地下牢の二人
「よう、おとなりさん。オメーなにやらかしたんだ?」
うっすらと湿ってひやりとした石材の床。すえた匂いと淀んで息苦しい空気。
ここは重犯罪者とされる者達が放り込まれる王城内の地下牢。
今いるのはこの二人だけである。
「何も」
新しく隣牢に入ってきた男に問いかけたものの、返事は期待していなかったが、
『新人』は一言だが答えてきた。
「何も、ってンな訳ねぇだろ。知ってっか?
ここはお貴族様襲撃とか無差別連続殺人とか、
そんなのやらかしたヤツしか入れねえんだぞ?」
『古株』の言う通り、今までの「おとなりさん」はそうした者ばかりだった。
古株と言ってもここに収監されて二ヶ月と少し。隣人は数度入れ替わっている。
ちなみにこの男は、貴族令嬢に対する複数の強姦事件で捕縛されていた。
家と被害者の名誉に関わるため、まだ犯行の全貌を特定出来ておらず、
刑罰が止められている状態である。多分処刑は免れないだろうが。
「知っている。まだ何もやっていない」
「ハッ、とぼけるんならいいけどよ。
オレの場合はたまたま襲った女どもがお貴族様でさ。まあ全員じゃねぇが。
最後の最後にしくじって憲兵サマに見つかっちまった。
あともう一人で記念すべき十人目だったのによ」
「ひどいやつだな」
「ケッ、ここに入ってるオメーがそう言うのかよ?
似たようなんなんだろ?オメーがやらかしたことも」
「まだ何もやっていない」
「あー、イヤだねぇ、ウソツキは。
憲兵サンたちは許さねぇんだぞ、そういうの」
『古株』は自分の発言に受けたのか、ひゃっひゃっひゃっ、と笑う。
興が乗ったのか『古株』はひとり犯罪自慢を続ける。
「女で楽しんだ後は、金目のモン奪ってうまいもん飲み食いしたり、
娼館で『おかわり』したりしてたけどよ。目立ちすぎちまったな。
髪飾りとか指輪とかじゃ、売っ払うと簡単にアシが付くんだな。
いや、勉強になったわ」
「…貴族のご令嬢は、そのうちどんな相手が何人いたんだ」
唐突に『新人』が聞いた。
「ん?興味ねぇのかと思ってたぞ。
確か…それっぽい美人のは三人か?栗毛二人に赤毛のが一人いたな。
あとは多分野暮ったかったから平民とかじゃねぇか?」
「そうか。それを聞けば充分だ」
隣の牢の扉が開いた。『新人』は牢から出て『古株』の牢の前に立つ。
なるほど確かに『新人』は犯罪者には見えない。容姿も服装も。
鉄柵の間から突き入れた手が『古株』の首を掴んだ。
『古株』はとっさの事で避けることもできず掴まれたままもがくが、
とてつもない腕力でどうやっても離れない。
「三日前、ある赤毛の貴族令嬢が心を閉ざしたまま自ら命を絶った。
お忍びで街に出ていたが、見るに堪えぬ姿で路地裏で発見された。
婚約者から送られた指輪が奪われていた。
年の離れた私の妹だ。
自己紹介がまだだったな。私は死刑執行官をやっている。
お前の証言は有効。妹の件もお前の犯行だとたった今確定した。
処分は私に一任されている。処刑方法もな。
刑を執行する。すぐ楽になれると思うな。
まず恨み辛みも言えぬように喉を潰す。その後股間を叩き潰す。
腕を折り、目を潰し、汚らわしい両手の指を一本一本引きちぎる。
後悔しながら死んでいけ」
『古株』の喉が鈍い音を立てて潰された。




