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真 ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) ~混沌と秩序の双刃(そうじん)~  作者: たくみふじ


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第五章 虚無の庭園(ゼロ・ガーデン) 第一節 理(ことわり)なき世界

交わるのは殺意のみ。相容れない二人の美学が、世界のバグを叩き潰す!

 神々の最高位たる天照大御神あまてらすおおみかみの力によってこじ開けられた、白銀の光を放つ次元の回廊。

 その光の扉を抜け、宇宙の法則の外側へと身を投じた二人の少女の感覚は、およそ人間の脳髄では処理しきれない、恐ろしいほどの情報量の欠落と暴走に見舞われていた。

 光も、音も、温度も、重力すらも存在しない。

 上へ落ちているのか、下へ昇っているのか。一秒が経過したのか、それとも数万年の時が過ぎ去ったのか。三次元の物理法則という「当たり前の枠組み」が完全に剥がれ落ちたその絶対的な奔流の中で、彼女たちの肉体を構成する原子は、今にもバラバラに分解され、宇宙の塵となって四散してしまいそうになっていた。

(……ダボが。なんちゅうデタラメな空間や。私のスーツに組み込まれた慣性制御も、空間認識センサーも、全部が完全にエラーを吐き出しとうわ)

 高清水凉子は、純白の特殊戦闘スーツから数万ボルトの青白いプラズマを全開でほとばしらせ、自らの周囲に強固な『論理ロジックの力場』を展開することで、かろうじて自らの肉体と精神の形を維持していた。伊達眼鏡のヘッドマウントディスプレイには、見たこともない文字列のエラーコードが滝のように流れ続け、彼女の誇る並外れた演算能力をもってしても、この次元の狭間の座標を特定することは完全に不可能であった。

(……ひどく息苦しくて、不快な感覚ですわ。地獄の釜の底で業火に焼かれる方が、まだしも肌に触れる熱があるだけマシというものですの)

 北條孝子もまた、漆黒のドレスコートを激しい次元の風に煽られながら、自らの魂の底から無限に湧き出す『地獄の業火』を赤いオーラとして全身に纏い、その強烈な「個の力」だけで、虚無の圧力による魂の分解を強引に跳ね返していた。

 永遠にも一瞬にも感じられる、名状しがたい次元のトンネルの滑落。

 やがて、二人の少女の足先が、何らかの「抵抗」を捉えた。

 ドサッ、というくぐもった音――いや、それは空気を振動させた音ではなく、彼女たちの脳髄が「着地した」という事象を強制的に処理したことによる、幻聴のようなものであった。

 二人は、膝をつくことなく、背中合わせの陣形を保ったまま、その未知の領域へと降り立った。

 そこは、「庭園」と呼ぶにはあまりにも異質で、おぞましく、そして徹底的に「色彩」が欠落した世界であった。

 見上げる天空には、太陽も月も星々もなく、ただドロドロとした鉛色の重い雲のようなものが、極めて低い位置でゆっくりと渦を巻いている。そして足元には、見渡す限りの広大な荒野が広がっていた。だが、その地面を覆っているのは土でも砂でもなく、まるで人間の死体をすり潰して乾燥させたかのような、生気の一切ない「灰色の粉」であった。

 その灰色の荒野の至る所から、天に向かって捻じ曲がり、苦痛に喘ぐ亡者の手のように枝を伸ばした、真っ黒な枯れ木が林立している。葉の一枚も、花の一弁もついていないその枯れ木群の立ち並ぶ様は、まさに世界が死滅した後に残された、巨大な墓標のようであった。

「……ここが、天照が『始まりの庭』と呼んだ場所? 冗談がお上手ですわね」

 孝子は、ドレスコートの裾に付着した灰色の粉を忌ま忌ましげに払い落としながら、周囲の死の世界を漆黒の瞳で睨みつけた。

「生命の息吹も、それを焼き尽くす苦痛の炎も、そして絶望の悲鳴一つ響かない。……ただただ、退屈で、無価値で、美しさの欠片もない『無』の掃き溜めではありませんの。このような便所の底から、あの生意気な黒椿が湧いて出たというのかしら」

「……ごっつい、非論理的でバグだらけの空間やわ」

 凉子は、伊達眼鏡のディスプレイを何度かタップし、システムを再起動させようと試みたが、表示されるのは砂嵐のノイズだけであった。

「大気成分の解析不能。重力定数の計測不能。……それどころか、私の立っとうこの地面、一歩踏み出すごとに、アスファルトみたいに硬くなったり、泥沼みたいに沈み込んだり、物理的な硬度が秒単位で変動しとる。……ここは、私たちの知る宇宙の法則システムが、根本から適応されへん『エラー領域』そのものやね」

