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とどまる竜

その竜人はふと、気配を感じて作業をする手をとめた。

次の瞬間、急にずしりと重くなった城の魔素に怯えるようにカタカタと手が震える。

どさりと落ちた篭から飛び出た野菜が土に汚れていく


先ほど洗ったばかりなのに。


けれど、瘧のように震える体は拾うことさえ出来なかった。

落ちた野菜を拾うために膝をついたのか、それとも崩れたのかわからない、解らないがそのまま立ち上がることも出来ず、落ちた篭へ手を伸ばすこともできず、男は息苦しさに耐えながら、ぼんやりと考えた。


この歪んだ気に触れるのずいぶん久しぶりだと。



王城の地下に王弟が幽閉されてからは久しく触れていなかったこの魔素。



そう思い、いや、もう程度の差こそあれ自分も同じ気を放っているのだろうと自嘲した。


自覚はあるのだ。



けれど、止められない。

あの愚かな行為を止められないのだ。



昨晩から城内が騒がしい。



どうやらあの場所を見つけられてしまったのだろう。



あの場所…


死臭に満ち、濁り淀んで穢れたあの場所。

腐敗した死骸を山と積んだあの場所。



いとおしい番のために作ったあの場所を乱されることに、不快感を感じながら、男は同時に安堵もしていた。




止めてほしい。


これ以上おかしくなる前に。



無駄な行為だとわかっている。

他者の命を戯れに狩り取るなど。


いいや、無駄な行為なわけがない。


もうすぐ産まれてくるあのこがお腹一杯になるように


いっぱいあつめたおいしい餌。


甘いのも苦いのもおいしいのもすっぱいのも辛いのも、どんな味が好きでも大丈夫なように。



たくさん揃えて揃えておいたのに。




ユルセナイナァ…




アノコノタメニツクッタノニ。





荒れる魔素に引きずられ頭のなかで耳障りな声が聞こえる。

違う、そんなことしなくても、待てるのに。



デテコナイノハ、タリナイモノガアルカラダヨォ



うん、そうだ。


そうだよね。



あのこがたべるごはんをよういしないと。



何が好きなのかわからないから、全部全部、すべての肉を集めてあげる。



安心して出てこられるように。



柔らかな羽と毛皮で作ったベッドのある巣穴も。


用意はできてる。



床にはつるつる磨いているよ。

小さな君が躓いて怪我をしないように。



竜人はついていた膝を立てた。

荒ぶる魔素はいつのまにか消えていた。



落ちていた野菜を再び篭に戻す。



午後には狩りにいこう。


ちょうど夕餉の準備に間に合うだろう。

よりよい肉を、美味しい食事をあのこにあげるために。





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