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怯える竜

目を醒ました時に目の前には煙るようなピンク色がひろがっていた。


どこかで見たことのある景色…

いつも春になるとーーと見ていた。


ん?ーーってなんだっけ?


「起きた?」


頭の上から耳に馴染んだ声。

見上げると美味しそうなチョコミント色。

「ノーイ?」

なんで一緒のベッドにいるんだろ?

「起きられそう?なら起きて食事にしよう」

そういってノヴァイハは私の髪をすいて表になった額にキスをおとしてするりとベッドから降りて部屋を出ていった。


…え?


ノヴァイハはこれは何の映画のワンシーン!?ってことを平気でやってくる。

流石外国人は違うな…外国人?

でもなんで同じベッドで…

……

うわああああっ !!!


自分から誘うとか!

自分から誘うとか…!!

何をしてるんだ!?

私はあまりの恥ずかしさに布団に突っ伏した。


そもそも名前しか知らないのになんだってこんなにあの人に懐いてるんだ。

おかしいよ、おかしいよね!?

100%怪しい人物に一切の不信感や不快感を持たないこの状態は異常だよね!?


それにここはどこなんだろう?

私はなんでここにいるの?


私の家はーーーにあるのに。


あれ?ーーーはどこのこと?


ここはわたしのーーー



「ツムギ?」


わたしはツムギ?


「ツムギ?どうしたの?」


ーーーでしんだのに?


「私、死んだんだよ?」


なんでここにいるの?

私はーーでーーーにーーられて


なに?何をいってるの聞こえないよ?


「…ギ…ツムギッ!!!」


肩を捕まれてハッとなる。

ノヴァイハのチョコミント色の瞳が泣きそうだ


「生きてるよ!君は生きてる!!」


だってあんなに痛くて…

あんなーーーにぶつかって。落ちて、落ちて、おちーーーーーー



ぎゅうって暖かなものに包まれた。

頭の中がぐるぐるする。


「ツムギは生きてるよ…生きて私のつがいになってくれたんだ」


私はノヴァイハのつがいになったの


「つがいになったの?」

「うん」


そうか、私はーーーからつがいになったのか。


「なんで…泣いてるの?」


ノヴァイハは薄荷色の目からポロポロと涙をながしてた。

「…嬉しいから…かな」

「嬉しいの?」

「うん、ツムギが私のつがいになってくれて凄く嬉しいんだ」


そうか、泣くほど嬉しいんだ。


喜びにむせび泣く人を前にするとちょっと聞きにくいな…


「えーっと、つがいってなんのこと?」






ツムギは名問いの翌朝にも目を覚ました。

体調が良くなっている。

そう思うと心が弾んだ。


足早に続きの行くとマリイミリアが朝食をワゴンに乗せてきたところだった。

「まあ!ノヴァイハ様素敵な婚姻色!おめでとうございます!!」

「ああ、特訓の甲斐があった」

「うれしゅうございますわ」


マリイミリアと特訓の四日間を思い出してじわりと汗が出てくる。


あの四日間は大変だった。


マリイミリアに開きが悪いと口を限界以上開くようにされ

マリイミリアに舌の動きが悪いと舌の可動の限界越えさせられ

マリイミリアに滑舌がよくなるというニャルゲンドレギュスカの絞り汁をかけられ

マリイミリアに声がよくなるというニャルルドドヒゲルデアの煎じ薬を溺れるほど飲まされた。


記憶には赤と黒と紫しか残っていない。いや、青くなったヒューフブェナウの顔も覚えているな。


とにかく壮絶な四日間だった。


しかしそれを乗り越えて手に入れた髪の婚姻色はなにものにも替えがたい大切なツムギとの繋がりだ。


マリイミリアから朝食の入ったトレイを受け取ろうとしたときツムギの気が乱れた。

激しく乱高下するその異常さに慌ててツムギの元にもどる。


ベッドのうえのツムギはベッドの敷布を見つめ動きをとめていた。

くたりと力なく下がる頭、髪の隙間から見える首筋が病的に儚い。


「ツムギ!どうした?ツムギ!?」

声をかけるが反応がない。

「ツムギッ!!」

そしてぽつりと「わたし、しんだの」とつぶやいた。


思わず肩をつかんでさけんだ。

「生きてるよ!君は生きてる!」


その瞬間急激にツムギはの魔力器か激しく魔力を放ち始めた。


魔力暴走だ。

ツムギは通常腹にあるはずの魔力器が頭にある。

それは感情の影響力が強いということ、そして施された魔力増幅の呪があることにより起こる事態は…


頭に浮かんだ未来のあまりの恐ろしさにツムギをきつく抱き締める。


「お願い、ツムギ落ち着いて、わたしの声を聞いて、 生きてる。君は生きてる。大丈夫、もう痛くないよ、もう怖いことは何もない、何もきみを傷つけないから、お願い、お願い、誰か!!!」


抑えきれないと悲鳴をあげた瞬間、よく知った魔力が私とツムギを包んだ。

その力を借りてツムギの頭のなかで暴れる魔力をむりやり押さえ込む。

そして魔力器の回転も強制的に遅くする。


「お願い、死なないで、ねえ、ツムギ君は生きてるよ、生きて私のつがいになってくれたんだ」


しなないで、しなないで。

この腕の中で散っていかないで、


「…つがいに…なったの?」


腕の中から返ってきた返事にあまりの安堵に力が抜けおちた。


「うん」


涙がボロボロと目から落ちるのがとめられない。。


「なんで…泣いてるの?」

不思議そうなツムギの声

顔は涙で全然見えないけれど。

不思議そうな顔もきっと可愛い。


「嬉しいから…かな」


そう、本当に心の底から嬉しいんだ。

涙をぬぐってそう笑ってみせた。


ツムギはちょっと気まずそうな顔をした。

ほらね、そんな顔でもツムギは可愛い。


「えーと…つがいってなんのこと?」

そういえば人族には番がいないんだった。


「うん、それは後で説明するからまずは朝ご飯を食べようか」


持ってくるね。

そういって部屋を出る


ドアの前には青い顔のマリイミリアと同じく死にそうな顔のメロデイアがいた。

きっと私も同じ顔だ。

もっとひどいかもしれない。


「メロデイアありがとう、君の補助がなければ多分無理だった。」

「ああ」

苦虫を噛み潰したような顔でメロデイアはうなずいた。


怖かった、怖かった、怖かった、怖かった。


メロデイアの腕を掴む。

掴んだ私の手が瘧のように震えた


「私の…私の腕の中であのこの頭が破裂しなくて本当によかった」


メロデイアが肩を叩く。

昔してくれていたように。


「どうしよう、メロデイア」


私の番は未だに死の淵に座っているままだ。





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