする。



一瞬前まではとても重かった瞼は今では信じられないくらい軽い。

体もかるくなって頭のなかのぐるぐるも凄くスッキリした。


ぴし、ぴしぴし、ぱら…


耳元にぱらぱらと何かが落ちる音を聞きながらゆっくりと体を起こす。

ほんのり薄赤く色づいた乳白色の花びらみたいな滴型。

つい一瞬前まで耳飾りだったものがぽとりと布に落ちた。


キラキラしてて、とっても綺麗。


これはきっと目の前の人の一部。

その本人は頭から血だらけで、せっかくの綺麗な髪が赤く染まってしまっている。


「おはよう…ございます。ノーイ…さん?」


頭がしっかりするとこの年上の人をなんであだ名つけて呼び捨てにしてたんだろう?って思ってしまう。


ノヴァイハさんはぽかんとしている。

美形はこんな時も美形でずるい。


「えっと…まずは…色々とありがとうございます。私は凄い怪我だったのに。助けてくださってありがとうございます」


お行儀悪いなって思いつ寝台の上で深々と頭を下げた。

「う、ううん、いいんだ、そんな、お礼なんて…」

ぎこちなく首をふる目の前の人ににっこりと笑顔を向けた。恩人であるノヴァイハさんに。

「治療も、その後も、どれだけ寝ていたのか、わかりませんが…凄くお世話になってしまって…」

私の言葉を一つ漏らさず聴こうとしているかのように全神経がこっちに向いているんじゃないかっていいうくらい逸らされることがない。

そんな目の前の綺麗な形の瞳に大きな涙がういてくる。

ぱちり、と瞬きをした瞬間、長い睫毛が水の粒を押し潰し、キラキラと小さな光を纏う。そのあとは止まることなくぼろぼろと溢れていく涙。


本当にこの人はよく泣く。


そしてそんな泣き顔もやっぱり綺麗。

本当に卑怯なくらい美形は得だ。


「それにノヴァ…イハさん、私を番にしてくださってありがとうございます」


もう頭はスッキリした、舌だってちゃんと動く。

ちょっと…いいにくいけれど。


「私の名前は峰前 紬です」


目の前のノヴァイハさんの髪が僅かに色を増した。




私は日本人だった。

これといった特技も、やりたいことも特にない漠然と日々を過ごしていた19歳。


子供を庇ってとか、子猫を庇ってとか、そんな劇的なことは何一つもなく、ただのぼんやり信号待ちをしていただけなのに交差点に突っ込んできたトラックに跳ねられて人生が終わった。


祖父を亡くした後、祖父がかけていてくれていた学資保険で大学に進んだ。祖父と共に住んでいた家に住むことは出来なくなり、大学近くでアパートを借りて住んだ。都下といっても夜でも煌々と明るいコンビニがあちこちにあるそこは私からみたら十分すぎるほど都会だった。


