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突風吹く

あの凄惨な事件から一年がたち、僕達は王国の南東、故郷の町から南へ進んだ先にある『マドゥロス』に生活拠点を移していた。



マドゥロスは『マドゥロス古代遺跡群』の上に立てられた比較的大きな街だ。

遺跡発見当初は保存の動きも見られたらしいけど、地面が全て石畳になっていて、交通もしやすいとのことで、遺跡をもとに発展していった街らしい。

住民の特徴としては、乾いた気候のために巻き上げられる砂避けとして、首元に大きなストールをつけていることだろう。

乾いた気候とはいえ、マドゥロス遺跡群はオアシスを中心として作られた遺跡だったため、生活に特に困ることもなく、住民たちは明るく気さくな人が多い。



この街の大きな特徴として、街の中央部に『マドゥロス古代地下遺跡』と呼ばれる、地下へと続く深い地下道がある。

構造としては、

『表層部』…観光目的に一般開放されている。

『上層部』…一通りの探索が済みモンスターの危険も高くはない。

『中層部』…だいたい探索は住んでいるけど、モンスターがそこそこ危険なものがでる。

『下層部』…探索があまり済んでおらず、モンスターも危険なものがで多い。

表層部の内部は壁に精緻な装飾が刻まれているため、観光の一環として一般開放されているけど、それ以降からは話が変わってくる。



上層以降に進もうとすると、冒険者に登録していることを示すネックレスが必要となる。

ネックレスさえあれば、新米であれ、熟練者であれ自由に内部へと行き来ができるようになるけど、その先で起こったことは全て自己責任になっている。

ちなみにこのネックレスは3種類あって、三角形が『新米』、逆三角形が『中堅』、その二つを重ねた形の六角形が『熟練者』になっている。

もう一つ上の『超越者』を示す球体もあるけど、王様が認めないと発行されないからあってないようなものだ。



一応ネックレスで大まかな判断が出来るとはいえ、同じ中堅同士・熟練者同士でも実力が大きくひらくことも珍しくない。

商人たちが冒険者に依頼をする時は、まずネックレスをとりあえず確認して、装備を見て、人となりを知ってようやく雇うというようにしているらしい。



そして、冒険者として一年が経過した僕は、中堅として遺跡の中へと潜る日々を過ごしている。

遺跡探索の常連としてもそこそこ有名になってきたようで、最近では『薄切りジャック』なんて二つ名も勝手につけられている。

街の人たちも気軽に接してくれるようになって嬉しいのだけど、冒険者仲間たちには「今日の地下狼の薄切りはいくらだ?」なんていってからかわれている。

ちなみに地下狼はとてもまずくて食べれたものじゃないから廃棄物だ。



僕の今の住居は、格安で住まわせてもらっている宿屋だ。

あの時、行き場をなくしたアイシャを連れて僕はこの街を目指した。

僕は冒険者として依頼をこなし、遺跡に潜ってお金を稼ぎ、アイシャはその間この宿屋でお手伝いをしている。

宿屋のおかみさんは優しく、あの時のことを話すと宿代を安くしてくれ、その上僕が稼ぎに行っている間、お手伝いとしてアイシャの面倒をみてくれると言ってくれた。



アイシャはアイシャで、当初こそ無気力な日々が続いたけど、次第に自分のやることを見つけたのか、今では宿屋の看板っ子として元気に働いている。

