踏む竜
マリイミリアは魔術局と医務室の間にある小さな庭園の前で足をとめた。
進む先、その路の片隅に華やかな布の塊があるのだ。見覚えのある布と豊かにうねる白く輝く糸の束。
さて、どうしようか…と一寸考え、そして心赴くまま踏むことにした。
ぶき゛ゅる
なにがあっても躊躇ってはいけない。
捩じ込むように踏むべし。
ぐえ、と潰れる瞬間のケロルド・ドドーリアに似た音を立てて潰れた布。
けれど、 布に付随していた白く波打つ髪が床に拡がり、結果として余計に歩きにくくなったことにマリイミリアは眉をしかめた。
その上布は余計なことも言ってくれる。
「ぐっ…重っ!密度が!密度が濃いわっ!!」
確かにマリイミリアの足のしたでもがく竜人は素早さに特化した砂竜。
それに比べ地竜は本体も大きく重い。
それは実だが…
「メロデイア、レディに体積の話は失礼ですわ。それにここで寝られるとお邪魔でしてよ?」
ひそかに大きすぎる本体がコンプレックスな身としてはメロデイアの言葉は刺さる。
特に己よりも数倍小さく軽い竜となればなおさら。
踵に多少の負荷もかけつつぐりぐりと抉るように踏んだあと淑やかに足を引いた。
「寝るようなことになったのはそっちのせいじゃないの」
ゴホゴホと咳き込みながら起き上がったメロデイアを見上げながら、立ったら立ったでこれもまた失敗だったかもしれないとマリイミリアは思う。
マリイミリアの豊かに波打つ髪はすっきりと整えられたヒューフブェナウの髪とは異なり非常に幅をとる。
一言で言えば邪魔だ。
「少し切ってしまっても?」
「ちょっと…いきなり訳の解らないこと言わないでほしいわ。しかもその鋏は剪定鋏じゃないの、嫌よ、絶対嫌」
目線だけで狙われているのが髪だと解ったメロデイアは慌ててマリイミリアから距離をとった。
そんなメロデイアに小さな刃の剪定鋏をチョキチョキと鳴らしながらにっこりとマリイミリアは微笑んだ。
「まあ、そう減るものでもないでしょう?貴方の髪は少しすっきりとした方が宜しいかと思いますわ」
「明らかに減るわよね!?すっきりさせたらどう考えても減るわよね!?」
心底嫌そうな顔で反論するメロデイアにマリイミリアはにっこりと笑ったままだった。
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