スープと私
ノックとともに優しそうな年配の女性が朝食を運んできてくれた。
女性はてきぱきとベッドのうえに朝食を広げいく。
「ノヴァイハ様からツィー様とお呼びするようにと…」
「はいっ!みねまえ つむぎと申します!!」
緊張しすぎて、もの凄く元気な子みたいに答えてしまった。
…恥ずかしい…
「私のことはマリイミリアと、ツィー様のお世話を陛下より仰せつかりました」
にっこり。
目の端の皺が凄く可愛くみえた。
私もこんな風に歳をとりたいな。
そう思える素敵な微笑み。
「マリイミリアは見た目と中身の差が激しいからツムギも気を付けるんだよ」
見惚れてたらいつの間にか戻ってきてたノヴァイハがちょっと失礼なことを言っていた。
「マリイミリアと私は一緒に育った仲なんだ」
年がずいんぶん離れてるのに?そう聞こうとしたけれど
口元に寄せられたスープの入ったスプーンに意識を持っていかれてその問いは口から出ることはなかった。
「はい、どうぞ、ずっと食事をしていなかったからまずはスープだけで我慢してね」
キラキラ笑顔で微笑まれて『嫌とは言えない雰囲気』ってものを身を持って知ってしまった。
ここは、いやいやいや、自分で食べられますから!!っていう王道を…
ピンクの頭のキラキラ美形は私がスープを飲むことを微塵も疑ってない。
無理だ。
この状況で断るの無理だ。
ううっ…食べます…いただきます。
「おいしい」
ちょっと栗みたい味のするほんのり甘いミルクスープだった。
色は薄い緑だけど。
口の端についてしまったのを舌でペロリとなめる。
うん、やっぱり栗みたいな味。
横を見たら顔を真っ赤にしたノヴァイハが顔を口を押さえて猛烈照れていた。
縦に裂けたチョコミント色の目がうるうるだ。
ねえ、そっち!?照れるのそっちなの!?
朝食は大変だった。
少し困った顔のツムギにスプーンに掬ったスープを飲ませたその瞬間頭の天辺に雷が落ちたみたいに体が痺れた。
伏せられた睫毛とか、
濡れた唇とちらりとのぞいた舌
こくりとうごく喉。
私は思わず口を押さえた。
つがいが可愛すぎて辛い。
もう、可愛すぎて色々出てきそうだ。
鱗とか尻尾とか。
でも、ツムギは尻尾も鱗も無い人族だから竜人の番同士がするように尻尾をからませたり鱗を擦りあわせたりはできない。
それにまだ何も知らないツムギを驚かせてしまう。
顔をあげるとまたちょっと困った顔のツムギ
そうだ、
まず私がすることはこのスープを恙無く番にのませることだ。
動揺してこぼさないように。
それだけに細心の注意を払おう。
すべてはそれからだ。