夜は酒場としても開かれるこの宿屋では、アイシャは仕事で疲れたおじさんたちの癒しらしい。

たまにおじさんたちにお小遣いも貰っているそうだけど、アイシャはもらったお金はしっかりと貯めている。

なにかやりたいことがあるのかは分からないけど、目標があるのならいいことだと思う。



アイシャとの仲は極めて良好だ。

アイシャはもともと僕を近所のお兄さんと知っていたこともあってか、当初から素直に言うことを聞いてくれた。

今では僕のことを兄さんと呼び、仕事から戻った僕にご飯を用意してくれたり、世話を焼いてくれる。

最近では、当初の関係が逆転し始めていると感じているけど、特に問題も起こっているわけじゃないし気にはしないようにしている。



気にすると言えば、アイシャはあの時のことがやはりトラウマなのか、僕が夜眠っていると震えながら僕の布団に入ってくることがある。

そんな時、僕はアイシャに対してどうすればいいのか分からず、アイシャが入りやすいように位置を調整するぐらいだ。

なんとかしてやりたい…とは思うが、心の傷は僕の専門外だ。

結局は、時間にまかせるしか僕には手だてがないのだ。



そして、今日も遺跡群を照らす太陽が現れ、その光が部屋の中に差し込んできた。

明るい日差しを浴びて、ベッドの上でまどろんでいると、部屋の外からトトトッと足音が響いてくる。

かちゃと静かにドアが空き、その侵入者は僕の頬に人差し指をぐりぐりと押し付けてきた。



「兄さん朝ですよ!起きてくださいね」


「んぁ…。おはよう、アイシャ」



この朝の起こし方はアイシャの中でもはや定番となっているのか、前に足音が聞こえた時点で体を起こしたら部屋に入ってきたアイシャは少し不機嫌そうだった。

それ以来、僕は目が覚めてもアイシャが起こしに来るまではベッドの中でまどろむようにしている。

そして、本気で二度寝してしまうこともよくある。



体を起こして、アイシャに急かされながら下りると、パンの焼ける香ばしい匂いが広がってくる。

促されてテーブルに着くと、アイシャがご飯を運んできてくれる。

少し不格好な形のパンはアイシャが焼いたものだろう。

ちらりとおかみさんの方を見ると、おかみさんは笑顔で小さく首を縦に振る。

焼きたてのパンを千切って口に運び、一息つく。



「やっぱりここの朝食はおいしいね」



僕がそういうと、アイシャは笑みを浮かべて嬉しそうに「うん!そうだね!」と言って、自分も朝食を取り始める。

今日は前よりも形がキレイに出来ていたから、期待していたのだろう。

笑みを浮かべて、本当においしそうに食べる姿がなんとも愛らしい。



「ジャック君、食べ終わったらちょっと裏にきてくれるかい?いつものパパッと頼むよ!」


「あ、はい。わかりました。あとでやっておきますよ」


「いつも助かるよ。ありがとうね」



いつもの…とはつまり薪割りである。

これは週に何回か頼まれる雑用で、宿の裏に詰まれている薪を適当な量割っておけばいいだけだ。

この宿屋は事故で死んだ夫の宿をひきつぐ形でおかみさんが一人で切り盛りしている宿で、従業員は近所のお姉さんが2人、お手伝いのアイシャが1人なだけだ。

なので、薪割りを出来る僕がいるのはとても助かるらしい。

