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散る羽と幼竜


『番に番として認めて貰えない』


そんな惨めな己の全てをメロデイアのブレスで一息に炭と化して消し去ってしまえたら…



こんなに苦しくなることもないだろう。


そうため息をつくとパタパタと音がした。


はっ!として捕まれていないほうの手で耳を押さえようとするけれど抱えていた篭がそれを阻む。


慌てるモステトリスの耳のあった場所には小鳥の翼のような形の羽角うかくが出てしまっていた。

モステトリスの一族だけがもつ精霊に近い部分。


こんなものをだしてしまうなんて…


酷く心が乱れると人型を取れなくなる幼体の…己の未熟さの現れだ。

恥ずかしすぎてモステトリスの顔が真っ赤になる。


「あら、珍しいわね…天竜の羽角」

そういってメロデイアはほどいた指先でそっと羽角に触れる。

外側のしっとりとした固さの羽を指でなぞりる


その行動の、意外さにモステトリスの心臓はドクドクと高鳴り、今にも口から飛び出てしまいそうだ。


「滑らかで柔らかいな…」


メロデイアのいつもより低い声が、羽角をなぞる手と相まってむずがゆいような、ぞくぞくと背筋ぞわつかせるような奇妙な感覚をモステトリスに与える。

指は内側のふわふわの羽毛を指の背が擽るように撫でていく。


「うっかり羽角をだすなんて…」


やっぱりメロデイアの声がいつもより低い。その事が不思議で伏せていた顔を上げモステトリスはメロデイアを見上げる。

拍子に頬をどんなにとかしてもくるりと巻いてしまう癖っ毛がくすぐった。


「そんな顔をして…」


モステトリスの顔は逆光で見えない。

ずしりと辺りに重い気が満ちる。

メロデイアは何かに怒っている…?その複雑な感情の波が読めずにモステトリスは首を傾げ…



次の瞬間、ぞわりと背筋を恐ろしい気配が襲った。



暗いくらい、闇よりもなお暗く重い


ゆれる、ゆらぐ…



頭の中まで揺らすような濃い瘴気にも似た…



「あのバカがッ!ーっおい!?」



掴まれたままの腕が痛い。

何でだろう?

気づけば酷く地面が近くに見える。

ごろりと転がっていく卵と落ちた篭と布…

ルエルハリオが貸してくれた篭…



「ちっ!しっかりしろ!持っていかれるな!」



ぐわんぐわんと頭の中で鐘がかきならされる。

目の前で必死な顔をしたメロデイアが何かを言っている。


聞こえない、聞こえないよ。鐘がうるさ過ぎるんだ。


誰が、だれが鳴らしている?


こんなに煩くしたら誰も聴いてくれないのに。


ああ、目が痛い、目の奥が焼けそうだ。


「ーー!ーーー!!」


目が痛い、あまたまがいたい。


くるしいよ、ううん、さびしいの?

誰が叫んでる?

もうその声も掻き鳴らされた鐘がうるさくて聴こえない。



「ーーー!!ーーっい!しっかりしろ!モステトリス!」



魂が捕まれた。

そう思った瞬間、ガンガンとなっていた鐘が止まった。


こんな必死な顔のメロデイアをはじめてみた。

焦ってもどんな顔でもやっぱりこの人は美しい。


「モステトリス?」


心配してくれてる?

それに…


「…な…まえ…」


名前を呼んでくれた。

指先まで歓びが満ちるみたいだ。

やっぱり、この人は…



「…っ!このバカが!!!」



なぜだかメロデイアは泣きそうな顔をしていた。

泣かないで。

そう言いたかったけれど声はかすれて出なかった。



「ノヴァイハの気にやられたわね」



何かを取り繕うようにメロデイアは急に口調をいつものように変えてきた。

顰めっ面は…何時ものようにうまくできていなかった。


モステトリスはそれを何だか酷くおかしく思った。


視界の端ではらはらと羽が舞っている。

どうやら羽角が抜けてしまったらしい。


「抜けてしまったわね」


メロデイアは舞う羽毛を掌に受けてそう残念そうに呟いた。



メロデイアが好きだと言うのなら、羽毛くらいいくらでもむしって布に積めて枕のようにして渡すのに。


「跳ぶわよ」


ぼんやりそう思うモステトリスをメロデイアは掬い上げるように抱き上げ、空間を跳んだ。



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