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第二話.仕込みと新たな観客

静かな部屋。


机の上に並ぶカードとナイフ。


「……素材が違うな」


クロウは一枚のカードを指で弾く。


軽い音。


だが、その感触は——前世のそれとは別物だった。


(魔力が通る)


指先に意識を集中させる。


すると。


カードの縁が、わずかに歪む。


「やっぱりな」


この世界の“道具”は、ただの道具じゃない。


「なら——」


ナイフを一本手に取る。


「組み合わせるか」


道具強化


数時間後。


机の上には、改造された道具が並んでいた。


・魔力伝導カード

・軌道固定ナイフ

・仕込み用の極薄ワイヤー


「いいね」


カードを一枚取り出す。


意識を込める。


すると


数字が、変わった。


「……“7”」


(ある程度コントロールできるな)


さらに集中。


「……“J”」


カードの質が、明らかに変わる。


重い。


鋭い。


(観客がいなくても、ある程度は引ける)


だが。


「安定はしないな」


パッとカードが“2”に戻る。


(やっぱり本番頼りか)


そのとき。


コンコン、と扉が叩かれる。


「入れ」


使用人が頭を下げる。


「旦那様よりお呼びです」


(来たな)


特別な観客


広間。


前回よりも、空気が重い。


並ぶ人影。


鎧を着た男たち。


ローブの魔法使い。


そして


中央に座る、別格の存在。


(……あれは)


ただの貴族じゃない。


空気が違う。


圧がある。


「来たか、クロウ」


雇い主の貴族が笑う。


「今日は特別だ」


「お前の芸を見たいという方がいてな」


視線が集まる。


一人の男が口を開く。


「聞いている」


低い声。


無駄がない。


「“危険な芸人”だと」


(面倒なのが来たな)


クロウは、ゆっくり頭を下げる。


「ただの道化師でございます」


弱く。


控えめに。


だが


「ほう?」


男の目が細くなる。


「その割には、随分と落ち着いている」


(見抜くタイプか)


「慣れておりますので」


即答。


嘘ではない。


ショー開始(強者相手)


「では」


クロウは、ゆっくり前へ出る。


(観客は精鋭)


(数は少ないが、質が高い)


「少しだけ——刺激の強い演目を」


カードを取り出す。


【観客:8名】

【感情:警戒・興味】


(いいね)


一枚、投げる。


空中で——止まる。


「……?」


さらに一枚。


止まる。


合計、五枚。


空中に浮かぶカード。


「これは?」


誰かが呟く。


クロウは、笑う。


「ただの的です」


その瞬間。


ナイフを投げる。


高速。


だが


当たらない。


カードの“横”を通り過ぎる。


「外したか?」


次の瞬間。


カードが“遅れて”裂ける。


「っ!?」


時間差。


ズレ。


認識の遅延。


(視覚錯誤の応用)


さらに。


「もう一つ」


クロウは、あえて“ミス”する。


ナイフが、観客の一人へ飛ぶ。


「危な——」


止まる。


目の前で。


完全停止。


「……!」


静まり返る空間。


クロウは、ゆっくり歩み寄る。


「安心してください」


ナイフを抜く。


「“当たりません”から」


(実際は——)


(いつでも当てられる)


沈黙。


そして。


「……面白い」


最初の男が、口を開く。


「魔法ではないな」


「だが、魔法以上に厄介だ」


(正解)


「欲しい」


その一言で、空気が凍る。


「うちに来い」


周囲がざわつく。


(来たな)


より大きな権力。


より危険な舞台。


クロウは、少しだけ困った顔をする。


そして


雇い主の貴族を見る。


「……私は、既にお仕えしておりますので」


あえて、忠誠を見せる。


(信頼を稼ぐ)


貴族は、満足そうに笑う。


「はは、当然だ」


「こいつは渡さん」


空気が、ピリつく。


だが。


「……そうか」


男はそれ以上言わない。


ただ一言。


「なら、せいぜい死ぬなよ」


(脅しじゃない)


(忠告だな)


クロウは、静かに頭を下げる。


「ご期待に沿えるよう、努めます」 


裏の確信


部屋に戻る。


「……面白くなってきた」


カードを一枚取り出す。


(強者が増えるほど)


(観客の質が上がる)


「つまり——」


「俺は、もっと強くなる」


そして。


天井を見上げる。


「見てるか?」


誰に向けたかは、明らかだった。


「まだ序盤だ」


にやりと笑う。


「本番は、これからだぞ」


朝。


屋敷の庭。


昨夜の血の跡は、もう消えている。


「……綺麗なもんだ」


クロウは、小さく呟く。


(誰も気づいてない)


それが、この世界の“普通”。


「だから楽だ」


そう言いかけた、その時。


パチ、パチ、と音がした。


「……ん?」


振り返る。


そこには、一人の少女が立っていた。


年は、十代後半ほど。


白い髪。


薄い笑み。


そして——


拍手していた。


「すごいね」


静かな声。


「とっても、綺麗だった」


空気が、変わる。


(……見てた?)


クロウの目が、わずかに細くなる。


だが次の瞬間。


「……何のことだ?」


弱く、困ったように笑う。


“表の顔”。


少女は、首を傾げる。


「え?」


一歩、近づく。


「ナイフ、飛んでたでしょ?」


「血も、出てた」


「人、死んでたよね?」


にこり、と笑う。


(確定か)


クロウは、数秒黙る。


そして


「……見間違いじゃないか?」


最後まで、演じる。


だが。


少女は、くすっと笑った。


「やっぱりいいね」


「その顔」


一歩、さらに近づく。


距離が、近い。


「ねえ」


小さく、囁く。


「どうやったの?」


「どうやって、“あんな風に”殺したの?」


その目は


恐怖がない。


(……普通じゃないな)


クロウは、初めて“素”の目になる。


「……興味本位か?」


「うん」


即答。


「あと——」


少女は、少しだけ頬を赤らめる。


「綺麗だったから」


「名前は?」


クロウが聞く。


「リゼ」


「リゼ・アルディア」


(アルディア……)


一瞬、思考が止まる。


(この家の……)


「この屋敷の娘だよ」


にこり、と笑う。


(やっぱりか)


つまり


(下手に消せない相手)


リゼは、クロウの目をじっと見る。


「ねえ」


「また見せてよ」


「さっきのやつ」


「“裏のショー”」


沈黙。


普通なら。


拒絶する。


距離を取る。


だが。


クロウは、ゆっくり笑った。


「……高いぞ?」


「いいよ」


即答。 


「私、飽きてたし」


その言葉。


(退屈な貴族か)


だが、違う。


もっと深い。


「みんな、つまらないんだもん」


「正しいことしかしないし」


「怖がるし」


「でも君は違う」


一歩、近づく。


「人を騙して」


「楽しませて」


「ついでに殺す」


そして、笑う。


「最高だね」


クロウは、数秒考える。


(危険だな)


(だが——)


「……いいね」


口元が歪む。


(使える)


「ただし条件がある」


「なに?」


「口外しないこと」


「裏のショーに口出ししないこと」


「そして——」


一瞬、間を置く。


「観客でいること」


リゼは、目を輝かせる。


「うん」


「約束する」


【観客:1名】

【感情:興奮・執着】

【補正:異常上昇】


「……は?」


クロウの目が、わずかに見開く。


(なんだこれ)


たった一人。


だが


「補正がデカすぎる」


リゼは、くすっと笑う。


「ねえ」


「次は、いつやるの?」


クロウは、ゆっくりと答える。


「夜だ」


そして。


にやりと笑う。


「席は最前列、用意してやるよ」


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