四 階段の踊り場 2
「なにが起きてるの? もしかして学校の七不思議? 今何個目?」
動く青春の像、寒い玄関、理科室の女の子、踊り場の生徒、歌うポスター。五つ。やだ、まだあと二つもあるってこと?
「木津くん、うちの学校ってそんなに古かったっけ? 創立何年?」
「たしか六十年は過ぎてるはず。でももしかしたら学校というより、土地に関係があるのかもしれない」
厳しい表情のまま言う。いつのまにか木津くんのほうが、手が冷たくなってる。向かい合ったまま、立ち尽くす。
木津くんは窓の外のグラウンドを見やった。夜のなかだと、まるで大きな穴のような錯覚がした。
「砂嶺町の由来は知ってる?」
「入学式のときに聞いた話なら。仙人が魔法で山を消してくれたって言うの」
「……魔法じゃなくて、仙術だからな。その仙人は、もとは数の千人なんだ。人足を千人集めて、山の土を運ばせた。ここには、その人足たちが埋められてるんだって。だから、町の名前の〝しゃれ〟は〝髑髏頭〟の意味でもあるんだよ」
学校の下に、千人の死体。
「この学校、呪われてるの?」
「まあ今の様子だと、な」
うわあ。背中のなかに、足がいっぱいある虫を放り込まれた気分。
「……知らないほうが良かった。木津くんはそんな話、どこで聞いたの?」
「ザッケンだから。土壌とかも調べるんだ」
「まさか、変な反応があったりとか」
「そこまで本格的じゃない。だいいち、この話自体、ものすごく昔のことだし」
そんな昔の呪いがかかってるかもしれないなんて。お腹が痛くなってきた。くぅぅぅ、と……あれ?
「お腹すいてるのか?」
「晩ご飯は食べたよ? でもやっぱり動きまわると、ちょっと小腹が減るというかっ」
恥ずかしい。こんなときに鳴るなんて。怖くてたまらないのに、わたしのお腹は気楽そうにしている。
「ちょっと待って。俺、いいもの持ってる」
木津くんはポケットからしわくちゃの紙包みを取り出した。開くと、なにかの残骸が姿をあらわした。
「今日の喰い放題のクッキー、美味しかったからこっそり包んだんだけど……」
少し決まり悪そうに言う。あれだけ走りまわったりしたんだから、クッキーも無事じゃないよね。
「食べてもいい?」
「ん? ああ、どうぞ」
比較的おおきめのかたまりをつまんだ。卵とバターの風味と、ナッツの香ばしさが口のなかに広がった。
「わ、おいしい」
「だろ? ここの喰い放題、デザートがすごい凝ってるんだよ。プリンとかも、ちょっとふつうじゃ食べられない味でさ。チョコフォンデュもあって、マシュマロつけて食べたらこれがまたうまいんだ」
木津くんもクッキーを口にほうりこんで嬉しそうにした。
「木津くん、甘いの好きなの?」
「甘いのも辛いのも、どっちも。ああ、俺もお腹減ってきた。学校出たらラーメン食べにいかないか?」
「ラーメン? こんな遅くに、お店やってるとこあるの?」
「深夜から朝方くらいまでしか開いてないところがあるんだよ。正門出て、ちょっとわき道にそれたところにある店だから、知ってるやつは少ないんだけどね。でもうまいんだよ。煮干ダシの醤油ラーメンでさ。ネギをたっぷり入れて、半熟煮卵を割って細麺とからめながら食べるんだ」
聞いてたら、つばが出てきた。
「行く。食べたい」
「そうと決まれば、さっさと出よう。それでラーメンだ」
お腹がすこしふくれたおかげで元気も出た。もう一度手をつなぎなおす。
なんだかんだ言って、もうすぐコの字の曲がり角。廊下をまっすぐ行って、四階への階段をのぼれば、外はすぐそこ。




