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思惑に染まる都市

きっとどこかで望んでいるのだろう。


進むことを、


成長することを、


変化することを、


欲するままに、ただ望んでいるのだろう。


人は変わる、生物は変わる、世界は変わる、全ては変わる。


進み、流れ、零れ、弾け、混ざり、汚され、濾され、解け、変化する。


そしてより高く、より強く、より堅く、より気高く、より優れたいと願う。


変化を渇望し、進化を求める、それが、


それがカタチあるもの全ての、欲求であるのならば―――











高層研究棟に切り取られた青空は、今や赤の光で覆い尽くされていた。

科学都市リュオルースに飛来するのは、それの目指した『至高』に最も反する存在、『魔法』。


その全ての『魔法』が、


「閃光型882発、火球型455発、拡散型12発、まとめて『爆発』。」


一気に弾け飛び、青空を赤く染め上げた。


「『サウザンドスペルハッカー』。このあたしの居る戦場に魔法そんなものなんて通用しないもんねー!」


「サウザンド?計算では千を超えていた気がするがな。」


「いいの!万に到達するまではサウザンドにしとくんだから。」


千発以上の魔法の同時爆発による魔力残滓の波が、そびえ立つ高層研究棟の群れを押しつぶすように舐め上げた。

対兵器用強化ガラスが軋むかん高い音が区画一帯に響き渡る。


「まとめて掃除しようとは雑な奴らだ、みすみす『翼の鍵』を手放すつもりか?」


「あたし達みたいに、この世界から出て行きたいって人達ばっかじゃないんでしょ?」


「ああ、まったくその通りだが、だとしたら敵は『鍵』だけではすまんな。」


黒のスーツ姿に色眼鏡の男と、ゴスロリ衣装に身を包んだ少女、一見兄妹のようにも見える男女は、薄い魔力障壁を多重展開し、魔力の波を散らしながら平然と歩いていた。


「やれやれ、早速きたな。黒刃ブラックエッジ展開。」


男がため息まじりに言った直後、スーツ姿の男の周囲を黒の線が縦横無尽に走り回った。

高速で飛ぶそれは黒の刃、切り裂いたのは飛来した巨大な金属杭だ。

金属杭は一瞬にして細切れになり、ただの金属クズとなって魔力障壁の側面を滑るようにぶちまけられた。


「あら、やりますわね。」


研究棟の陰から、一人の少女が現れる。およそ戦場には似つかわしくない可憐なドレス姿の少女の右腕には、歪なまでに巨大な杭打機が装着されていた。


「杭を遠距離射出可能に改造したパイルバンカー、か。だがその程度ではかすり傷一つ付けられんぞ。」


「ええ、もちろん今のはただのご挨拶ですわ。まあそれで仕留められてくだされれば、これを使わずに済んだのですけれど。」


ドレス姿の少女は、スカートを翻し、太股のガーターベルトに仕込まれていた小型のメモリのような物を3つ引き抜き、パイルバンカーにセットした。


「あれは…魔晶石を媒体にしたマジックメモリ!?超レア物じゃんもったいなーい!?」


「うるさいぞ。あれはお前の能力で無効化できるのか?」


「あ、それ無理。あたしが操れるのは純粋な魔力で編まれた魔法だけだから。」


「ちっ、面倒だな。」


男がため息をつく間にも、ドレス姿の少女が構えたパイルバンカーは形を変えていく。


「2ndステージ『ベリアルスティンガー』、さっき飛ばしたオモチャみたいにはいきませんわよ?」


そして、赤の残滓が残る空の下、戦いは始まっていく。

それは間もなく『翼の鍵』を手に入れようとする者達全てが入り乱れる混戦となっていくのだった。






●三時間前


「アルガスティアを見てきただって?本当に君は存在も行動もめちゃくちゃだなあ。」


「その割にはあまり驚いていないようだが。」


「ああ、まあ、ね。君のことだ、遅かれ早かれこうなるとは思っていたよ。ただ少し僕の予想より早すぎたけども。」


「そういうわけで敵が来る、迷惑をかけるが、構わないな?」


「はいはい、めちゃくちゃだけど構わないよ、そういう計画ではあるし。少し前倒しになるだけだ、問題はない。『女神』にも話は通してある。」


「え?え?え?なに?つまりどういうこと?」


「簡潔に言えば、ここはこれから戦場になるということだ。」


いつもの無表情でそう言うカルクさんだったが、私にはわけがわからない。


「君達道中もこんな感じだったのかい?だったらその子に同情するよ、理解力の無い人間には君の話は余りにも簡素すぎ…ってホラ、そう睨まないでくれるかな?その目を見ると体が反射的に急所を守るように調教されたんだ…ついさっきね。」


