フラグメント・ワールド
「世界から世界への転移は珍しいことじゃない。神やそれに準ずる高位存在の意図的な転移、次元断層への巻き込まれ、どこぞの召喚士による召喚、またはそれの失敗のとばっちり。ありとあらゆる方法で世界を繋ぐバイパスは開かれる。もぐもぐ。うん、やはりハンバーグはどこの世界でもうまい。」
「っていうかファミレス、あるんだ…。」
乾いた荒野から一転、目を覚ましたのはホテルの一室だった。ご丁寧に服は脱がされ洗濯されていた…
でも下着はそのままだった…
服は枕元に綺麗にたたまれていた…
青年は隣の部屋のテーブルで紅茶を飲んでいた…
そして今、そのホテル内にあるファミレスでハンバーグ食べてる…
ちなみに私はジェノベーゼ食べてる…普通に美味しいし、字も読める…
本当に別の世界なの…?
「あの…もう今更恥ずかしさとか憤りとか、そういうのはないというか無理やり超越させられた感あるんだけど…ここが別の世界っていうのは本当なの…? 」
「君が元居た世界とは確実に違うだろうな。俺がこの『眼』で知識を得られるのは俺が現在存在している世界についてのみだ、まあこれはこの世界に来て初めて気づいたことなんだが、それで君の情報が得られないということは、君はこの世界の人間ではないということになる。」
「そっか…。とりあえずハンバーグ食べながら喋るのやめてくれないかな…?」
マナーを知らないのかこの人は。
真っ黒な上着着たままだし、マフラーはさすがに外してるけど。
「ん?ああ、すまん。食べ物は熱いうちに食べたいタチなんだ。それより、君の元居た世界には高出力インパルスレーザーカノンのような兵器は存在したか?」
黒衣の青年の質問に、記憶の断片を拾い集めていく。
「ん…、どういうものかはわからないけど…多分無い…かな?そんなメチャクチャな兵器があったら、それこそ大戦争が起こっちゃうもん。」
「力を持っているからこそ起こらない争いもあるんだがな、なるほど、君の居た世界は概ね平和と呼んでも良い世界だったのかもしれんな。」
そう言って青年…カルク…だっけ?
カルクさんは席を立った。
「えっ、ちょっ、どこ行くの?」
「ドリンクバー。」
「あっ…そ、そう…」
「安心しろ。俺はどこにも行かない。少なくとも君を安全な場所まで送り届けるまではな。」
「ここは安全な場所じゃないんだね…。」
「そうだな、さっきの場所よりは遥かにマシといえるが。この世界はいわば他の世界の欠片の寄せ集め、集積場のような世界らしい。数々の世界の破片が寄り集まって成立している極めて不安定な世界だ。」
遠ざかりながら徐々に声を大きくしていくカルク。
「ドリンクバーに行きながら説明するのやめてくれる!?」
周りの人めっちゃ見てる!
怪訝そうな顔ってこういうのをいうんだよ!
「とってきた。コーラとメロンソーダをいい感じでミックスしたやつ。」
「子供みたいな事を…いやでもそういうの推奨してる店舗もあるよね…」
ていうかコーラあるんだ。
本当に別の世界なのかわからなくなる。
現状、この人がそう言っているだけなのだから。
「子供とは失礼だな。俺はまだ24だぞ。そういえば君はいくつなんだ?ああ、差し支えなければで構わない。」
「17歳…だけど。」
そう、高校二年生だ。
「17か。まあ、そうだな、まだチャンスはありそうだから、うん、あまり他人と自分を比べるような事はしないようにな。」
「どこ見ながら何言ってんのかな?」
「突然真顔になるな、冗談だ」
「だとしたらセンス無いから一生言わないで。 」
「善処する。」
表情をまったく変えないまま彼はコーラとメロンソーダのミックスジュースを飲む。
この人、表情の幅狭いな…
「それで、さっきの話の続きだが。」
え、なんだっけ?
確か…世界がどうとか言ってたっけ?
「えーっと…?」
「この世界、『フラグメントワールド』と云う名称だが、『フラグメントワールド』は寄せ集めの世界だ。数々の世界の破片が集まり、一つの世界として成り立っている。」
あ、そうだった。
けど、それってどういうことなんだろう…
「それって、この世界の人たちは気づいてるの?」
「気づいた上で順応している。突然未知の大陸が出現したり、未知の技術が広まったり、未知の生物が生態系を変えてしまう事もある。だが、この世界ではそれは普通の出来事だ。むしろそういった『未知の存在』は、好意的に捉えられている。この世界のレベルを向上させるための餌としてな。」
「こわくないのかな…知らないものに対する好奇心が、そういう感情を超えちゃってるってこと?」
「全ての人間がそうじゃない。ただ、この世界を導く権力者達はそうだ。だからこそ、好奇心の的となる別世界の俺達は、今どういう状況にあると思う? 」
「俺達って…わ、私も⁉︎ 」
「見たところ何の特殊能力も無さそうではあるが、潜在能力を調べる機関も存在する。外の世界からの転移者はいわば情報の宝庫だ。捕まって全身を分子…いや、霊子レベルで解析される可能性は否定出来ないな。」
「そんな怖いこと言わないで!コーラ飲みながら言わないで⁉︎」
とても大事な場面だよ!
「何度も言うが安心しろ、俺が君を守ってやる。俺もこんな世界に長居するつもりはないし、実験動物にされる気もない。別世界の住人同士、さっさとこの世界を脱出しようじゃないか。」
「…ま、まあ、一回命を救われていることだし、あなたの事は信用してる…信頼は…まだできないけど。」
「…それで良いさ。」
…?
今、少し表情が緩んだような…
改めて見直してみると、さっきまでの無表情がそこにあった。
気のせいかな…
「食事が終わったら、部屋に戻って支度をしよう。その時に俺の能力について説明しよう。」
「あのカードみたいなやつ?あんな力が使えるなんて、カルクさんって一体何者なの…?」
「俺か?俺は、」
カルクは飲み終わっていたメロンコーラの氷をがりがりと噛み砕いてから、私の瞳を見つめてこう言った。
「俺は、『全ての禁忌に繋がる鎖』だ。」
…
…
…
「え、なにそれ。」
「え、何だその反応。俺の世界ではそう呼ばれてたし。」
「それ二つ名とかハンネとかそういうのでしょ?職業とか、そういうやつを聞いてるの! 」
「ハンネ…?職業か、それなら『魔法使い』だな。」
「まほっ…?い、いや…今更…かな?今更…よね、あんなもの見せられたら、受け入れるしかない…よね…?」
「どうした?君の世界にはいないのか、魔法使いは。」
「そういうのはアニメとか小説とか、フィクションの存在だったよ…」
「…それはまた、珍しい世界だな。それならば、特別な能力も無いような世界なのだろう、本当に平和な世界だったのかもしれんな。」
「…そうでもないよ、たぶん。」
「そうか。」
何か悟ったような顔をして、カルクは立ち上がった。
「じゃあ行こうか、君が寝ている間にこの世界の服を買っておいた、君が着ている服は制服のようだし、ここでは目立つ。」
「お気遣いどーも…」
男の人に服を買われていた…
流れ的にデザインがどうであれ着なきゃいけないやつだこれ…
せめてまともなデザインでありますようにと願いながら、彼の後をついて行く。
これから一体どうなるのだろう?
と、考えてばかりいたせいで、結局また名前を名乗る事はできなかった。