婚姻色と想われるこども
「ノヴァイハ様に婚姻色がでたそうです」
朝食と共に前日に侍従から昨晩おきた出来事を聞くのが現王ヘリディオフの日課である。
「ほう?して色は?」
「ごく薄い赤のようです」
薄い色とは珍しい。
他の種族より多少性格が過激な竜人族は婚姻色も派手な色が多い。
婚姻色は主に雄にあらわれるもので体の鱗を番の好む色に変えるものだ。
人型をとるとそれは髪に現れる。
その昔婚姻色は繁殖可能な時にしか現れなかったというがそれを番の好む色を生涯継続するという一風変わった進化をとげたのはひとえに竜人族の番へ対するの熱い想いの現れと言える。
そう、我が番のムェロニミラウヒューデリアに名問いをして表れた婚姻色がこの鮮やかな赤だったときは驚いたものだ。
可憐な一輪花のような彼女の秘められた情熱を垣間見たようで胸が熱くなったものだ。
しかし実はこの赤が昔私を見かけた時に咲いていた薔薇の色だと聞いたときには彼女の艶やかな鱗を一枚一枚な…
いや、今は愛しきムェロニミラウヒューデリアから離れよう。
竜人の婚姻色は非常に華やかなのだ。
宰相のシルバーブルーも歳を経て薄くなりはしたが昔はもっと鮮やかな青だった。
「ふむ、なかなかに珍しい色になったということか。まあ、あやつがあの舌が縺れそうな番の名前を正確に言えるようになったことにも驚きだがな」
「それについてはマリイミリア殿が奮闘されていたようです。目撃していたものの証言によると、マリイミリアはノヴァイハ様の口を限界以上開くように広げたうえに舌の動きを良くするためと添え木を舌につけた後、可動の限界を越えるような動きをさせていたようです。
あまりにもノヴァイハ様の口から血が溢れていたため死んでしまうのではないかと他の竜人がさすがに怯えていたと証言があります。
またその上でニャルゲンドレギュスカの絞り汁をかけ、傷にしみるのか呻くノヴァイハ様の声をきいて、声ががよくなるというニャルルドドヒゲルデアの煎じ薬を桶でのませていたようです。
それらを全て目撃してたマリイミリア殿の番のヒューフブェナウは真っ青になって震えていたと。
非常に精神に負荷がかかったようで現在も治療室で治療中とのことです。うわごとのようにぬるぬがぬるぬるがと呻いていると報告がありました」
ニャルゲンドレギュスカ!?あのくそ不味い果実か。私も昔ムェロニミラウヒューデリアの名が言えぬときに試そうとして止められたことがある。
嘗めただけでも震えが来るほどの不味さだった。
僅かに目に入るだけでも激痛が走るというが…傷口にかけたのか。
それにニャルルドドヒゲルデアの煎じ薬とは…
あれも非常に甘苦く酸っぱい酷い味だった。しかも触れるとヒリヒリする液体。竜人の鱗がヒリヒリするなど通常は無いというのに…
あの液体を桶で。
あの液体を桶で。
ぬるぬるすぎてほぼ固形に近いあの液体を桶で。
ノヴァイハ…お前の本気が凄まじすぎるぞ…
しかし効果はどちらも眉唾なのだがな…
私も昔典医にいわれ非常に残念におもったものだ。
今はムェロニミラウヒューデリアの名も言えるが…
彼女の名を人伝に聞いた当時はこの世の終わりのように感じたものだ。
試せるものなら全て試そうという気になるほどには…。
「以上、西の離宮からの報告でございます。」
うむ、ノヴァイハは我が弟ながら番の名にかける心行きは素晴らしい。
だがな、マリイミリアよ…己の番を寝込ませてどうする。
そして…やるなら調べてからにしろ。
『ニャルゲンドレギュスカ』
滑舌がよくなると言われている果実。
外皮は硬く中の果実は赤。果実は空気にふれると変色する。
滑舌がよくなるというその効果は定かではない。
絞り汁が非常に滑り気が多いためそのような俗説が生まれたとされている。
絞り汁の色は紫。
味は苦味が強く非常に不味い。
傷口や目に入ると激痛が走るので使用には注意が必要。
しかしそのような効果の怪しいくかつ非常に不味いニャルゲンドレギュスカが未だに薬として流通する理由は非常に難しい名をもつ番へのアピールに使えるからに他ならない。
(例)
「君の素敵な名を美しく呼ぶためにニャルゲンドレギュスカを毎朝飲んだんだ。」
「君のためならニャルゲンドレギュスカを盥いっぱいだって飲んで見せるよ。」
『ニャルルドドヒゲルデア』
土竜の一種ルドドヒゲルデアの変異種。ニャルが名につくよう非常に粘りが強い粘液をまとっている。
乾燥させたものは煎じ薬として用いられるが煎じると非常に滑る液体となる。
味は甘味の後酸味と苦味が現れるため非常に不味い。また滑り成分と苦味と酸味はむすびついており、滑りを強くしようとすると味も悪くなる。
煎じた液体の色は黒。
薬としての効果は保湿。
声を良くすると言われているがその効果確認できていないが保湿効果はある。
しかし肌に煎じた液体を直接塗り込むと蒸発する最に生じる成分ヒゲルにより肌に炎症がおき鱗の艶がなくなるので使用には注意が必要。
飲むにあたり非常に苦痛を感じる味なので歌を好む番へのアピールとして使えるため効果が見込めないと判明した現在も未だに使用され続けている。
(例)
「君に最高の歌声を聴かせたくてニャルルドドヒゲルデアを煎じて飲んできたよ。」
(誤用)
「君を讃える歌のためならニャルルドドヒゲルデアの煎じ液の中で泳いでみせるよ」
竜人国世代を越えたベストセラー
『番に愛を伝える100万の手引き」
より抜粋。