僕もこの程度のことは、もう朝食はとっちゃったけど朝飯前なので、何の問題もない。



薪割りが済んだ僕は、まずはアイシャに声をかけて今日はどこに行って、どれくらいの時間に戻るか予定を伝えてあげる。

というのも、予定を告げずに遺跡探索仲間たちと一夜を過ごして帰った時に泣かれたからだ。

待てども戻ってこなかった僕が、死んだ両親と同じようになったんじゃないかと不安でたまらなかったらしい。

面倒を見てくれていたおかみさんにもしこたま怒られてしまった。



宿屋を出た僕は市場へと出かけ、今日の探索中のご飯にするためのサンドイッチ屋へと向かう。

ひいきにしているサンドイッチ屋へと出かけ、ワイルドな親父が手作りをしている小ぶりで可愛らしいサンドイッチを買う。

腰につけた大きめのポーチの中へしまい、市場を見て回る。

市場にはまれに掘り出し物のアイテムや、装備も出回ることがあるけど、今日は特になにもないようだ。



顔見知りの露店を冷やかしつつ、市場を出た僕はマドゥロスの目抜き通りを抜け、マドゥロス古代地下遺跡と向かう。

商店の仕入れでせわしい馬車の横を通り過ぎ、売り子たちのかしましい呼び声を背後にしばらく進むと、その入り口が見えてくる。

精緻な模様の施された荘厳な入り口を抜けると、地下へと続く階段が現れる。

階段途中の左右の壁には、僕にはよく分からないけど、様々な模様のようなレリーフが刻まれていて、それらに松明がゆらゆらとした明るい光を投げかける。



少し長めの階段を下りきると、開けた表層のフロアが目の前に広がる。

観光目的で開放されているから、昼間なんかには大勢の人がいることも多いこのフロアだけど、まだ朝早いためか人は冒険者っぽい人ばかりだ。

普通はこの場で相手を見繕って、即席のチームでもぐることも多いけど、今日は僕はチームは組まない。

遺跡内では背後からの強襲や、左右、前後からの挟撃、トラップなどの発見が必要になる場面も多い。



だからこそ、普通はここでチームを組んで地下に潜っていくのだけれど、今日は中層部の探索がほとんど済んでいるフロアの一つで稼ごうと思っているから問題ない。

たまに危険なモンスターと遭遇することもあるけど、中層部のモンスターならよっぽどのことが無ければ僕は負けない。

探索もあらかた住んでいるからトラップなんかも解除されているものばかりだ。

チームを組むのは、言い方は悪いけど新参の冒険者達や、地下深くまで潜ろうとする人たちだ。



僕を含めた遺跡常連組は単独で地下へと潜ることも多い。

たまに、そんな僕らを見て無謀に単独で潜る新米もいるらしいけど、雰囲気を察して門番が通さないようにしてあげている。

門番は、王都から派遣された遺跡管理のマグトーニ伯爵の私兵がやっているけど、通さないようにしているのは彼らの優しさだ。

彼らの仕事は、一般人が間違っても遺跡内部に入らないように監視するだけで、危険だからと言って止める義務はない。



あまりにもしつこい人がいると、遺跡常連組の内の何人かが、その人を泣きが入るまで中層部で連れまわすらしい。

僕も数回それを手伝ったことがあるけど、自信満々で偉そうな口を叩いていた奴が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら上に戻してくれと頼むのは少し気分が良かった。



