短話。ほんの少しだけ、彼等に安らぎを
時の流れがねじ曲げられた世界。
時流という川の中心にポツリと顔を覗かせる大きな石。
言うなれば、どこにでもあって、どこにもない場所。
『クロノスルーム』によって誘われたこの空間を、彼はそう説明した。
そして…
「くかー…」
「うーわめっちゃ寝てるわこの人…」
体育館ほどもある広さの部屋の中心に並んでいたベッドに倒れ込む直前、彼は眠そうな口調で私にあれこれ説明してから、爆睡した。
「ふーん…こうして見ると、結構…」
ベッドにうつ伏せで倒れている彼、カルクの顔をしげしげと眺めてみる。
うん…やっぱりなかなかのイケメンね…
「それにしても、やっぱり疲れてたんだ…そりゃそうよね。」
転移してきた日からずっと、私が起きてる時は常に起きていた。もしかしたら本当に寝ていなかったのかもしれない。
「…どうして、そこまで私を…?」
もしかして…私の事…?
「えっ、いやっ、な、なななな何考えてるの私ッ…!?」
恥ずかしすぎる…!そんなはずないってわかってても、一回思ってしまえば意識してしまう。
「そ、そもそも私の裸二回も見といて(一回目は下着までだけど…)何の反応も示さないような人が私の…こ…と…」
…
あ、やっぱ勘違いだコレ。
あーあ、青春体験一瞬だよ、なんなのもう。
健康な男子ならばもっと違った結果に至るはず。例え好みじゃなくったって、無防備な女の子を前にしたらちょっとはこう…なるんじゃないの?なるでしょ、普通。
「やっぱカルクさんてホ…」
「すぴー!」
「うええっ!?え?寝てるよね!?聞こえてないよね!?」
「すぴ。」
「何寝ながら返事してんのこの人。」
うーん、イケメンはイケメンだが、だいぶ残念な感じなのは否めない。
どうやら異世界で出会ったイケメンとのラブロマンスは望めないようだった。
「あーもう、じゃあいいわよ、それなら警戒しないでもいいってことだしね?はいはいそれじゃあちょっと背中借りますよっと。」
私はカルクさんと同じベッドに仰向けに倒れこみ、彼の背に強く頭を乗せた。
「ぐがっ」
「せめてぬいぐるみの代わりくらいにはなってよね、おやすみ。」
「すぴ。」
そして彼の背を枕に、眠りにつくことにした。
そうして私達は、寝る前に彼が仕掛けたアラームが鳴り響くその時まで、この世界で初めて安眠できたのであった。