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卵と竜


ノヴァイハは執務室に新しく出来た扉を開いた。


執務中だったが、ツムギが雄竜人と交流した気配があっため、様子を見に行かずには居られないのだ。

雄竜人の性なのだからしかたがない。

番に会える大義名分ができたのでこれ幸いに仕事をメロデイアに丸投げする。


この扉は最愛の番のいる場所から一番近い場所にある扉に続くよう、空間転移の陣を展開している。


ツムギが使う場合には執務室にしか繋がっていないのだが。


転移先は庭園へ続く扉だった。

庭園の小路を進むと花に囲まれた長椅子に座って卵を掲げて見ているツムギがいた。

卵はごく淡い水色、大きさはツムギの頭と同じくらいの小型の卵だ。

ツムギはまだこちらに気づいていない。


卵が重いのか腕が震えぐらぐらとしているところが見ていて危なっかしい。落としたくらいでは、抱えている卵に傷がつくことはないけれど。


「ツムギその卵はどうしたの?」


声をかけるとツムギはこちらを振り向き、嬉しそうな顔でノーイと言ってくれる。彼女しか呼ばない特別な名前。

声をかけたら柔らかな声で返事が返ってくる、そんな些細なことにすらこの上ない幸せを感じるのだから、番の愛らしさは筆舌に尽くしがたい。


「モステトリス君に貰ったんです。コケッコー?の卵だそうです。

どんな卵か気になるってこの前言ったからさっき届けてくれて…凄くおおきくってびっくりですよね。」


微笑むツムギに今度はもっと大きな卵を狩ってきてやろうと心に誓う。

キドモーシャウーコッケの卵は小型の部類だから…もっと大きな卵を見たらツムギはもっと喜ぶかもしれない。


「ノーイはコケッコーの卵は好きですか?」


あれ?ウケッコーかなぁ?

と言いながら首を傾げるツムギがかわいい。

悶絶しそうになるのを腹に力を入れて必死に堪える。

卵を産んだ生き物はコケッコーでもウケッコーでも無いのだけれど。

拙いその言葉が可愛いのであえて訂正せずにそのままにツムギの言葉に答える。


「そうだね、卵は好きだよ」


竜体で食べるにはキドモーシャウーコッケの卵は小さいけれど、味がとても良い。特に黄身は濃厚な旨味がつまっている。白身も癖がなく喉ごしがいい。

人型をとった竜人が好んで食べる人気のある卵だ。


「やっぱりそうなんですね~マリイミリアさんも竜人は卵が好きだと…あれ?竜人は胎生?それとも卵生ですか?」



ツムギは不思議そうに首を傾げた。



これは素朴な疑問だ。



ツムギは竜人と鱗のある生き物を混同しがちだ。そこには大きな違いがあるというのに竜人と蛇型魔人族や蜥蜴型魔人族や魚人族との違いがわかっていないのだ。


深い意味のある問いかけではない。

けれど、問いへの返答に間が空いてしまう。




竜人は卵生だ。ごく一部の特殊な竜以外を除いて全て卵から産まれてくる。

人族も獣人族も胎内に子を宿し産み育てる。

けれど、竜人は竜体で卵を産む。番に出会った雌竜は雄竜と交わることで胎内に高濃度の魔素を取り込むことになる。

そして、その胎の中で数十年から数百年かけて与えられる魔素を圧縮し、非常に純度の高い魔石状の核をつくる。

それが竜人の命そのものとなる。

そして十分に大きくなった核にさらに高濃度の魔素を纏わせ頑丈な殻の中に封じ込め産む。

雌が1度に産む卵はひとつのみ。そして、その殻の中で核は竜の形を取り産まれてくる。

胎の中で核をつくる時間が永ければ永いほどその竜人の能力は高くなる。竜王種などは500年を越えることがあるほどだ。


しかし、他の種族ではこれが出来ない。

たとえ母体が卵生の魔人だとしても胎の中で竜の核となるものが作れなければ、卵を生んだとしてもそこに竜の命は宿らない。


どれだけ交わろうと。


雄竜人の吐き出す精は純粋な魔素だ。魔人族の糧になり腹を満たすことはできても、子種とはなりえない。雌竜人意外の胎内に入ればすぐさま溶けて消える。


ただ、雌竜人は多種族だとしてもある一定の魔素の供給があれば、卵の中に子を宿すこととができる。ただし、産まれる子に竜人の能力や特徴は一切受け継がれない。



竜人は竜人からしか産まれない。



多種族の番は…どれだけ子を望もうとも…



竜人の子を孕むことができない。




ツムギと私の間に新たな命が芽生えるとこは無いのだ。





そして…なにより私は…






ツムギがその胎に子を宿すことを望んでいない。




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