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なんだか色々御礼小咄

気付けば『竜のしにかけつがい』も100話を越えて…

ブックマークも2000を越えて…

わぉ~凄いねぇ!?


ってなってるちかーむです。

読んでくださる皆様に感謝をこめて!



って意味合いで書いた梅雨のお話がコレですよ…カエル注意報発令です…


カエルみたいなのになった、ぎにゅーな人にするか悩んだんですがこっちで。

ネタが古いというか、何でコレにしたっていうね…



とにもかくにも、これからもよろしくお願い致します☆






パタパタと地面を叩く軽やかな音が聞こえてきた。

ぶわっと土と草の匂いが鼻をくすぐる。開いたままの窓から部屋に入ってきたその気配に顔をあげた。


雨だ。

私がこの国に来て初めての雨だ。


ツムギは読みかけの本を閉じて窓際へと近寄った。


普段はキラキラと不思議に揺らめく空も今は灰色の雲でおおわれている。

それは、とても懐かしい空。

雨は次第に本降りになり、霧のような細かな雨粒がふわりふわりと開いた窓から室内に入り込んでくる。

ザアザアと降る雨音の向こうで微かに声が聞こえた。


クククククッ

ケロケロケロ

グエーコ、グエーコ


蛙の鳴き声だ。

私は窓から身をのりだし、雨に煙る庭を耳を澄ましながら注意深く探る。

ぽつぽつと雨が顔にあたる。

しかし、繁る庭木と雨粒のせいで残念ながら蛙の姿をみつけることは出来なかった。


「そんなところに立っていては雨があたってしまうよ?」


するりと後ろから馴染んだ腕が体を包み込んだ。

「ああ、すっかり濡れてしまって…」

その言葉とともにサアッと乾いた風が私の頬を撫でていった。

しっとりとぬれてしまっていた体がさらりと乾いた。


魔法だ。

いや、こちらだと魔術といったか…。


「ノーイ、ありがとうございます」


ゆるく囲われた腕の中でくるりと向きを変える。

綺麗な淡いピンクの髪の毛が頬にあたってくすぐったい。


「何をみていたの?」

「声が聞こえるんです、ケロケロって」

「ああ、ケロルか、雨だからね」


ケロル?カエルじゃなくてケロル?

名前はちょっと違うけれど、雨の日にケロケロって鳴くならそれはカエルと同じだろうと私は思った。


「ケロル可愛いですよね」

「うん?」

小さな緑色のカエルを脳裏に思い浮かべる。アマガエルをモチーフにしたものを梅雨時期は好んで使っていた。そんな懐かしい記憶を辿る。

けれど、ノヴァイハは怪訝な顔をしている。

「あれ?幸せを運んでくれるって言いませんか?繁栄とか、幸福を招くって…」

そう言うと、ノヴァイハはより奇妙な顔になった。

うーん、と唸りながら、まあ…繁栄といえば、そういえなくもないか?と首を捻っている。

「この国ではどちらかというと無謀、刹那的、アッシかな」

無謀と刹那的って…

前二つの意味も非常に気になったけれど、最後が聞き取れなかったので聞き返す。


「あっし?」

「うん、そう、アッシだね」

聞き返したものの返事は同じだった。

『あっし』って何だろう?

カエルじゃなくて、ケロルのあっし…

…あし…

…あし?


「あぁ!脚!こちらでも食べるんですねケロルの後ろ脚」


ぽん!と手をうって納得した私の発言にノヴァイハはよりいっそう奇妙な反応をした。

「うん゛!?いや、え?!食べる!?」

囲われた腕の中から見上げた薄荷色の瞳に散る茶色い光彩が少し驚いたように広がった。

それを見ながら私は、いつも微笑んでいるけれど、ちょっと表情が変わりにくいノヴァイハのこんな明らかに動揺した顔は非常にレアだ。と思った。


「あれ?違う?」


確か、カエルの脚は鶏肉みたいな味だって聞いたことがある。専門店で売られてたりフレンチとかエスニック料理につかうって…


困惑しながらうーん?と首を傾げるとノヴァイハも同じように困惑した顔で

「普通は食べないかな?」

と答えた。



そうなのか、じゃあ、結局ケロルの『あっし』って何なのだろう?

