2話
春が死んでから6日前に時は遡る──……
「んぅ……ん?」
一面真っ白なドーム状の建物の中で一人の青年、春が目を覚ます。
視線はまだボヤけていて辺りをキョロキョロと 窺っている。
まだ寝呆けているのか、他にも人が倒れているが、気づく様子は無い。
そして段々と意識がハッキリとしてきたのか、一言、言い放った。
「知らない、天井だ……」
◇◆◇◆◇
「どこだよここ……」
気怠い体に鞭を打って体を起こす。
気が付くと辺り一面真っ白な空間に居た。
もちろん自分でここに来たわけではない、こんな場所知らないし来たこともないし見たこともない。
全く記憶に無い。
確か学校から帰っている途中だった筈だ。
という事は、誘拐か……? いや、無いか。
男を誘拐しても良いことなんて無いだろうし、身代金といっても俺は孤児だし。
見たところ他にも俺と同じよ様に男女が8人、横になっている。
まだ俺以外目を覚ましてはいない。
「起こした方が良いのか……?」
見知らぬ他人を起こすというのもなぁ……なんとも言えぬ抵抗感が……。
「……起きたか」
「ひぇうぃ!?!?」
「何を変な声を出している」
「……」
突然背後から女性に声を掛けられた。
自分でも情けない声が出たのを指摘され顔が熱くなるを感じる。
まさかまだ人が居たとは……ん? いや、さっきは居なかったような……あれ?
俺が訝しく思いながら考えていると。
「おい、こっちを向け」
命令口調ですか……。
声を掛けられた。
大人しく言われた通り、声の方へ視線を寄越す、そこには。
「……凄く、綺麗だ」
「 〜〜〜ッ!?」
女性の目が大きく見開かれ、顔がどんどんと首から耳まで真っ赤に染まった。
不思議と自然にそんな言葉が出た、それくらい美しく、綺麗な女性だった。
言った後に自分でも何を言ったのか理解してハッと女性の方を再度見やる。
女性は小声気味で、ブツブツと「わ、私が綺麗……私が……綺麗……」と呟いていた。
ニヤニヤとしたり鋭い顔付きになったりで、何と言うか、見ていてとても面白い。
そんな視線に気付いたのか、回復した女性が再度此方に声を掛けてきた。
「おいお前、何を見ている」
「いやぁ、コロコロ表情が変わって面白いなぁとですね」
「……100回程、死んでみたくないか?」
「は、はは……冗談ですよ冗談、だからその剣仕舞って下さい」
危ない危ない、危うく剣で斬られるところだった。
……ん? 今なんか明らかにおかしいの混ざらなかったか?
けん……?
「剣だと!? な、何で剣が……てかどっから出した!?」
「ああ、コレはな、こうやって、こうだ」
「へー、何もないとこから出たり入ったりするのかー……へー……」
おい、どんな仕掛けだ。
剣が虚空から出たり入ったりしてるんだが。
それと私凄いだろ的なドヤ顔やめろ。
「どうだ? 私凄いだろ?」
「言うのかよ!!」
「ッ!?」
まさか言うとは思わなかったのでつい突っ込んでしまった。
そのせいか女性が驚き剣を落としてしまい、その瞬間なんとも可愛らしい声が出たのでさっきの仕返しも兼ねて、ニヤニヤしながらからかおうと思ったら、剣がいつの間にか俺の目の前に突き刺さっていた。
少しちびりそうになった。
さらに目の前の女性はほんのり頬を赤く染めながらも俺を睨み、虚空から剣を数十本近く取り出していた。
そしてその剣は全て宙に浮き、剣先が此方を向いていた。
今度こそ本当にちびりそうだった。
「……夢だな、悪い夢だ。もう一度寝よう」
そして俺は横になり、そっと瞼を閉じた。