8話 デート
昼時。
昼食を済ませた俺は、一旦新しくなった部屋に戻り、それから離れへと行き読み掛けの漫画を丸々平屋の方に移して、テラスのハンモックで読んでいたのだが──
「ねぇねぇ、これの続きないの?」
『ヤれるやズンドコ3』
「……」
後からへティアが来て、隣にパラソルを立ててビーチの砂浜で使うような長い椅子を置き、そこに横になりテラスで一緒になって漫画を読んでいた。
てか何だそれは……。
そんな漫画俺は持っていないぞ。
「それ18禁じゃねぇか」
「うん? それが?」
「いやお前……」
「アタシ、18なんてとっくの昔に過ぎたよ?」
「だったな……一応女神だもんな……」
「一応って何? それより早く続き読みたい」
「俺のじゃねぇよそれ……」
「あぁ……お姉ちゃんのね……」
へティアは納得といった顔をしている。
俺的には実の姉がそんなものを読んでいるのに対しその反応はどうかと思うのだが。
「どっから持って来たんだよ、それ」
「クソお兄ちゃんの部屋にあった漫画のカバーに挟まれてた」
「中学生かアイツは……」
「頭が悪いってわけじゃないのにねー、馬鹿なんだよねー」
言動とか行動とかがだろうか?
確かにそれなら納得だな。
「他の読めばいいだろ、まだあるんだから。適当に漁ってきて良いぞ」
「うーん……じゃあさ、ちょっと出掛けない?」
「は? どこに?」
「とりあえず着替えてきてよ。ちゃんとした服装じゃないとダメだからね」
「いきなり過ぎだろ……準備してくるわ……」
「早くね。私待つの好きじゃないから」
なんて女だ、こういうヤツが将来男を尻に敷くんだ。
「つーか、服なんてまともなもん無いぞ俺」
◇◆◇◆◇
「で、どこに行くんだ?」
「んー……秋葉?」
「おー、じゃ行こうか」
「りょうかいっ。じゃあ飛ぶよー、ちゃんと掴まっててねー」
「ん」
一瞬で景色が変わり、どこか──恐らく秋葉に建つどれかのビルの中の廊下に、俺たちは転移した。
「どこなん、ここ」
「前に1度来た来た時に使った場所だよ、このビル人居ないしね」
「帰りもここか? 前1人で来たって、もし後を付けられて襲われたらお終いだな」
「そんな奴ら全員裸にひん剥いてお尻にパイプ突っ込んで人混みの中にポイだよ」
「……お前って結構エグいんだな」
ちょっとだけケツがキュッてなったわ。
「そんなことより早く出ようよ」
「そだな」
「どこ行こうか?」
「んー、さっきの漫画の続き買いたいなー、お兄ちゃん案内してよ」
「クソお兄ちゃんじゃないのな、つか人任せかよ……俺あんまり秋葉詳しくないんだけど……」
とりあえず、適当に周るか。
というか、へティアの見た目で18禁で買えるのだろうか……? 完全に高校生くらいなんだけど……
「買えたねっ」
「買えたな……」
普通に買え──たわけではないな。
レジの人めちゃくちゃガン見してたし。
『え!? こんな娘が?!』とか思ったんだろうなぁ……タイトルが『ヤレるやズンドコ』だもんなぁ……
とにかく買えて良かった。
俺も丁度欲しい本買えたし。
「用は済んだし、帰ろうぜ」
「は? お兄ちゃん、何言ってんの?」
「えっ?」
凄い目つきでギラリと睨まれた。
急にゾワリとした感覚に襲われた。
何? 俺何か悪いこと言ったの? ただ帰ろうって言っただけですよ?
「女の子と一緒に出掛けてエロ本買って終わりとか、笑えないよ?」
「あぁ……」
エロ本買ったのお前だからな。
で、つまりそういうことか。
まだ帰らないということか。
「面倒くせぇ……」
「今から無人島に放置されるのと砂漠のど真ん中に放置されるの、どっちが良い? ちなみに期限は永遠」
「殺す気満々じゃねーか!? いやもう死んでるけども!? どっちも嫌だわ!!」
「じゃあ私の買い物付き合ってねっ、お兄ちゃん」
「──はぁ、分かったよ」
女というのは本当に怖い。
見事に笑顔を使い分けている。
脅す時や普段の笑顔とは全然違った。
アテラもそうだが、何かをお願いしたり頼んだりする時の女の笑顔ほど破壊力を持ったものは無いと、俺は思う。
「本当、厄介なヤツだ」
「何? なんで笑ってるの?」
「え? マジで? 笑ってた俺?」
「うん、急ににやけてかなりキモかった。だから少し離れて歩いて? 他人のフリしててねっ」
おいやめろ、それ身内に言われて1番傷付くやつだから。
「まずは洋服から行こうっ」
「おう」
「返事しないで」
どつくぞマジで。
「荷物持ち♪ 荷物持ち♪」
……はぁ。
本人は楽しそうだし、まぁ良いか……
結局俺は、最終的に20袋近く持たされ、へティアの買い物は、俺の両腕両手が紙袋やらで一杯になったとこで終わった。
あれ以上続いてたら腕が動かなくなってた……
──帰った俺達に、アテラの質問という名の尋問が行われたのは、また別の話。