7話
「──!! ──!? 」
「──!!!──!!」
「────?! ──!」
朝8時、俺とへティアは正座させられて、アテラから説教を受けているところである。
今から2時間前、予想は見事に当たり、帰宅したアテラに俺は一発どころか3発も殴られた。
それも右フック、左フック、からの右アッパーという3コンボを喰らい、俺は30分程意識ごとダウンした。
そして意識が戻り目を開くと、真っ赤になった尻を丸出しにして、涙目になったへティアがアテラの膝の上で尻を叩かれている最中だった。
ペチンッ
ペチンッ
ペチンッ
可愛らしい音が鳴り響く度にへティアが悲痛な叫びを上げるのを俺は気を失っているフリをしながらジッと片目を開けて見ていた。
へティアが声すら上げられなくなった時、へティアの大粒の涙が浮かんだ両目と俺の片目が一瞬だけ合った。
するとへティアが『助けて』と目で訴えかけて来た。
それに俺は『任せろ』と目で返し──そっと瞼を閉じた。
見捨てました。
カッとしてやった、反省はしてない。
だってアイツのせいで殴られたようなもんだし。
俺はもう一度瞼を上げて、目が合った時、 『姉が妹にお仕置き……俺はそういうの、嫌いじゃあ、ないぜ?』と、ウィンク付きで送ったら通じたのかどうか分からないが、へティアの口が小さく動いた。
『死・ね・ク・ソ・オ・ト・コ』
俺はまた瞼を閉じた。
◇◆◇◆◇
「──からだ! お前も断らないからこんな事、に……」
「あっ」
やべ、耳塞いでるのバレた。
「な、何?」
「聞いてなかったのか……?」
「ヒッ……!? き、聞いてたよ、ちゃんと聞いてた」
「私が何を言っていたのか言ってみろ」
「……」
「ほぉう……まだ、足りなかったか」
腕を組み俺を見下ろすアテラ。
持ち上げられた胸が……スゴイな……。
このままじゃまた拳が……あっ。
「アテラ」
「言い訳か……良いだろう、聞いてやる」
「アテラ可愛い」
「は?」
「アテラ可愛いよ、凄く可愛い」
「な、何を言っているんだお前は!?」
「あぁ、可愛いなぁアテラは、もっと近くに来てくれ」
「……!!!」
「このサラサラの髪も全部可愛いよアテラ」
「そ、そんなに? 本当か?」
「ああ、凄く可愛い。可愛いよアテラ可愛い」
「はう……」
勝った。
唯ひたすら可愛いを連呼しながら頭を撫でる。
普通ならさっきまで鬼の如く怒っていたヤツを宥めるなんてこんなやり方じゃできないが、やはりここはアテラ、チョロイ。
「……最っ低」
ごろごろと喉を鳴らしながら俺の腕の中で寛いでいるアテラ。
俺が今後、アテラに今の『可愛い可愛い』を餌にして甘えられないようにするにはどうするかと考えていると、横から冷気を帯びた声がかかった。
へティアがゴミを見るような目で俺を見ていた。
最低、ね。
何とでも言え。
それと今の状態がお前の素だったか。
早めに気付けて良かったぜ。
「お前もしてやろうか?」
「その股にぶら下がった粗末なモノ潰すよ?」
「おぉ怖い……昨日のへティアはもう死んだか」
「人は変わるんだよ、知ってた? クソお兄ちゃん」
知ってるけども。
お前変わり過ぎだろ。
昨日の甘えてくるような顔が今じゃ完全に消えてやがる。
目つきも睨むような視線に変わってるし、髪も金髪ツインテだし。
服は何故かハーフパンツに上はパーカー。
「ツンデレキャラか? 昨日のがデレで今日がツン」
「クソお兄ちゃんにデレは一生こないよ」
「そうかー、残念だなー」
「チッ」
この2人舌打ちする癖あるよね。
女の子が舌打ちとかしたらダメだぞ。
「私あの部屋使うからね」
「え? どの?」
「クソお兄ちゃんが使ってる1番広い部屋だよ?」
「……」
「私のこと、見捨てたよね?」
「……ぶりっ子が」
「な・ん・て?」
「おっとお前もその剣を出し入れするやつできたのか。落ち着け、俺は今両手が塞がってる。そんな無抵抗な人間にお前は剣を振り下ろすのか?」
「はいはい、じゃあ私が使うからね。部屋の物は全部空いてた部屋に移しといたから」
何でコイツ俺に聞いたの? 俺に拒否権最初からなかったじゃん。
最後にへティアは、俺が読んでいた小説から途中に挟んでいた栞を抜き、部屋を出て行った。
地味に腹立つ事するな、アイツ。
「……部屋は、まぁ良いや。別に気に入ってたわけでもないし」
それから40分程アテラを甘えさせ、俺もリビングを出た。
アテラは膝枕して頭撫でていたら寝たのでタオルを掛けてソファに放置した。