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竜のしにかけつがい  作者: ちかーむ


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知る竜

石畳をふれた場所から黒く染めながら広がるどろりとした紫色のヘドロ状のものがぼこりと膨らみ、生まれた気泡が割れるとブシュウ…と紫色の煙が吐き出される。

粘菌のような生き物のような奇妙なそれは時折ぬるりとした触手を伸ばし、小さな虫や動物を補食し、さらに成長していく。


「決して触れるな、討伐には炎を使え、浄化ができる者は浄化を」

まだ若い竜人に指示を飛ばしつつ時折探索魔術で呪詛の位置を把握し、次々と討伐していく。


街の中心部にはひときわ大きく成長したものが巣食っていた。


あたりは呪詛から吐き出された障気で霞み、植物は枯れ、黒く染まったものにふれると煤のように崩れた。

「すごい…」

横にいた年若い竜人がぽつりと呟いた。

竜王種が撒いた呪詛を見るのは初めてだったのだろう。


呪詛は蒔かれた種のようなものだ。

ノヴァイハ様の感情の澱みが凝り地上に墜ちたもの。周りのものを飲み込み成長し瘴気を放ち膨らんでいく。


だだのどろりとした毒々しい紫色の物体、凶悪な見た目もなにもないというのに、根源的な恐怖を抱かせる。ソレは大きく育てば竜ですら容易く補食するモノだからだろう。


突如街を見下ろせる丘に設置された転移陣から現れた竜体のノヴァイハ様は、王城へと凄まじい勢いで羽ばたいた。

その時に溢れた呪詛が街のあちらこちらを凄まじい速さで侵食している。


とはいえ、 ヒューフブェナウ は慣れたようにそれを片付けていく。小さいものはまるで羽虫を手で払うようにかるく、大きくなりつつある呪詛は結界でかこみ、その中で炎で焼きつくす。


「ヒューフブェナウ様は慣れておられるのですね」

年若い竜はそう感心したようにヒューフブェナウの手つきを見ている。

「ノヴァイハ様が封印される前はよく癇癪をおこしては呪詛を撒き散らしていたからな」

そう、この呪詛討伐の忙しささえ懐かしい。

視界の端に写るリーデオルグテマも緑の髪を靡かせながら高笑いをしながら嬉々として討伐を行っている。

番をもつ竜人達もここぞとばかりに討伐に参加している。


今日のようにまだ小さい欠片のようなノヴァイハ様の呪詛は番にアピールする最適な材料だ。


竜に恐怖を与えるものなどほとんど存在しないのだから。


ヒューフブェナウの仕事は呪詛に対して過剰戦力になりすぎている、無駄に興奮している竜人の制圧も含まれている。

むしろそちらの方が比重としては重い。

この後は確実に悪のりした若い竜達の尾を掴んで投げ飛ばし、地面に沈める方に忙しくなりそうだ。


しかし、懐かしい。


我が番のマリイミリアもそれはもう愛らしく微笑みながら呪詛を撒き散らすノヴァイハ様に思い切りよく拳をめりこませていた。

いつ思い出してもあの躊躇いのない腕の振りはとても愛らしかった。


ノヴァイハ様が閉じ籠もりここ数百年はずいぶんと静かだったのだとようやく実感する。

封印されていたとはいえ、常に荒ぶる竜の気配が側にあるのならば仕方のないことだったのかもしれない。

そのノヴァイハ様に番が現れた。

めでたいことだ。

かつて撒き散らした大量の呪詛に比べればこの程度の呪詛など玩具に等しい。


「この程度の呪詛ならばどうということもないが…これがもう少し育つと厄介だ。弱い竜なら飲み込まれて溶かされる。あまり気を抜くなよ」

「はい。竜をも喰らう竜王種の呪詛な…うわぁっ!!」

話していた若い竜の手首がジュウッと音を立てて黒ずんでいく。

咄嗟に本体を燃やそうとするが、隠れるように角の壁にへばりついていたソレはヒューフブェナウが手をだす前に光に包まれて消えた。


「いやぁねぇ、竜王種が皆こんなもの撒き散らすと思わないでちょうだい。少なくとも私もヘリディオフもこんな訳のわからないもの撒き散らさないわよ」

ふわりと音もなく現れた波打つ白い髪の持ち主は心外だと言わんばかりに赤紫色に染められた爪でピンと兵の額を弾いた。

「す、すみませんメロデイア様…」

ジュウジュウと音をたて障気を放ちながら燻る兵の手首にメロデイアが手を翳すと黒い煤のような呪詛は音もなく消えた。


「この呪詛はあいつの性格よ。ただのちょっとした呪詛がノヴァイハのじっとりして粘っこい性格あらわしてこんな形してるだけよ。あと無駄に呪詛が強いのもあいつがアホみたいに強いからってだけよ」

「強い…から…」

呆けたように元にもどった手首をさすりながらその竜は呟きながらメロデイアを見上げた。

「能力も力も歴代最強。なのに精神は歴代最弱なのよねぇ…」

道化がかった身ぶりをするメロデイアにヒューフブェナウは呪詛を潰しなから話しかけた。

「いったいなにがあったんだ?」

ここに居るということは問題はないということなのだろうが、王城が騒がしかったのはつい先ほどのこと、突然放たれたブレスで1部分倒壊している。


「レーゲンユナフがノヴァイハの番を食いかけたのよ。」

ヒュッと息を飲む音が聞こえる。

メロディアはすい、と爪先で宙に陣を描いていく。

「原因は調査中、まあどう考えても番関係ね、まさかあの食道楽に春が来るとはねぇ。お嬢ちゃんは無事⋯とは言い難いけど治療中。

レーゲンユナフも私がお嬢ちゃんを救出してる時には正気に戻ってたわ。ノヴァイハに消し炭にされてたけどね、ま、あのくらいどうってことないでしょ。

はぁ〜いやになっちゃうわ、最近忙しすぎよ!」


怒りながらも広範囲の浄化陣を展開していく。「お肌があれちゃうじゃない!」呪文とは異なる言葉を紡ぎながらも陣は違うことなく展開していく。

浄化の発動と共に散る竜気の粒子の光を纏ったメロディアの

髪がふわり、と魔術の展開とともに拡がる。

息をするように複雑な術式を扱うその姿は純粋に美しい、ノヴァイハ様とはまた異なる圧倒的な強さに対する畏怖。


「ひとまずは…って感じ。ノヴァイハもレーゲンユナフもね、今は」

シャンと鈴の音のような音が響き、あたりに広がっていた瘴気は全て浄化されていた。

「そうか。だが、大丈夫だろう」

「え?」

「番がそは側にいるのならば、大丈夫だ」

「はぁ?なによそれ」

メロデイアは嫌そうに顔をしかめた。

「流石は雄竜の鏡、レーゲンユナフ様!」

感動しました!キラキラとした表情でレーゲンユナフを僅かにまだ若い幼い竜人達の視線を受ける。

まだ番に出会っていない竜人の瞳は真っ直ぐだ。

目の前の砂竜らしい金茶の瞳とは大違いだ。

「短絡的過ぎるわ。」

「番がいるならば問題ない。狂ったとしても番に狂うだけだ。」

「なにそれ単純過ぎるでしょ」

「お前は難しく考えすぎだ。」

嫌そうな顔をした友はこれ以上の会話をする気がないとばかりにこちらに背を向けた。まるでうっかりケロルが居るのに気づかずに手をついてしまった時のマリイミリアのようだ。



さて、こちらもはしゃぎ過ぎている奴等を軽く鎮めに行くとしよう。













沈めに。


レーゲンユナフさんは基本的には無言でボコるタイプです。

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