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帰還する竜


羽ばたく度に砂粒程だった友が見えてくる。

あそこは西の離宮の庭園の先、荷物を運び込むための大きな広場。


なぜだ?

そこは、ツムギがいけないはずの場所だ…

ああ、やはりノヴァイハの愛しい番は結界に干渉できる力があるのだろう。


広場には灰色のような白い鱗の竜がいた。

久しぶりにみるレーゲンユナフの竜体。

あれは何をしている?

あぁ、遠くてよく見えない…

そばにはメロデイアとマリイミリアだろうか?

何かしらさけんでいる。


メロデイアの手がきらりと光り、灰色の竜の喉に触れた。

その瞬間、途絶えていたツムギの気配が僅かに戻った。



…え?



ノヴァイハの時は完全に止まった。


どういうことだ?


何が起きている?



なぜレーゲンユナフの腹からツムギの気配がする?



頭は理解することを拒否するが、竜の本能は衝動のまま雄叫びをあげた。

その鳴き声につられるように怒りが満ちる。

番を奪われた怒りに真っ赤になる視界とは別に、切り離されたかのような思考が嫌だと叫ぶ。



解るのに解りたくない。



なんで、なんで、なんでレーゲンユナフ。


喉を裂かれ赤い血を喉と口から迸らせのたうつ長い尾が美しい庭を壊していく。

裂かれた喉の黒い隙間へ手を埋めているメロデイアの白い髪が真っ赤に染まっていく。

その赤い飛沫と共に探していた気配が溢れ出る。



なんで…



頭が真っ白になる。

無意識に幾つもの呪詛が羽ばたく度に舞っていく。


あとひとつ羽ばたけば着く、そのとき赤い血にまみれた白い手がメロデイアの腕に捕まれて出てきたのを見た目瞬間、ブチりとなにかが切れた音がした。


勢いよくぬるつく赤い液体と共に引きずり出されたツムギを抱くメロデイア。


そして、考える間もなく灰色の竜を尾で凪ぎ払いう。


「グゴボッ…」


濁った音と一緒に赤い血が舞う。


あぁ、汚い、ツムギが汚れるじゃないか。


こんな汚いものなんて、灰になって消えてしまえ。



カッと熱い塊を喉から吐き出す。


ブレスの直撃をくらい炭の塊になった竜がどすんと落ちた。


落下音に舌打ちをするとブレスが歯の隙間かからもれた。


忌々しい、消し炭にし損ねたか。


けれど今はそんなことよりも…


荒ぶる竜気を抑え人型をとってメロデイアの腕から血や唾液やその他の液体にまみれたツムギを奪い取る。


そして素早く魔術で浄める。

竜の体内で作られる高濃度の魔素を含んだ体液は人には毒だ。


ツムギの表面は無事だ。


胃の中に入れられたとすれば、ノヴァイハの結界がなければ今頃、粉々に砕かれ、溶けて魔素として吸収されていたことだろう。


ツムギにかけた結界はツムギを守った。

確かに守った。



表面だけは。



人間は脆い。

わかっていたのに。

ノヴァイハはぽろぽろと涙を流した。


まさか、自分の強固な結界を編んだ巣からツムギが出るなんて想定もしていなかったから。

その上、他の竜の体内に入ることなど想定していなかったから。


くたりとしたツムギの体をそっと抱き上げる。

竜の形の灰を背にすると城の方よりミルエディオが走ってくるのが見えた。



「番であるツィー様をこんな目にあわせてしまうなんて…不甲斐ないにも程がありましてよ」


マリイミリアの声が突き刺さる。本当にその通りだとノヴァイハは思った。


自分はなぜ離れてしまったのだろう。

ツムギは誰よりも弱いのに。

浮かれていたんだ、番へ何かできるということに。


羨ましかったのだ。


目の前で幾度となく繰り広げられていた番への求愛行動が。

想い想われる者同士が交わすそのやりとりに。

いつか自分も…そうおもって、想い続けてそして、いちどは諦めた。


それが目の前に差し出されることのなんと甘露なことか。


本当にツムギがそれを望んでいるのかも確かめることもなく、飛び出してしまった。


だからこんなことになったのか。


求愛行動をする相手がいるとこに浮かれた己が悪いのだ。

力を過信していたから。


誰にも奪われないと…愚かに思い込んでいたから。


そっと協力な治癒の魔術陣のひかれた布の上にツムギを下ろす。

ミルエディオの指示のもと運ばれていくツムギの後をついていくしかなかった。


無力な自分を噛み締めながら。




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