夢見る私
この世界についての説明を一通りされたあとに、ノヴァイハは私を外に誘った。
「少し外の風にあたろうか」
と言われてそのまま横抱きにされテラスに連れていかれる。
重くないのかな…?
竜人だからかな?
こんなことされたら本当のわたしだったらもっと…
本当の私ってなんだろう?
何だか頭がぼんやりする。
そして、抱かれたまま連れられてきた窓の外は…異世界だった。
ああ
ここは、私の知ってる場所じゃない。
私の知ってる空はこんなに蒼くない。
まるで海の底から見上げる空みたいに、キラキラと光る空。
あの空はどんな風に出来てるんだろう。
水みたいな空にお魚みたいに鳥が飛んでる。
「きれいね…」
私はなんでこんな遠くに…
ああ、眠い…
また、凄く…眠いよ。
気分転換になるだろうと窓辺に連れて行くと、ツムギはすぐに眠ってしまった。
感情が大きく振れた時、それ以上感情が昂る前に強制的に眠らせる呪を魔道具にかけているからだ。
眠るツムギの顔を見ながらぼんやりと呟く。
「この方法は失敗だな」
魔道具をつけてからのツムギの様子は明らかに精彩に欠いていた。
それに…
「ツィー様は寝てばかりですわね。まるで幼い竜のようにお可愛らしい」
傍に来たマリイミリアが、私の腕で抱かれて眠るツムギの顔にかかった髪をそっと整えた。
「時間はたくさんあるのです。気長にいきましょう、ノヴァイハ様」
そうだ
時間は余りあるほどにある。
けれど…
ツムギがこのまま眠り続けたら?
いつか目を覚まさなくなったら?
胸が苦しい。
ツムギが起きていても寝ていても。
いつでもこの胸は、とても苦しい。
きみはいつでも死んでしまいそうだから。
「ノヴァイハの番の様子はどうだった?」
王城の奥、限られたものだけに読むことを許された秘蔵書を集めた書庫。そこで、竜王種が書いた書を読み漁っていたメロデイアは、傍に現れた現王ヘリディオフをちらりと見上げ、また本に目を落とした。
「眠ってたわ。わずかに起きては寝て、起きては寝ての繰り返し、ずいぶんたつけど私は未だに挨拶さえしていないわ」
「うむ、ならばノヴァイハの様子はどうだ?」
「どうもこうもないわ、あんな状態の、番を前にして平常でいられる竜人がいたら見てみたいわ」
ハッと鼻で笑ってまた紙をめくる。
あの番に刻まれた魔方陣が解ければ、多少の力業でもって魔力器の移動が可能なのだ。
「それほどもたないわ」
「…それは…どちらのことだ?」
「ノヴァイハの方よ」
まあ、そうなるだろうな。そう呟いてヘリディオフは力の入ってしまった眉間をもんだ。
「番は寝てるだけ、ノヴァイハは眠れもしないわ。いつ起きるかわからない番を待っているから」
メロデイアが口を閉じると、ぱらりと紙が捲られる音だけが部屋には響いた。
「最悪の事態はもしノヴァイハが荒れたら…その余波が番に影響するってこと。最悪死ぬか、そのまま永遠に眠ったままよ。そうなれば、…もう終わり」
パタン。と本が閉じられた。
また次の本をメロデイアは読み始める。
ヘリディオフは無言で部屋を後にした。
夢をみている。
起きたいのに、起きられない。
長い長い夢。
傍にはいつも薄いピンク色の髪の人。
知ってる人、それに凄く大事だっていってるの。
誰が?
私のーーーが。
ずっと待ってたって、会いたかったって
私はこの人のためにここに来たんだって。
教わらなくても知ってるんだ。
誰に教わらなくても…
わたしの魂が知ってるんだ。