余裕もなく過ぎる日々にふと思い返す祖父と共に住んだ家は…本当に田舎で、何もない、あるのは自然しかない、そんな場所だった。


家の裏山は少し奥に分け入れば春になると一斉に山桜が咲く場所があった。

濃い色も薄い色も朝靄のなかで全ての色がとけて滲んで…一年のなかでその景色が大好きだった。


祖父が亡くなるその年まで…それを見るのが楽しみだった。


何もない、自然しかない場所だった。


初夏には赤く染まったオイカワの背を畦道をあるきながら見るのが大好きだった。

祖父は必ず「恋の季節だね」ってあの世代の人には珍しく先に眠った祖母への愛を語るひとだった。


夕日に染まる青々とした田んぼの中、ヒグラシの声を聞きながら。

刈り取られて乾いた田んぼの畦を赤く染める彼岸花をみながら

白い息を靡かせる自分以外は誰の足跡のない新雪をふみしめながら

祖父の居る静かな家と学校を往復するだけの毎日を過ごしていた。

もう居ない唯一の家族。

もう、戻れない場所。


祖父を亡くした直後は辛くて仕方なかったけれど…悲しみも記憶も忙しない日々に埋もれていった。


薄紅に染まった髪を見るまでは。

この人の纏う色は私があの場所で生きていたなによりの証。


ここで私がするべきことは…


竜人の番としてこの人、ノヴァイハの側にいること。

このちょっと、いやかなり涙もろいピンク色の竜人の支えになること。


あの二人…というか実質一人だけど…に頼まれたからだけど。


それも悪くないなって思うのは…きっとこの色のせいだと思う。







意識を取り戻したツムギは何かに抗うよつな様子を見せた。


眉間にシワをよせて苦しそうに、閉じそうになる目をひらこうと必死になっているのが気配でわかった。


弱々しく呼ばれる名前も…でも、いつものように虚ろではなく、鮮やかなほどの意思をもって明確に伝えてくる。

慌てて手を握るとぬるりと滑った。


先ほどマリイミリアに殴られて頭がちょっと体にめり込んだ痕だ。慌てて拭く。ツムギの白い手をよごしてしまった。


ツムギは懸命に言葉を伝えようとしてくれる。


「眠くないのに…おきられない…ごめ、んね…もっと…話をしたいのに…そば…」


途中で途切れたその先を聞きたくてもツムギは深く呪に囚われていく。

「ノヴァイハ!!」慌てたようにメロデイアが叫ぶ。

だめだ、いけない、この眠りは深すぎる。

せっかくおきたのに名前を呼んでくれたのに…こんな深く囚われたらもう抜け出せないじゃないか。


がくりと力がぬける。

メロデイアの悪態が遠くで聞こえる。

愚かな自分がこの状況を生んだのだ。

恐怖にかられツムギを眠らせ続けた


その報いがこれか。



ツムギの頬をなでる。


固く閉じられたその瞼を、唇を、輪郭を、

眠りに誘う鱗を飾るその耳を。


その時、

ピシリと鱗に刻んで形を変えていた魔法にヒビが入る。


驚いていると…ぱちり。とツムギの瞳が開かれた。


あざやかな、いのちがひかるひとみ


「おはよう…ございます。ノーイ…さん?」


そして、幼い見た目とは不釣り合いな挨拶。丁寧な言葉選び、一定以上の教育をほどこされた、その知性に驚く。

私はこの番の何を見ていたのだろう。

人形のように愛でていた、だけだったのか。


「それにノヴァ…イハさん、私を番にしてくださってありがとうございます」


少し照れた顔で、しかし硬い意思をもって告げられた言葉が私を縛り上げていく。


「私の名前は、峰前 紬といいます。」


名乗られた名前に何か違う、と思うより先に、頭の先から爪先までが煮えるようにあつくなる。

今までの番の呪は仮初めであったとわかる強い呪い。


私を縛る永遠の呪い。

私を染めかえるいのちの色。




「ねえ、センパイこの瀕死者御告げ型通話チャンネルを巫女型か愛し子型にかえないんすか?」

「ああ?変えられるわけねぇだろ、うちには巫女も愛し子もいねぇよ。」

「でもー、うちのつむぎたん、ちょっと死にかけすぎじゃないっすか?」

「なんだよ、うちのつむぎたんってのは、つむぎは俺んとこのだよ。」

「体はうちのっすよ~?」

「魂はうちのだ。」

「じゃあ、僕たちの初めての共同作業から生まれた愛の子つむぎたんっすね!」

「きもっ!お前マジ死ね!」

「でもー、このあと色々絡まったあれとかーこれとかーなんとかしてもらうじゃないっすか~」

「お前のせいで溜まった千年分のあれこれな!」

「何かあるたびに、死にかけるの待つの…難しくないっすか?」

「てっめえ!!今さら言うんじゃねぇ!!!」



つむぎたんの死にかけフラグはまだ消えない!(看板に偽りなし)


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