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腕と私



なにかの鳴き声のようなその音のした方を見ると、そこにはレーゲンユナフさんがいた。

そして、レーゲンユナフさんの前から去っていく、おそらく声の主だろう大きな犬とその背中に乗る誰か。


その人は一瞬こちらを振り返ったような…



「そんな所でかくれんぼか?」


声をかけられちょっと恥ずかしくなる。

ガサガサと無理やり狭い隙間から這い出し、あちこちについた小枝や葉っぱを払う。



「お前さん案外お転婆なんだなぁ」


呆れたように言われて思わず照れ笑いをしてしまう。

こんな道というか茂みの隙間から出てくるなんて、本当に誤魔化しようもなくお転婆そのもので。頭からはらりと小さな葉が落ちていくのが余計に恥ずかしい。


私は照れ笑いで誤魔化し、コホンと咳をひとつついた。


「レーゲンユナフさんはお仕事ですか?」


いいながらレーゲンユナフさんへ近寄ると、レーゲンユナフさんは困ったように後ろに一歩下がった。


そのもっさりとした熊のような姿には似合わない行動に思わず首をかしげると、レーゲンユナフさんは一層困ったように苦笑いをした。


「お嬢ちゃん、ちょっとそこで止まってくれ。ノヴァイハが今城に居ないだろう?竜人ってのは、留守中に番の居ない雄が求愛中の雌に近寄るのを良く思わないんだ。」


そういえば、ノヴァイハと前に雑談しているときに、『出来れば雄竜人には近づかないでほしい、特に髪の白いものには…』っていっていた気がする。


それって、このことだろうか?


「俺は嫉妬に狂ったノヴァイハに噛み殺されるのは遠慮したいんでな、お嬢ちゃんはこっちに来てくれるな」


冗談なのか何なのかわからなかったけれど、近寄るのはやめて、すこし遠い所からの会話を試みることにした。

話しずらいけど。


「レーゲンユナフさんはノーイが居ない時も出入り出来るんですか?」


そこ。と指差したかなり先には先ほどの場所からつづいている鉄柵と扉があった。


「ああ、出来るぞ。ここの離宮の守りはお嬢ちゃん専用だ。ノヴァイハが居ない時、特定の場所以外は中に入れないからな。

ついでに言うとノヴァイハが居ない時は建物の中にはマリイミリアとミルエディオしか入れないだろうし、 白の俺とメロデイアは建物内には絶対に入れない。ここは搬入口だから比較的結界も弛い。ほかのところは中に入ろうとしたら消し炭になるぞ」


どうやら私が知らないだけで色々と明確な基準があったらしい。

それに消し炭は…さっき見たので、かなり遠慮したい。


「それなら…ここは、特定の場所ってことですか?」

「ああ、ここはお嬢ちゃんが普通の道を辿ってたら来るはずない場所だからな、どっかで結界抜けてきただろう」

思わず辺りをきょろりと見回す。


確かに普通じゃない道通ってきましたけど…結界なんてモノあったかな?

後ろは生け垣、前に広がる広大な敷地は何の為の場所なのかわからなくても、庭園とは全く違う用途で造られたであろう凄く広い石畳の敷かれた広場。

それを見渡しながら

「え…と…ここに来ちゃダメでしたか?」

思わずそう、確認をとってしまう。


「いや、ここに来ても特に問題は…うん?」


レーゲンユナフさんは急に言葉を切って怪訝な顔をした。

そして、くん、と一度鼻をならし匂いをかいだ直後、その表情は急に険しいものになった。


え?怒っている?

でも、何に?



「レーゲン…ユナフさん?」



レーゲンユナフさんは、険しい表情のまま、ぐいと此方に急に近づいた。

ためらいなく距離を縮めるその様子、先ほどとは180度変わったそ態度の異様さに思わず私が後退る。


「なあ、お嬢ちゃん…何を持ってる?」


地の底から這うような声。

先ほどとは違う重く圧力を伴った低い声。

ビクリと肩がはね、体が勝手に瘧のように震える。

怖い。

本能的な恐怖に皮膚がビリビリとしびれる。


ジャリ…とレーゲンユナフさんの靴の底が石畳とこすれて耳障りな音をたて近づいてくる。

私が思わず後ずさると、がさりと生垣の木が背中に当たる。


これ以上は下がれない。


なんでいきなり…

私は震えをこらえながら必死にきっかけとなった会話を探す。


そうだ、なにを持っているかと聞かれたんだ。


慌ててポケットを探ると指先に布に包まれた硬い感触。


「こ、これ…」


先ほど拾ったハンカチに包まれた透明なものをポケットから出して差し出す。


「さっき拾ったんです、えーっと、落とし物かなって…後で確認し…」



そう言いかけていた言葉が途中でとまる。


目の前のレーゲンユナフさんの姿がゆらりと歪んだから。


まるで溶けるように、歪んだガラス越しにみるように、レーゲンユナフさんの姿が急に認識できなくなる。


そして…


「あ…れ?」



次の瞬間、私の差し出した手が見えなくなった。

いや、見えなくのではなく消えて…いた。



私のハンカチを差し出した右手は、突如現れた大きな灰色の生き物に



腕の半ばから先を喰われていた




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