4話
6日目、現在──……
「という事を思い出していた」
「……」
「いやー、まさか女神様が『綺麗だ』って言われたくらいで惚れるとはなー、ギャルゲーキャラもひっくり返るくらいのチョロインだな?」
「……」
「あれぇー? どうしたんだアテラ? そんなに顔を真っ赤にして?」
「う……さい……」
「それに『わ、私の世話係だ!』って真っ赤にして言って、俺ならあんなセリフ絶対無理だな」
「うる、さい……も、やめろ、本当、恥ずかしいから……」
アテラは俺が何か言う度に耳まで真っっ赤にして、今は綺麗な薄紫の瞳をウルウルさせて俺の服の裾をギュッと握っている
何故俺がこんな事を言っていたのか、事の発端は今朝だった。
朝起きるとこいつが俺の布団に潜り込んでいた。
本来部屋は別なのだが、何時ものことなのでそれは良い。
だが! 二度寝しようとした時、違和感を覚え目を開けると、コイツは俺がまだ起きていないと思っていたのか、既成事実を作らんとウキウキと俺のズボンをずり下げていやがったのだ。
その場で小一時間正座させ「2度とするな、次やったら部屋に入るの禁止だからな」と言い付けたのだが、何とこの女神、「つまり次がラストチャンス……絶対キメる……」などとほざき何も学習していなかった。
さらに小一時間説教した。
それが今から10分前だ。
終わると同時にお預けを食らった犬のように飛び付いて来て、胸に顔を埋めてスリスリしてくるわ首に顔を埋めて匂いを嗅いでくるわでウザかったので、大人しくさせる為に初日の話をしてやった。
俺の予想していた以上に効果は抜群だった。
「じゃあ離れろ、朝から2時間も無駄にして朝食を食い損ねたからな」
「それはお前があんな説教を……」
「『私の、世話係だ……』」
「〜〜〜っ!? このっ!」
「あいたっ!?」
肩を噛まれた……きたねぇな……洗っとこ……。
「汚くなんか、ないよな?」
「……イエス、マム……」
ベッドから立ち部屋を出ようとすると背後から途轍もない殺気のようなモノを感じ振り返ると般若の顔をしたアテラが居た。
やはり怖かった。
所詮男は女には勝てないのか……。
俺は大人しくベッドに戻り読み掛けの本を開く。
「できたら呼びに来る、洗うなよ……?」
「分かってるって……」
アテラは朝食を作るため部屋を出て行った。
俺は朝食が出来るまでの間、読書をして待った。
◇◆◇◆◇
「ごちそうさま」
「あぁ、ど、どうだった?」
「あ? あぁ、美味かったよ」
「そ、そうか!! 良かった」
「……毎日言う必要なく無いか?」
「うるさい、私が聞いたら旨いと言え」
「さいですか……」
「さて、朝食も済ませたし、なぁ?」
「何だよ?」
「食後の運動でもしないか?」
運動? ってもここ、俺達が住んでいる平屋と緑の芝生しか無いじゃん。
しかも界○星みたいな形だし。
「何をするんだ? テニスとかか?」
「子作り」
「馬鹿たれ」
「いたっ」
うん予想はしてた。
来るだろうなー、とは思った。
でもコイツはそんな奴じゃないって信じた。
そして裏切られた。
「そっちの運動はいらん」
「私はしたい」
「1人でしてろ駄女神」
「毎日してるぞ」
「は!? お、おま、マジでか……!?」
「運動は」
「……」
あー、くそっ。ニヤつきやがって。
「俺もしてるぞ、毎日お前の事を考えながらだ。そして最後はお前をダウンさせるんだ。一緒だな」
「そ、そんな激しくか!? わ、私も……」
「シャドーボクシング」
「……」
睨むなよ。
同じ事をしただけだろ。
「おい……」
「あ?」
「表へ出ろ」
「やだ」
俺が負ける未来しかみえねぇ。
男のくせに?
阿呆、目の前の女は戦いを司る女神だぞ?
「「……」」
無言の睨み合い、そして。
「あー、誰かと触れ合いたいなー、人肌恋しいなー」
「!!」
「げふっ」
瞬間、正面から飛び付いて来た。
これ絶対尻尾付いてたらブンブン揺れてんだろうなー……。
と考えながら俺は暫くの時間、アテラの抱き枕となった。