護りと竜
ツムギの異変を察知して城まで転移しかけたが、その儚く愛らしい気配がブツリと消えたことに気付き、ノヴァイハは城の手前で転移を取り止めた。
転移か隔離か…それとも…
数多の可能性を思い浮かべながら感覚を研ぎ澄まし魔術のわずかな残滓を探る。
己が放出する魔力が妨げになって草原に咲く小さな小さな花のように見落とさぬよう、羽ばたきを最小限に抑え微かな番の気配を探す。
「くそっ!」
まるで、何かに阻害されているようにツムギの気配を手繰れないことに苛立つ。
誰が私の番を隠している?。
荒ぶる感情を咽にのせて吼えると薄氷か割れるような音があちこちで聞こえてきた。
怒りのまま発された竜気があちこちの巣に張られた障壁を破け散った音。
隠されたものが晒される、驚き、怒り、恐れ…
辺りは雑多な感情と気配に満ちる。
けれど…
けれど、そのどこにもツムギの気配はない。
どこだ、どこにいる?
ツムギがこの世界から居なくなっているわけではないことは解っている。
繋がりはまだ己のもとにある。
ならば、荒れる竜王種の激しい竜気にも負けぬ強靭な結界の中に閉じ込められたのかもしれない。
許せない…
ツムギを隠して、閉じ込めるなんて。
ギリリと牙が鳴る。
許せない、ゆるせない。
私だってまだそんなことしていないのに。
大事に大事に包んで守って、ひとりにすると心が痛みやすい人族が弱らないように、本当は誰にも見せたくないのに、閉じ込めて自分だけのものにしたいのに、沢山たくさん我慢しているのに。
許せない。ずるい、ずるい、ずるい。
怒りに煮えた頭をなんとか冷静に動かそうと大きくため息をつく。
落ち着け。
ツムギの体に周りには強固な結界が張ってある。
獣人族や人族という脆弱な種族が番だった場合に施される強固な結界。
もしも、万が一うっかり竜体で寝返り打って潰してしまわないように、過去の竜達が研鑽し続けた竜人族の粋を極めた強固な防護結界だ。
万が一爪先でひっかけてしまっても裂かれることはないし、くしゃみと共にうっかり出てしまったようなドラゴンブレスを浴びても暖かいくらいで済む。
だから、今のツムギは例え火口に落ちたとしても死ぬことはない。
ましてや剣で貫くことなどできない。
しかし、例外もある。
本当に、心底気を付けているから…そんなことにはならないけれども、竜になった私がうっかり噛んでしまったとしても、今のツムギはちょっと傷がつくくらいで済む。
竜の牙や唾液は魔素干渉力が強いために結界が融けてしてしまうから、ちょっとくらいは怪我をするけれども…
だから、ツムギはあのときのような傷を負うこともなければ死ぬこともない。
はぁーとノヴァイハは大きく息をはく。
闇雲に探すのではなくツムギ最後にいた場所を探る方がいいだろう。
ノヴァイハはすでに目視できる場所にある王城へと向かって羽ばたいた。
3つの竜気が集う場所、友が集う場所へと向かった。