そう思う私にノヴァイハが問いかけてきた。


「ツムギはケロルを食べる?好きなら今度、食事で出そうか?」


その提案に私は苦笑いをした。

確かにこの話の流れだと私はカエルを食べていたとは思うだろうし、ノヴァイハなら自分か食べないものでも、私のためにと用意しようとする気なんだろうと。

「私も食べないですね、食べられるって知っているだけです。」

そう言うとノヴァイハは明らかにほっとした顔をした。


なるほど、竜人はカエルを食べないんだ。同じ爬虫類だからかな?いや。カエルは両生類か…。

文化の違いってやっぱり難しい。

私はしみじみそう思った。

ましてやここは異世界なのだし。


「食べませんが、見るのは好きですよ。とっても可愛いから」

本物も置物もカエルは可愛い。

王冠被っている子とか…蓮の上に居る子とか…色々なカエルを脳裏に思い浮かべながらそう言うと

「うーん…まあ、色は可愛いかな?」

と、相変わらずノヴァイハは苦笑いをした。

私はその様子にあれ?と思う。

そして、この反応はもしかしてケロルとカエルは違うものなのかもしれない、と漸く思い至った。

そして、とりあえず共通認識を確認しようとノヴァイハにケロルについてきいてみた。


「ケロルって、ケロケロ鳴いてびょーんって跳ねるのですよね?」

「うん、そうだね、雨になるとケロケロ鳴いてぴょんぴょん跳ねて出てくるね、道とかに大量に」

「大量に!?じゃあ、道が緑になっちゃいますね」

「え?緑ではないかな…どちらかというと…ああ、あんな色だね」

そう言ってノヴァイハが指差したのは、先ほど私が読んでいた本、開かれたままだったページに描かれていたのは蓮の花に似た形の紫がかった濃いピンク色の花。

ケロルとカエルの色は違うみたいだ。そう思っていた私にノヴァイハの言葉がなおも被さってくる。

「背中にある太いトゲは見た目は硬そうだけれど実は柔らかい」


うん、カエルにはトゲはない。

これでケロルとカエルは別物だって確定した

「あ、ほら、あそこに今ちょうどケロルが出てきてる」


そういってノヴァイハが窓の外を指差した。

庭の石の上にちょこんと…いや、どすんと濃いピンクの物体が乗っていた。ぎょろりとした睨むような目付きの大きな瞳。

太くて厚い不機嫌そうな口をガバリとあけてケロルはグェーコと鳴いた。

その姿は…カエルではなかった。

うん、全くもって別物。カエルのような愛らしさはひとつもない。


「ちょっと私が知っているのとは違いますね」

うん、全くもって全然カエルじやない。そう思って見ていたら庭のあちこちからケロルがわらわらと…

ひいいい!!

「ノーイ!!ケロルが!ケロルが!」

ちょっと気持ち悪いくらいすっごいたくさん居るんですけど!

「ああ、雨だからね」

ノヴァイハはおっとりとそう答えた。


あっちこっちで濃いピンクのケロルがのそのそ歩いている。

なんだろう、色といい、形といい、大きなトゲトゲといい、ふてぶてしい顔といい、何かを強烈に思い起こさせる。


そう、壺だ、壺に入った誰かが…


「やっておしまいなさい!!」


私の頭の中の声とマリイミリアさんの声が重なった。

庭の端でマリイミリアさんが仁王立ちで指示を出している。

何をするんだろう?そう思って見ようとした私をノヴァイハがくるりと向きを変えさせて抱き上げた。

同じ目線の高さになった私をチョコミントのような綺麗な瞳が甘さを湛えて見つめている。

「ケロルを見るよりも私を見てほしいな」

拗ねたようなその言い方がおかしくて私はふふっと笑った。

ノヴァイハもそのキラキラした綺麗な顔でとろりと蕩けるようにわらった。

外では何かがはじけるような音かしている。

水溜まりにでも飛び込んでいるんだろうか?



あれ?結局、ケロルの『あっし』ってなんだったんだろう?


そう思ったけれど、ノヴァイハが篭に入った焼きたてのお菓子を私の口に入れたので、私はノヴァイハと湿気もなく快適な部屋で美味しいなお菓子を堪能するべくお茶を入れることにした。




ノヴァイハは窓の外でマリイミリアの指示のもと繰り広げられている惨劇をツムギが見えないように不可視の魔術を展開した。

雨音に混じってバチュン!ブジュッ!!っとケロルが踏み潰され弾ける音がする。それも聴こえないように防音障壁を張った。


雨の日に閉じた世界に番と二人きり。その幸せを噛み締める。


潰れたケロルは良い庭の肥料になる。きっと綺麗な花を咲かせることだろう。その庭で笑うツムギはきっと花の精のように愛らしいことだろう。










ケロルド・ドドリーア


雨季に大量発生することで有名な生き物。

大量発生して見える原因は普段は湿地や水気の多い柔らかい土の中や岩の下に棲息しているが、めったに降らない雨の時だけ外に出て水分補給を行うからである。


色は花のような赤に近い色であり、背中には大きな突起のようなトゲがある。触れるとぶよぶよと弾力のある柔らさだが、皮膚は抱えた水分を逃さないために非常に厚く衝撃に強い。


竜人国では非常に身近な生き物であり。正式名称ではなく、ケロルという愛称で呼ばれている。


異常発生しすぎたケロルド・ドドーリアを見て研究者が「こんな数値は間違いだっ!!」と叫んだことがあるほどに、その棲息数はすさまじく、一部の研究者は水を吸って膨張、分裂するのではないかという論文を発表したが、真偽のほどはさだかではない。


また、血気盛んな炎竜の若者が「皆殺しだぁどいつもこいつもぶっころしてやるぅ!!」と叫びながら道いっぱいに広がったケロルド・ドドーリアを威勢よく踏み潰している姿も雨の日の竜人国名物である。

彼らいわく、ケロルド・トドーリアの皮は非常に厚いため踏み潰すとバチンと弾ける感覚が良いのだという。


ケロルという愛称はものの例えとして使われることがある。

意味は無謀、刹那的、圧死。

道いっぱいに広がり、そして、戯れに踏み潰される様子からその意味がつけられた。このようなケロルを使った比喩は、竜種特性としてどうしても無理だと思われることに挑戦する場合によく使われる。


例)

「君の願いを叶えるためなら、水竜の僕だってケロルのように溶岩を湛えた火口に飛び込んで見せる!!(無謀)」


「私の膨らみ続ける愛を受ける貴女がその重さでいつかケロルのようにならないかとても心配だ(圧死)」



竜人国世代をこえたベストセラー

「番に愛を伝える100万の手引き」より抜粋



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