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死にたい竜


ドオオォン!


かすかな音ともに僅かに城が揺れた。


竜人国宰相ヌェノサスは書類を裁いていた手をとめた。


久しぶりに彼が荒れている。

カタカタと揺れるインクの壺をそっと重要書類から離した。


ここ数年は眠るように静かだったというのに…何かあったのだろうか。

ペンを動かしながら揺れの原因なる想いを馳せる。ヌェノサスの居る執務室の下、地下深くに踞る友に。


絶望の淵に立ちながらもわずかな理性で踏みとどまる大切な友人。


誰よりも番を愛している憐れな竜。


逢えぬ番を求めて求めて求めて半ば狂ってしまった憐れな友よ…どうか…どうか頼むから…



終焉の竜になってくれるな。








ドオオォン!


己の張った結界に伝わる衝撃にハッと我に返る。


唐突ながらも久しぶりの目覚め。

とても幸せな夢を見ていた気がする。


あたたかく柔らかで甘い幸せな夢。


衝撃はいつの間にか出ていた尾が振られたためだろう。


開いた底光りする紫色の瞳にうつるのはほの暗い地下の岩壁とそこに刻まれた文字のみ。

手を動かそうとするとギィンッと鎖が悲鳴をあげた。

どうやらずいぶんと正気を失っていたらしい。


竜人ならば必ず居る運命の番と出合えることを待って500年。

なかなか出会えぬ番を探して旅に出ること300年。

探すことを諦めて竜人国へ戻り、しかし希望を捨てきれず…

新たな卵が雛が孵えるのをまち、孵るひなを見るたびに絶望し…

瞳にうつる愛し合う番同士を見るたびにどす黒い嫉妬に胸を焦がし続け100年が経った。


悠久に近い時を生きる竜種、その歴史上千年の時を経て番を得た竜は今まで居ない。

皆千年と待たずに孤独に狂い時の竜王に討たれるからだ。


竜種の中でも一際長命な竜王種。

寿命だけでなくその力も桁外れな竜王種が狂えば…


世界が終わる。


自害をすれば体を構築する力が大爆発を引き起こし、死を嘆く精霊が世界を呪う。

自害すら出来ず、だだ老いて死ぬ以外の方法はなく、老いて死ぬには残す時間が永すぎて…


徐々に狂う精神に引きずられ力と己の側に居た妖精が変質しはじめたのはいつ頃だっただろうか…


危険を感じ、自ら城の地下のに己を縛り封じて幾年…どれほどたったのか…もう思い出せない。


手枷が嵌まっているということは気付かぬうちに暴れていたのだろう。

他者に危害が及ぶとき手枷が発動するように兄王とともに術を施してあるのだから。



ふうっ…とついたため息は夢の余韻かわずかに甘さを感じさせるような気がした。


夢の中で感じていた甘い柔らかな何かを思い出そうと暗闇の中で紫に光る瞳をぱちぱちとしばたかせた。


くんっと鼻をならしてみるが冷たい土の匂いしかしなかった。


幸せな夢などもうずっと見ていなかったのに…。


竜ならば皆が等しく与えられる番。

けれど、自分の番は現実どころか夢にさえ出てきてくれない。


ドコニイルノ


虚ろだとわかっていても、夢だとわかっていてもなお甘い、私の番。


想うだけで幸せになれる私の唯一。



愛してる

あいシてる

愛したい

愛さレたイ

愛シい、愛しイ私の番。


どろり、ぞわりと蠢いた汚濁のような闇が体にまとわりつく。


もう、あなたを探しに行けないほどに堕ちてしまった私など


あなたにふさわしくはないのだろう。


ダカラ会えないのカ?


もう私に出来ることは産まれてくるこの世界を守ることだけだから…


じゃらり、ガシャリと鎖がなる音がする。


だから


ダカラ


アナタノ居ないコノ世界ヲ壊して…


壊して…コワシテ…コワシテ





ギシャァァァァア




ああ、遠くで竜が啼いている。




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