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竜のしにかけつがい  作者: ちかーむ


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守りたい竜

「いてててて!!おい、やめろ!!お前は俺の母ちゃんか!?」

「我々に他種族のような飼育行為を行う母親という存在は基本的に存在感しませんよ?」

「あほか!知ってるわ!!」


呆れた声と共にぱっと手を離され、レーゲンユナフは思い切りねじりあげられてじんじんと痛む耳を手で押さえながらほえた。


竜人は卵を産んだら王城の地下に置きに行き、あとは放置するだけだ。そのため子育てをしない。

生まれた竜人は孵化してすぐは竜型をとり世界を知る。そのまま竜として生きる者、人型をとるもの、皆が己の好きなように生きる。

人の形をとってはいるか竜人は本能が強い、一部の個体を除いては。

ノヴァイハやメロデイアのような竜王種の卵と共に在った場合は竜王種の卵から溢れる高濃度の竜気を吸収し特異な能力を持つ特殊個体となる。マリイミリアとヒューフブェナウ、ミルエディオとレーゲンユナフがそうだ。レーゲンユナフはノヴァイハたちよりも早く孵化をした個体であるが。その恩恵は大きく他の竜人よりも圧倒的な強さを持っている。マリイミリアは竜人としてあり得ないほどに番以外への庇護欲が強い。そしてヒューフブェナウもそれを許容している。それが可能なのは2人が竜人としては特異な性質を持っているからだ。


普通の竜人ならば、番しか愛さないし番が自分以外に愛を注ぐのを許しはしない。


普通の竜人ならば。


⋯⋯⋯そう、あの幼い竜を己の腕と尾の中で囲ってしまえたらどれだけ⋯⋯


レーゲンユナフは魅惑的な想像に引きずられるがミルエディオにじっとりとした視線を送られていることに気づき我に返る。


「いやすまんすまん、あー聞いてた、聞いてたぞ? 聞いてたが⋯お前の言葉が頭に入ってこないだけだ。可愛いが過ぎて」

無意識にも幼い竜人が去ってしまった扉を見つめるその姿は恋を知ったばかりの竜人そのもの、うっとりと瞳をうるませ、ほうっ⋯と悩ましげな溜息をついた。


「大きな図体で頬を染めるおっさんなど見たくないのですけどね」

ミルエディオは呆れたように溜息をついたがレーゲンユナフの視線は扉から離れることはなかった。

「見たかあれ、可憐ってあーいうことを言うんだな、髪の毛なんか真っ白でサラッサラのキラッキラ。なんだあの可愛さ、もう凶器だろ、あのキラキラに刺されて死ぬなら本望だな。あーやばい、可愛すぎて語彙が消失するわ、喩えるとか無理だろ、むしろ可愛すぎて喩えようがない。

だが敢えて云うならば⋯この世の可愛いを全部集めたらあーゆうことになるんだな。うむ。俺は世界の真理を知ったな。

やっべー可愛い。はぁ⋯見たかあの可憐さ?あ、いや、やっぱり見るな、番の可愛いが減るいや、減りはしないが俺が嫌だ。はぁ、本当に可愛がすぎ⋯いてててて!!!やめろ!耳がもげる!!」


本日2度目、既に赤くなった耳をねじり上げられレーゲンユナフは悲鳴を上げた。

本気で耳がもげそうになっているためだ。


「お前な!人の耳を取ろうとするなよ!!」

扉に張り付いていた視線を向ければミルエディオはニッコリと笑顔を浮かべて耳から手を離した。

「安心してください、ちぎれても簡単につけられますから。それに世界一かわいいのは私の番です。それは譲れませんからね。⋯貴方を見れば一目瞭然ですけれど⋯あの子が番ですか?」

「あぁ、そうだな」

あっさりと、レーゲンユナフは一切隠すことなく事実を認めた。

まるでそれが至極当たり前のことだというように。

けれど、だからこそミルエディオには疑問だった。

ルエルハリオとレーゲンユナフ双方ともにお互いが唯一だと認識をしている。

ならば、竜人が番に出会った瞬間にするはずの行動をなぜしなかったのか。


「なぜ名問いをしなかったのか聞いても?名問いさえしてしまえば今すぐにでも番に⋯」

「はぁ?なれるわけねえだろ」

ミルエディオの問いかける言葉をレーゲンユナフは言葉を被せるようにして遮った。

そして酷く顔を顰めた。まるで酷い味のものを食べたかのように苦々しげに。

「ふざけんなよ幼妻ってのが許されるのは物語の中だけだ。それも人族みたいに寿命がくそ短いやつらだけの話だ」

レーゲンユナフは眉間にシワをよせたままミルエディオを射殺さんばかりに睨みつけ、そしてそんな自分の行動に恥じるような顔をした後、大きすぎる衝動を堪えるようにきつく目を閉じ、深くため息を吐いた。

「竜人は番になれば寿命は強い方に引きずられる。あいつと俺なら確実に俺の方が強い。お前だって解るだろ、あいつは幼すぎる、元々の竜人としての能力もそう強いほうじゃないだろう?」

「そうですね、まぁ、そんなことは治癒術師団に入っている時点わかるでしょう」

治癒術師となる竜人のほとんどは戦闘には向かない。

戦闘に向かないからこそ細かな作業ができるとも言える。力を誇示する傾向がある竜人の中において、治癒術が使える事自体が特異な能力と扱われるほど竜人は純粋な力の強さを好む傾向が強い。

ミルエディオの言葉に一度頷き、レーゲンユナフは閉じたままだった瞳をゆっくりと開きキロリと縦に割れた瞳孔で虚空を見つめた。


「竜人族が強さを求めるのはなんのためだ?圧倒的優位に立った方に名問いをする権利があるからだろ。強さは番契約の主導権を握るためだ。お前だってそうだっただろう?」


同意を求める言葉にミルエディオは確かにそうだと頷いた。自分の力は強くない。けれど、それでも必死になって身体を鍛えたことをこの昔なじみは誰よりもよく知っている。

竜人は性別を己の意思で選べるからこそ雄か雌どちらでいるか固執する傾向がある。あの時ミルエディオはあくまでも雄で在りたかった。


「雄として在ることを選んだ俺達は番に守られたいんじゃねぇ、守りたいんだよ。まだ尻に殻がついてるような幼竜なら尚更だ」

レーゲンユナフは言葉をとめた。

そしてミルエディオは気づいてしまった。目の前の竜人の苦悩に。

「⋯⋯⋯俺が今名問いをすればあいつは俺の寿命に引きずられる。

俺に残された時間とあいつのこれからの時間なんて比較にならねぇんだよ。俺は与えたいんだ、そのために世界中を旅した、守りたいんだ、そのために強くなったんだ、俺は番から何一つ奪いたくない」


レーゲンユナフの視線は何よりも真っ直ぐで、何よりも強かった。


「俺は全ての害悪から番を守りたい。あの子に誰よりも害なのは⋯⋯俺自身だ」



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