私の間合いから離れるようにして全身をかばっている白衣姿の男はクルス博士、私達の協力者であり、変態だ。


「まあつまり、カルク君が『偽眼』の力でアルガスティアを『認識』したことでアレに関する知識を閲覧できたわけだ、彼は。」


『閲覧』?ああそうか、カルクさんの『偽眼レコードシーカー』は既知の情報しか得られないから、そういう表現になるんだ。


「で、アレがこの世界を貫く事ができる完成形になる為のパーツについての情報を得た。そしてその一つが―――」


「この『偽典オリジンアーカイバ』だ。」


カルクさんは胸ポケットを叩いてみせた。


「…それってつまり、これがなきゃアルガスティアは完成しなくて…?」


「そう、それを完成させたいと思ってる奴らにとっては喉から手が出るほど欲しい物だろうね。だからわざと力を見せて煽ってきたんだろう?」


「ああ、パーツを所持している奴ら全員に届くように通信システムを拝借してな。それにしても…俺が説明せずともそこまで分かってくれるとは、感動だ。」


「おいおい、僕を無能と一緒にしな…いや、だから睨まないでって…」


「で、でも!なんでわざわざ呼び出す必要があったの?ただ危険になるだけじゃ…」


いや、と、カルクさんはそこで会話を一旦切った。


「奴らの主力をここにおびき寄せ、それと入れ違いで俺たちはここを出発する。いいか、つまりこういうことだ。」


それからカルクさんは、アルガスティア完成に向けての最短ルートを話し始めた。

ちなみに私は彼が話し始めてすぐに顔面蒼白になって気絶したので、起きてからもう一回聞くハメになった。

そしてやはりもう一回気絶した。






●現在 クルスの研究棟


「さあて、派手に始まったようだねえ。『リュオルースの女神』はどうやらこの区画だけで被害を抑えこむつもりらしい、さすがは『科学都市の大脳』だ、最適解だね。」


客人二人が去った研究室の中、クルスは一人でそう呟く。


「無駄に介入すれば後々面倒だ、デコイはこの研究棟にあるわけだし、監視術式を騙し続けられる限りは他の区画を無差別に襲撃することもないだろう、多分。まあどうせ『女神の守護』は完璧だろうけど。」


「随分と他人事のように言うのですね、マスター。」


客人が居る間一切口を開かずに部屋の隅に座っていただけの少女が、今は彼の隣に居た。

彼女は生体型ヒューマノイド、人ならざる、人を模した人口生命体だ。


「そうだよリリス、別に僕はこの都市まちに思い入れがあるわけじゃない、この世界に思い入れがあるわけじゃない。僕は僕の目的以外には興味が無いのさ。」


「マスターの目的、ですか。」


「ああ、人っていうのはね、自分勝手で自己中心的なのさ。そうじゃないと生きてはいけない。何よりもまず優先すべきは自分であり、その他全ては自らの為の糧でしかない。愛だの情だのというのはただの依存だよ、自分の居場所を他人の中に求めるという甘えでしかない。」


「ではマスターは、甘えているのですね。」


「…はは、そうだね、その通りだ。僕の目的は、僕の依存そのものでもある。」


彼のおかげで、少しは近づけた、感謝するよカルク君。たとえ君が『全ての禁忌に繋がる鎖』だとしても。

そう、たとえ僕の甘えの在処がその禁忌の先にあるとしても―――。


「マスター、来ます。」


「それじゃあ僕達も進もうか、リリス。餞別代わりだ、ハズレクジ達の相手をし

てあげるとしよう。」


「戦うのは私ですけど。」


「そういうとこそっくりだよ、君は。」


直後、研究室の自動扉が強力なエネルギーによって消し飛ばされた。

高密度に圧縮された光子の流れは、しかしその先へ貫通することは無く、2つに裂かれ床と壁を抉るように削りとって消失した。


「双剣型デバイス『陰陽神楽』起動。対異能力者殲滅用ヒューマノイド『リリス・レプリカ』、戦闘フェイズへ移行します。」


双の大太刀を構えた少女は、めくれ上がった床を蹴り、地を這うように垂直に跳んだ。

それは二発目のエネルギー波を発射元ごと真っ二つに断ち切り、無機質な通路に血の華を咲かせた。


「そういうとこは、似ていないかな。」


苦笑しつつも、クルスは一歩を踏み出した。

彼もまた、変化を望み歩き出した。

少女を守ることでそれを為そうとする、あの魔法使いのように。



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