1話
俺の名前は輪童春。
女みたいな名前かもしれないが一応男だ。
身長177センチ、体重65キロ、ちょっと癖っ毛のある黒髪でもちろん黒目。
自分で言うのも何だが、か、顔は、まぁ整っているんじゃないかな? と思う、いや思いたい。
家族構成は、両親無し兄弟無し親戚無しの孤児院育ちだ。
さて、いきなりだか皆は異世界転生というものを知っているだろうか?
恐らく大半の人がファンタジーな世界で新たに産まれ、第二の人生を魔法やハーレムなどを作りながら歩んで行くハッピーな物語を想い浮かべただろう。
けど、それに‘‘当てはまらない例’’もあるという事を知ってもらいたい。
ということで、その当てはまらないという例が不運にも俺なわけで、普通の一般人、常識人の方々は、『は? 頭イッてねコイツ』とか思われるかもしれないが、本当に残念なことに嘘偽り無く事実だ。
俺だって悪い夢だと何回も思って頬だって千切れるんじゃないかってくらい引っ張った。
だが覚めなかった。
現実だと分かっていてもやはり受け入れがたい事だった。
そりゃそうだろう、だって俺は、死んだと思ったら天界で──女神の夫となっていたのだから。
◇◆◇◆◇
「おい」
「……」
「おい」
「……」
「……私を無視をするな」
「ぐぇっ」
後ろからギュッと首元に力が込められる。
瞬間、ふわりとした甘い良い匂いが鼻を突く。
女性特有の高い声、その声は美しく凛しい、気の強そうな印象を与える。
そしてその気の強そうな声で耳元付近から何度も俺の名前を呼ぶ声の主。
俺の首に左右から両腕を回し、背中に寄り掛かって抱き付いている人物、正直やめてほしい。
服越しでもわかるくらいのたわわな二つの実が動く度にむにゅむにゅと背中に押し付けられている。
それと口調と行動が合っていない。
「私がおいと言っているだろ」
あぁ、うっとおしい。
人の理性をガリガリ削っているというのに、いっそこのまま背負い投げしてやろうか?
そもそも俺の名前は『おい』じゃないし。
というか、まさかおいで人に通じると、相手してもらえると思っているのか?
ハハッ、お馬鹿さんめ☆
「……で、なに?」
「構え」
「今構ってるじゃん」
「違う、これはただ話しているだけで構うの部類には入ってはない」
いや入ってると思いますが? 余裕で入ってると思いますが? それと2度目だけど口調と行動が(ry
俺は「構え(命令)」よりも「構って♡(お願い)の方が良い、前者はお呼びじゃねぇです。
抱き付いている時に引き剥がすと余計しつこくなるので今は好きにさせている。
まあ、直ぐ断るのも可哀想なので一応考えてやる。
…………。
「メンドイ」
結論、却下。
俺はまた読んでいた本に集中する。
背中で何か騒いでるのがいるが無視だ無視、相手にしないのが1番だ。
今日に限らず大体の時間はこんな感じだ。
暇さえあれば『構え』、俺が暇そうにしてたら『構え』、暇そうにしてしていなくても『構え』。
それだけならまだ良いが後ろのやつは毎回毎回体を絡ませてくる。
それもピッタリとだ。
チラリと顔を横に向け後ろに付いているヤツを見やる。
「ん? どうした?」
「……いや、何でも」
それに気付き表情を綻ばせる俺の‘‘嫁’’。
身長は173と女性にしては高めな身長、俺と同じ髪色なのに全くの別物だと思わせる程艶やかで柔らかそうなロングヘア。
スッキリとした輪郭、薄紫色の瞳をした吊り目、スッとした鼻筋とほんのりとピンク色をした唇。
世の男性が見たら確実に惚れるであろう十二分に美女と言える容姿とスレンダーな体型ながらも、むちっとした肉付きの良い体。
そんな女性が自らの体を惜しげも無く絡ませて来るのだ。
その度に俺は理性の壁をガリガリと削られている。
現に今も背中に顔を擦り付けてきている最中だ。
まるで自分のものだとマーキングするように。
もちろん最初はここまで酷くはなかった。
1日経つ毎にこうなっていった。
まず1日目、特に何もなかった、会話も殆どだ。
けど2日目、やたら俺の事をチラチラ見てくるようになった。
翌日3日目は一日中話し掛けられめちゃくちゃ疲れたとだけ言っておこう。
詳しくは言いたくない、思い出したくもない。
そして4日目、やつの『構え構え』が始まった、ちなみに毎回名前は呼ばれない。
おい、と呼ばれている。
今日が5日目で、現在に至るというわけだ。
いつになったら解放されるのやら、早く飽きてくれないだろうか……。
「はぁ……」
ここに来て何度目かも分からない歎息が漏れる。
──新婚5日目、早くも俺は、離婚を考えていた。