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揺れる竜

番に朝食を与えることが、こんなにも大変な事だとは知らなかった。


ノヴァイハは耐えきった。

尻尾も鱗も出さなかった。

燻る甘い熱にため息が出るのは仕方がない。




一方のツムギも目の前で悶える美形を延々見させられて美形食傷気味だ。

平凡な顔の自分がこんな顔をしても、だれも何とも思わないんだろうな…むしろうわぁ…って思われるんだろうな。って思ったら少し、いや、かなり凹んだ。


美形め。


場違いな怒りがわいた。


マリイミリアが部屋を下がるとノヴァイハはツムギのベッドの端に腰を掛けた。


「まずはこれを。両耳につけてくれるかい?」

ノヴァイハのピンクに染まった髪に似たきれいな石が揺れるピアス。

「これは君の補助をしてくれる。まだ君は体内の魔力が安定しないから、長く話すと途中で寝てしまうかもしれないからね」


ツムギは差し出されたピアスを手に取る。まりょくってなんだろう?とは思ったものの…昨日、突然眠くなったことを思い出したからだ。

そして耳につけた。


「うん、とても似合う」


ノヴァイハは満足気に頷いた。そして「さあ、ではまず何から話そうか…」と私の手をとった。



そこからノヴァイハはゆっくりと丁寧に、今この状況に至った理由を説明してくれた。 大ケガをしていた私を保護してくれたこと。ここは竜人の住む竜人国だということ。

なんと、ノヴァイハさんもマリイミリアさんも竜なんだって!!

言われてもそんなにびっくりしなかったのは…なんとな~く?そんな気がしていたからかもしれない。

だって目が明らかに人じゃないもの。

そしてこの竜人国で重要視される番というものも説明された。


私は不思議なくらい落ち着いていた。


ノヴァイハの話を聞きながら。その大きな手に包まれた自分の手をみつめているとふわふわと幸せな気分にもなるほどだ。

そしてそのふわふわの中でこれは異世界トリップというものなのかな。

そう、ぼんやり思った。


「私の番は君だツムギ」

「私?」

「そう、昨日、君と私は名前を呼びあった。番うべき魂をもつ者は、お互いの名前を呼ぶことで、番として契約を結ぶことができる。そして契約が成ると雄に婚姻色がでる。この髪の色だ。君の心が大切にしているものの色が出るんだ。」


そう、なんだ…婚姻色があるなんてなんだか魚みたい。

裏山の川に泳ぐオイカワが婚姻色で赤く染まったとき一緒にみていたーーーは恋の季節だねって。


…あれ?誰がいったんだっけ?あのとき……

うーん、なんだっけ…

酷く散漫な意識を引き寄せる。

あっそうだ、番の話だった。


「じゃあ、つがいはなにをすればいいの?」

ノヴァイハに聞くとにっこりと笑って重ねていただけの手をぎゅっと握った。そして、そっと持ち上げて…

「なにも、何もしなくていい。ただ私の側にいてくれるだけで」

「でも…」

「時々は…」

私の声にノヴァイハの声が重なった。

持ち上げてた私の手に頬をそっとあてた。

「時々は触れ合ったりしたいけど…君が嫌なら我慢するよ」


そういってからやっぱり頬を染めてうるうるしていた。

なんだか解ってきたけど…多分ノヴァイハは照れ屋なんだと思う。




朝食の後、ツムギと話す前にメロデイアが作ってくれた魔道具をツムギに渡した。

ツムギが朝食を取っている間に先ほど剥がして渡した私の鱗で作ってもらったものだ。

メロデイアの才能は素晴らしい。

私は彼に助けられてばかりだ。


キラキラと私の体の一部が、ツムギの耳で揺れるのを見るのは、とても満たされた気持ちになる。


「これは君の補助をしてくれるーーー」

白々しい説明だ。

この魔道具は意識阻害の呪をきざんだもの。思考力を低下させ、記憶の奥底を探るような思考は出来なくなってしまうもの。

案の定ツムギは深く考えることもせず話を飲み込んでいく。


理解しているのかも怪しいほどにすんなりと。


君を補助してくれる。

死なないように。

君を助けてくれる。

感情の起伏に魔力器が引きずられないように。


けれど、本来の君とは違うものに君を作り替える魔道具。


これがある限り私は本当のツムギに会うことが出来ない。


どんな風に笑うのかな?

どんな風に泣くのかな?

何が好きで何が嫌いで

どこで産まれて何をしていたのか…



話を聞いてふわふわと微笑む君はとても可愛い。


まるで人形のように。



本当の君の心に私は触れたい。




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