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落とし物と私


突如現れた扉から出ていったノヴァイハの行動にぽかーんとしていたら、部屋に入ってきたマリイミリアさんは「あぁ、もう行きましたのね。あれは竜人の雄の習性ですからのんびり待てばいいのですわ」と言った。


あれってなんだろう?


竜人の習性は不思議だ。



そして、その日ノヴァイハは戻ってこなかった。次の日の昼になっても戻ってこなかった。

マリイミリアさん曰く、今は時期外れだから探すのに時間がかかるって言っていたけれど…


一体何を探しに行ったんだろうか?



それにしても…


ノヴァイハが側にいない。


寝るときも起きるときも側にいて、何かにつけて様子を見に来ていたノヴァイハがいない。

そのことに違和感…というか落ち着かなさを感じる。


私のいるこの建物の中は人が少ない。


この建物の中で、庭で、大きな廊下ですれ違う人は居ない。

というか今日、私が会ったのはマリイミリアさんとミルエディオさんだけ。

ミルエディオさんと話す内容は体調に変化は?っていうお医者さんとの会話。

マリイミリアさんとなら雑談もできるけれど、マリイミリアさんにも仕事があるし…そのうえ今日はメロデイアさんもやってこなかった。


ここには人がいなくて、私は誰かが来るのを待つだけで…

考えるだすと、やけに周りが静かな気がして、部屋でひとり本を読んでも落ち着かず頭に入ってこなかった。


その感覚を振り払うために私は部屋を出た。


あてどもなく庭園をそぞろ歩く。


そうしていれば誰かに会えるような気がしたから。

けれど、こんな日に限って誰とも会うことができなかった。


そういえば前くりくりの髪の毛が可愛いモステトリス君に会った門扉から外に行ったら、誰か居るかもしれない。


そうだ、モステトリスの育てている動物に触れたりとか…うん、我ながらいい考え!!


そう思って門扉の前に行く。

誰も居ない。

そのうえ、触れると以前は簡単に開いた扉は今日はびくともしなかった。


なんでだろ?


早くも計画が頓挫してしまった。

諦めきれず少しだけ鉄柵から顔を出す。

端からみたらちょっと間抜けかもしれないけれど…まあ、いいよね。


キョロキョロしているとさらさらの白い髪の少年が遠くから歩いてくるのが見えた。

見覚えのある人。

あの子は何度かミルエディオさんの診察の補助に入ってくれている子だ。


どうしよう、声をかけようかなぁ?


「あれ?こんなところで何をされているんですか?」


迷いが伝わったのか、あっちから声をかけてくれた。

まっすぐな白い髪の毛がサランとゆれるのが非常に羨ましい。


素晴らしいキューティクル。


「ええっと…暇潰しかな?ノーイはお出かけしてしまったので…」

なんとなく言葉尻を濁すと少年は納得したように頷いた。

「ああ、そうなんですね。じゃあ、今日はこの扉は開かないんですね」

「え?」

思いもよらない発言に首をかしげる。

目の前の少年も同じ方向に首をこてんと傾げた。

髪の毛がさらんと揺れる。


わぁ、可愛い!!


「普通、留守中は巣に守るように結界を張るんです。他所の雄が入れないように。あと、留守中は番が巣から出れないようにしてるはずですよ、雄竜人は嫉妬深いですから」


そう言って少年はこちらに手を伸ばす。

私は意図はわからなかったものの、なんとなく数歩後ろに下がった。

少年の白い綺麗な指が門扉にかかった瞬間



バチバチッ!!


ものすごい音がしてルエルハリオ君の手が弾かれた。


えっ?静電気!?



「ほら、やっぱり、結界がいつもより強化されてますね」


そう言ったルエルハリオ君の指先は…



真っ黒に炭化していた。


ひいいい!!!


静電気じゃないよねこれ!?

けっかいって何だろ?!

けっかいこわっ!!


「い、い、痛くないの!?」

「まあ、程々に?」


程々?!

黒焦げなのに程々に痛いって!?


「竜人は再生能力が高いんですよ」


まるで汚れを払うようにパンパンと無事方の手で指の黒焦げ部分を払うと、ハラハラと黒い煤のようなものが地面に落ちて柵を越えてこちらに入ってきた。


どうやら柵のものすごい静電気…ではなくけっかいが焦がす対象は身体のみなのかもしれない。

既に焦げたモノには反応しないという可能性もあるけれど。


「ほら、元通りですよ」

にっこりと穏やかな微笑みを浮かべて目の前で振られた手は煤けてはいるもののまるで何事もなかったようにきれいだった。

「うわぁ…凄い…」

凄いんだけど…若干引いてしまうのはなんでだろう。

「離宮外への散歩はノヴァイハ様が戻られてからがいいですよ」

「うん、そうします」

私は人間だから黒焦げになったら相当大変だしね。

「外には何かご用事でも?」

「うん、用事っていうかモステトリス君って知ってるかな?あの子の飼っている動物を見たいなって…」

「あぁ、成る程。でしたらもう少し後がいいです、モステトリスは今…休暇中なので」

「そうなんだ。じゃあまた今度にしようかな」

少年はにっこりと笑って、では、失礼します。といって去っていった。


向かう先は以前モステトリス君が来た方向と同じ。それに、少年が持っている篭は前モステトリス君が卵を入れていた篭だ。

目的地は同じだったのかもしれないのに…残念。


でも、黒焦げは嫌なので今日は諦めよう。

足元を見ると煤が風に飛ばされていった。


「あれ?」


風で飛ばされた煤の下がキラリと光った。


私はしゃがんでそれを拾う。


透き通って平べったい薄い貝殻のようなもそれは、アイビーの葉のような三つ角のある形。

水鳥の足のような…不思議な板状のそれは半透明で硬い。

親指と人差し指でつまみ日に透かすと年輪のような模様が見えた。

ためにし爪先で弾くとカチリと薄いのに硬い不思議な音がした。


「誰かの落とし物かな?」


先ほどの少年はもう行ってしまったし…


また落とすわけにも行かず、ポケットの中のハンカチを出してそれを包んでから私は部屋に戻ることにした。



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