今日はそんな迷惑な人達もいないようで、チームへのお誘いをやんわりと断りつつ、門番の下へと行く。



「大丈夫だとは思うが、決して無茶はするのではないぞ」


「気を付けます」



門番の人に逆三角形のネックレスを見せ、通してもらいつつお決まりのやりとりを済ませる。



門番が立つ先の階段を下りきると一気に遺跡の雰囲気が変わる。

表層部の明るく開けていたフロアは無くなり、入り組んだ迷路のような四角い通路が現れる。

まるで何かを試すかのように一気に性格を変える遺跡の内部に、いつもどおり気を引き締めながら歩を進める。



とはいえ、中層部までは探索がほとんど済んでいるので、通路にはマーカーが敷かれ、次の階層までのルートがバカでも分かるようになっている。

マーカー通りのルートを進み、ときおり飛び出してくるモンスター達を一閃しながら進んでいく。

普通は素材を取っていくところだけど、一人じゃ持てる者も限られているからそのまま放置しておく。



死んだモンスターは運よく他の冒険者が素材を取っていくほかは、別のモンスターの食糧になる運命にある。

中層部以降では食糧になるような死体が少ないため、モンスター同士が殺し合っていることもある。

そんな場面に出会えたら幸運で、倒したばかりで弱ったモンスターは楽に殺せるし、倒されたモンスターからはそのまま素材を拾うことができる。

そんなことをしていてモンスターがいなくならないのは、遺跡管理をしているマグトーニ伯爵も不思議に思っていることらしいけど、その謎は解明されていない。



そんなこんなで階層をだんだんと降りていき、ようやく中層部に入ってきたところで気を引き締めなおす。

中層部に入ったかどうかは簡単に分かる。

通路の色が暗い青色に変わるからだ。

上層部が赤色、中層部が青色、下層部が紫色になっていて、一目で自分が3つの内どれにいるかが分かる。



通路も若干上層部よりも広がっていて、その分巨体なモンスターも出現するようになっている。

人を縦に重ねたほどの高さの通路に、その高さいっぱいの大きさのモンスターが出現することもまれにある。

そういう敵は決まって危険な奴らばかりで、ベテランであっても油断をしていればさっくりと一撃で殺されてしまうこともある。

よく見られるモンスターは冒険者同士で情報共有されているから、だいたいの場合なんとかなる。

だけど、そういうモンスター達は目撃例も少なく、未知のモンスターが出た場合は対応策が練られてないために非常に危険だ。



僕が出くわした未知のモンスターは、スライムの進化したタイプのモンスターで、右手の刃がまったく役に立たずに冷や汗をかいた。

最終的には偶然コアと呼べる球体を刃が貫いたことで倒せたけれど、その代わりに右手の肘のあたりまでが酸でただれてしまった。

宿に帰ってきた時にはアイシャにさんざん泣かれてしまったのが苦い思い出だ。



そんな苦い思い出を思い返していると、目の前にリザードライダーが現れた。

トカゲ型のモンスターの上に武装したスケルトンが騎乗するという珍しい組み合わせだが、これが結構めんどうくさい敵なのだ。

トカゲは左右の壁、天井、通路のどこにでも張り付いて襲ってくるし、乗っているスケルトンはなぜか落ちるどころか体勢すら崩さずに一撃を繰り出してくる。

対処方としては、それぞれはどちらも上層部で出るモンスターなので、スケルトンの頭を砕き、それからリザードを殺すという方法。



このモンスターのめんどうくさい所が、なぜかリザードの方を先に倒してしまうとスケルトンが怒り狂って猛攻をしかけてくるところだ。

初めてこれの相手をした時にリザードを先に殺してしまったせいで、息もつかせぬ猛攻を仕掛けられたのには驚かされた。

そして、しばらくしたらスケルトンが突然砂になって死んでしまったのにも驚かされた。

冒険者仲間の間ではきっとペット愛好家のスケルトンなのだろうということで落ち着いている。



そういうことでさっくりと頭を落として、リザードの頭に刃を突き刺して処理を完了する。

素材は特にはないが、スケルトンの骨はなぜか良い出汁がでるらしく、買取もされてはいる。

が、それは上層部のスケルトンでも変わらないため、わざわざとる必要性はない。



探索のためにマーカーからそれて、通路を進んでいくと、様々なモンスターが湧いてくる。

大型の狼『地下狼』、やたら顔面の大きい鳥『ビッグフェイス』、緑色の『腐れスライム』、糞を投げつけてくる『糞ゴリラ』、硬い体が自慢の『ブロンズゴーレム』、その仲間の『ゴールドメッキゴーレム』、小さいが危険な『ミニマムデビル』、騎士型の『スカルナイト』


