表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/134

噛まれた私


痛いという、感覚は驚きすぎると感じないと聞いたことがある。

脳が興奮物質を大量にくつるためだと。


それは、捕食される生き物が逃げるために必要な能力。

痛みは動きを妨げるから、だから感じ無いようにして、その場から逃げるのだと。


逃げる…?

逃げられるの?

こんな大きな生き物から…


目の前には、大きな爬虫類の口元だけが視界いっぱいに広がっていた。

近すぎてまるで岩のようにしか見えないその口に、歯の隙間に私の腕は挟まれている。

手の甲にふれるのはぬるりとした感触、目の前にはごつごつとした、けれど滑らかな鱗、鋭い歯は一本が一本が物凄く大きい。

そして、その歯の奥に私の手がある。ぬるりときつく握りしめた拳に触れているのは舌か、歯茎か、わからない。


大きな歯の隙間に嵌まっているだけなのか、それとも、既にその先が千切れているのか…


指先の感覚は幻想なのか、それとも現実なのか。


やけに冷静な感覚だった。

頭の中は真っ白なのに。

どうでもいいことばかりがものすごい早さで巡っていく。


目の前のものが近すぎて何だか解らない。

離れてみたら何だかわかるのに。

離れられない。

だって、私は噛まれてるから。


噛まれている。


そう、改めて認識した瞬間、


ヒュッと喉の奥が奇妙な音を立てた。

今さらながら息が止まっていたことに気づく。



息を、そうだ、息をしなくては。



そう思っているのに咽は動きを止めたまま動こうとしない。

まるで、頭と体がすっかり別れてしまったかのように。


思考は奇妙なほど冷静に空回り、瞳は私の腕を噛むその口の繋がる先をたどる。


ゆっくりと、大きな大きなその生き物、見上げるとその先にギョロリと大きな目が。

その縦に割れた瞳孔とかちりと目があったその時。


再び、今度はヒュッ、ヒュッと2度風を切るような音が私の咽から生まれた。


その、音に反応したのか、わすがに恐竜の歯が動いた。本当にごくわずかな動き。

けれど、人間にとっては大きな動きだったのかもしれない。


噛まれたままの腕が、ごきりと鳴った。


ごきりって鳴った。


どうやら、歯のこちら側とあちら側はまだ、繋がっているらしい。

そして、再びごきりと鳴った瞬間、腕に奇妙な感覚が走った。



熱い


まるで、焼けるように腕が。



痛みを熱として認識した瞬間、酷くゆっくりと感じていた私の時間が急に動き出した。



「あ、あ…あ…」



熱い、イタイ、腕が熱い、私の、私の、腕?そう、腕が…



腕が痛い。

大きな口に、食べられてしまったから。




「いゃぁぁぁぁぁぁ!!!」







肺にたまった空気を全て出すような叫びが聞こえた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