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恋する幼竜



ガラガラッガシャーン!!



閑散とした医務室に大きな音が響き渡った。

ここ数日で馴染みとなった音の発生源へミルエディオはちらりと目をやる。


慌てた様子で床にぶちまけた器具をかき集める白い頭が見えた。


ふう、とため息をつく。

本日2度目ともなると流石に上司として一言注意せねばならないだろう。


「ルエルハリオ?少し落ち着きがたりないようですね、何かありましたか?」


幸い今日は医務室に患者はいない。

というかここに患者は基本的にいない。


今日担当の医術師もミルエディオとルエルハリオの二人だけだ。


そもそも体が頑丈な竜人は基本、病気にはならない。

一番多い患者は怪我人で、その次は食たあり。

それ以外はほとんどない。

食たありの原因も食べ過ぎか、毒あたりか、暇だから食べられるかどうか試してみたけどダメだった。

という非常に分かりやすいものが多い。


種族が違う竜同士が番になると好物がお互いに消化できないなんてことがあったりする。


竜人の中には希に鉱石を好物とするものや、毒のあるものを好んで食べるものがいるのだ。

そういった相手の番となった竜人は必ず試すのだ。


相手の好物を自分ももしかしたら食べられるかもしれない…と。


まあ、結局はここにくるのだけれど。


暇だから試してみたというのは若い竜にありがちなことで、先日は砂竜が生きたまま炎蜥蜴を丸のみしてみたところ、腹のなかで火を吐いて暴れまわり、口からもくもくと煙をあげながら腹が痛い…と泣きながら来た。


久しぶりに間抜けなやつが来た、と医務室の裏では非常に盛り上がった。


怪我で担ぎ込まれるのはヒューフブェナウ氏を筆頭に愛妻家が多い。

妻の過ぎた我が儘や暴力に瀕死になりながらも応えようとするその姿はまさに、雄竜人口の鏡だ。



毎日どこかで痴話喧嘩や間抜けなことをやらかす竜人が多いが需要がないため街に医師はおらず、病院もない。

そのため治療といえば王城の医務室に来るしかない。


万が一のために二人体制をとっているが…本当に万が一のためであって、医務室は基本的に暇なのだ。


たとえ新人が落ち着きがなく器具をひっくり返したり、薬の調剤を間違えて黒煙をあげたとしても困ることはないし、むしろ暇潰しになる。


しかし上司としてはそういうわけにもいかない。それに…


「どこか具合がわるいのですか?急にそわそわしたり、ぼーっと、したり、かと思うと急に走り出したり…踊り出そうとしてステップ確認したり」


はて、そんな病気があっただろうか?


言われたルエルハリオは困ったように苦笑して、落とした器具を盆にのせて流しへと置いた。

ざぶざぶとひとつづつ丁寧に洗っていく。


「すいませんミルエディオ師団長…そうですよね、僕もよくわからないんですが…なんだかふわふわした雲の上を歩いているような、集中しようとすると気が急いているような変な感じで…」


はーっと重いため息をついては洗い終わった器具をひとつひとつ丁寧に滅菌用の魔道具にセットしていく。


ミルエディオはこの話は長くなりそうだと判断し、作業の手をとめ茶器の用意を始めた。


可愛い部下のために秘蔵の茶葉と茶菓子をだしてやろう。


「気分も落ち着かなくて、急に空に上るほど嬉しくなったり逆にみずから底に沈んでいくように凄く落ち込んだり。あーもう、一体なんなんでしょう…もの凄く疲れます」


正に憔悴という体のルエルハリオに椅子をすすめる。


入れたばかりの金色の茶で満たされた茶杯をことりと置いた。

ふと、ミルエディオはひとつの可能性に気づきフフっと笑った。


この幼竜のことを子供だとばかり思っていたが…そうか、もうそんなに大きくなったのか。


「ルエルハリオは成体になってから脱皮は何度目ですか?」


「えーっと、去年は一回ありました。けど、今年はどうでしょう?あんまり大きくならなかったので来年かなぁ…」


「ふむ、まだ一年周期でなんですねぇ…完全な成体になるのはもう少し先。となると…貴方の番はやきもきするでしょうねぇ」


こくりと御茶を飲む。香りも味もちょうどいい。我ながら上手く入ったものだ。


「やだなぁ、ミルエディオ様。僕にはまだ番はいないですよ」


ルエルハリオは照れたように頬を脹らませた。


この年若い竜人はからかわれたのだと思ったのだろう。

成体になったばかりとはいえまだまだ幼い自覚があるのかもしれない。


近年は番が居ない竜が多かったために、彼らの番が見つかってから自分の番が現れる…

とでも勝手に思い込んでいるのだろう。


ミルエディオ自身も、この新人にこんなに早く番が現れるとはついぞ思っていなかったのだから。


長く停滞していた竜人族の時が流れ始めた。そんな気がする。




(これも竜王種の影響力のせいでしょうかねぇ…)



毎日往診に行く度に、とろけんばかりの瞳で番を見つめている竜人と、その視線を恥ずかしそうに受け止める小さな人族の少女。


彼女が染めた番の薄赤い髪のような色に頬をそめて、目の前の幼い竜人は気まずそうにお茶をちびりちびりと飲んでいた。

そして伏せていた目をふいっと横に逸らした。


「それに…僕よりもモステトリスが番う方が先だとおもいます」


「おや?そうですか?」


ミルエディオはにっこりと笑った。




「今の貴方は番に出会ったばかりの竜人そのものですよ」





いつもお読みくださってありがとうございます~

竜の~の方がこの後からとんとんと進むので…


その前に更新停滞ぎみの『俺うさ』とうっかりスタートしてしまった『新ねこ』をすこし進めてます。あと『聖女』も。『うちの姉弟』は…余裕があれば。



一応相変わらず毎日更新をこころがけてますが…


毎日どれかを更新(具合がわるくなければ)

という感じになってます。


詳しくは活動報告にて。



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