様々なモンスター達が湧いてくるが、今のところ出会っているのはネタ扱いのモンスターが多い。

メッキゴーレムなんかはブロンズゴーレムと同じ強さだけど、一撃を放つたびにメッキがボロボロ剥がれていくネタ要素の塊のようなものだ。

この中で強いモンスターといえばミニマムデビルで、戦闘中でも魔法を使って背後に瞬間移動してくるので、気を付けなければ首のあたりをザックリとやられてしまう。

対処方法は、姿が消えたら間違いなく背後にいるので、すぐに前転してよけるか、振り向きざまに一撃を放つかのどちらかだ。

移動直後は無防備なため、あたれば必ず攻撃はヒットするので、慣れたらその時に頭を狙えばそれで戦闘は終わる。



「あ」



中層部のモンスターは、特に動きにパターンが見られるから、慣れてしまえば対処方法と照らし合わせて処理をすれば意外に楽だ。

だけど、対処方法を知っていてもどうしても相性の問題でどうにもならないような場合もある。

魔法使いは自分の得意な属性と反対の属性を持つモンスターが、格闘家は幽霊型の実体をもたないモンスターが、刀剣使いは液体状のモンスターが苦手だ。

たとえば、僕が苦手なタイプのモンスターはちょうど後ろから来たスライムだ。



「まずっ…」



いくらスライムといえど小さな個体だったら、スライムの核となる球をこわせるけど、一定以上の大きさになったスライムに勝つことはほぼできない。

僕のような刃がそんなに長くない刀剣使いが無理に核を壊そうと突っ込めば、体の中に引きずり込まれてしまう。

以前戦ったスライム型のモンスターの進化前の姿だけど、通路の高さギリギリまでの大きさでは倒す方法が見つからない。

僕は逃げるという選択肢を迷わず選んだ。



「しつっこい…!」



逃げる僕を意外なほどの速度で追い掛け回す巨大スライム。

僕は腰の小袋からスライム対策に買っておいた硬化剤を投げつけるが、巨体ゆえに焼け石に水だ。

小型のスライムなら動きがかなり鈍くなるけど、まったくその素振りが無い。

それに周りの通路にマーカーがないことから、もうすでに中層の未探索エリアまで入り込んでしまったらしい。

このスライムを撒いたとしても、探索エリアまで戻るのは相当に骨が折れそうだ…。



スライムは特殊な個体を除いて、目などは無い。

だけど、その代わりに超音波のようなものを発生するのか、スライムから完全に身を隠さなければどこまでも追ってくる。

通路の途中に身を隠せるような部屋はトラップ部屋や、お宝部屋を除いて基本的になく、この2つも滅多に見つかるものじゃない。

通路も一本一本はそこそこ長く、普段は見通しがいいのだけど、今はそれが逆に仇になっている。



…そろそろ息が上がってき始めた。


このままじゃまずい…。

どこでもいいから、この巨大スライムをやり過ごすことが出来る場所がないとじり貧だ。

じわりと浮かんできた冷や汗と荒くなり始めた息に危機感を抱く。



「よしッ!部屋だッ!モンスターがでようとスライムよりはマシだろ!」



目の前に見える十字路を右に曲がった直後に見えた半開きの扉に迷わず飛び込んだ。

急いで扉を閉めて、扉に耳をあててスライムが通り過ぎるのを待つ。


ずるりという粘着質な音が遠ざかってから、ようやく僕は息をついた。

今回はちょっとひやりとしたな…まぁそれよりもこの部屋は何の部屋だ?



顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、小さな祭壇のようなものと宝箱だ。

所々風化したように見える小さな祭壇の上に載っているのは、重厚感のある立派な宝箱だ。



「スライムに追いかけまわされて逃げ込んだ部屋がお宝部屋か、出来すぎな気もするけどラッキーだな」



一応周りにトラップがないか確認しておくか。

まずは部屋の壁を隅から隅まで見ていくけど、不自然な凹凸や穴はどうやら無いようだ。

中層部のトラップは毒を塗りこまれた矢がトラップとして飛んでくることもあるから一安心だ。

天井も注意深く見てみるけど、壁と天井の間に隙間はないから吊り天井ということもないみたいだ。

肝心の宝箱の周りもワイヤーなども見当たらないから安全そうだ。

宝箱自体は後ろに蝶つがいのある上に開くタイプの一般的な宝箱らしく、少し豪華な見た目を除けば特に変わった何かがあるわけでもない。



「なんか拍子抜けだなぁ。ま、スライムに追い回された甲斐はあったってことかな?」



祭壇にどんと鎮座する宝箱を押し上げると、中からは光り輝く手のひら大の宝珠が姿を現してきた。



「これは…。何かよくわからんが売ったら相当の儲けになりそうだな…」



手に取ってみると意外なほどに軽い。

水晶の玉のような重さを予想していたから少し肩すかしをくらったような感じだ。



≪光輝の宝珠を手にせし者よ。汝、地の底の狂える亡者の憎悪を下し我にその力を見せよ≫



なんだ!?一体どこから声が聞こえてきてるんだ!?

あたりを見渡すけど、部屋の中のどこにも声の主はいない。

まさかとは思い手の中の宝珠をみると、次第に光が強まっていく。



「しまっ…!?」



僕が手の中の宝珠を投げ捨てた時には既に時遅く、目を焼くほどの光となった輝きに僕の体は包まれてしまった。


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