 凉子は耳元の通信機に触れ、漆黒の移動ラボラトリーの車内にいる詫間亨への接続を試みた。

「……亨さん、聞こえとう? こちらの座標データの送信、及びバックアップのリンク状況を報告してちょうだい」

 だが、返ってきたのは、ザーッという完全なホワイトノイズだけであった。

「……ダボが。完全にオフラインやわ。天照が言うとった通り、この空間は私たちの宇宙のネットワークから完全に隔離されとんのやね」

 凉子は舌打ちをし、通信機の電源を物理的に切った。

「ガーディの気配も、完全に途絶えましたわ。……どうやら、わたくしたちは本当に、この退屈な色のない世界に、二人きりで放り出されてしまったようですわね」

 孝子は、右手に地獄の業火を宿した電光剣のグリップを、左手に氷のように冷たい千枚通しを握りしめ、優雅な微笑みの裏に極限の殺意を隠して周囲を見渡した。

「……堕天使様。わたくしの背中を預けているのは、あくまでこのバケモノの巣を叩き潰すまでの仮初めの契約。わたくしの歩幅に遅れたら、容赦なく置いていきますわよ」

「……お黙りなさいな、地獄のネズミさん。あんたのその野蛮な炎こそ、私の完璧な演算ルートの邪魔やわ。少しでもノイズを出したら、敵より先にあんたを雷でデリートしたるから、せいぜい大人しゅう歩きなさいな」

 互いに悪態を付きながらも、二人の少女は背中を合わせ、死角を完全にカバーし合う形で、灰色の砂を踏みしめて歩き出した。

 目指すは、この無限に続くかと思われる狂気の庭園の中心。

 天照の八咫鏡やたのかがみに映し出されていた、あの『神託オラクル』の膿が漏れ出していた、巨大な次元の亀裂の座標である。

 だが、二人が歩みを数十歩進めた、その時であった。

『――ヨウコソ。美シクモ、愚カナ、二ツノ迷イ子ヨ』

 声は、しんと静まり返った灰色の空気を振動させたものではなかった。

 孝子と凉子の脳髄の最も深い部分、自我を形成する意識の核に直接、氷のくさびを打ち込むように、強制的に割り込んできたのである。

 それは、本能寺のビルの屋上で対峙した『黒椿』の、あの銀の鈴を転がすような声とは全く異なっていた。性別も、年齢も、そして「一個の生命体」としての輪郭すらも持たない、何億、何兆という無数のノイズが幾重にも重なり合い、圧縮されて作られたような、吐き気を催すほどの「純粋な悪意の波長」。

 これこそが、『神託』。

 宇宙の法則の外側である「混沌の海」に漂う、外なる神々の群体意識そのものであった。

「「……ッ!」」

 そのあまりにも異質で巨大な精神の圧力に、二人の少女は同時に足を止め、激しい眩暈めまいと吐き気に顔を歪めた。

『我ラノ「観測」ノ箱庭ヲ破壊シ、コノ根源ノ座ニマデ踏ミ込ンデキタ、ソノ強烈ナ「個」ノ意志。賞賛ニ値スル。……ダガ、ソレモココメイドダ』

 脳内に響く声と同時に、二人の周囲の景色が、まるで水面に落ちたインクのようにドロドロと歪み始めた。

 足元の灰色の砂が、ボコボコと不気味な音を立てて沸騰し、そこから無数の「異形」が這い出してきた。

 それは、富士の地下要塞で相対した少年少女たちの生体兵器などとは比べ物にならないほどのおぞましい代物だった。

 目も、鼻も、耳もない。ただ、人間の顔の大きさほどもある巨大で鋭い牙の生えた「口」だけを持った、漆黒の粘液の塊。それらが、何百、何千という群れとなって、地を這い、枯れ木の幹を伝い、あるいは空間そのものを泳ぐようにして、二人の少女を取り囲んでいく。

「……下品なお出迎えですこと。見た目も動きも、芸術性の欠片もありませんわ!」

 孝子は、嫌悪感に美しい顔をしかめながら、電光剣の赤い刃をフルパワーで薙ぎ払った。

 地獄の業火が、円を描いて数十匹の異形を両断する。だが、斬り裂かれた粘液の塊は、地面に落ちたそばから再び融合し、何事もなかったかのように這い上がってくる。地獄の「苦痛」を与えるという概念が、生命の形すら成していないこのノイズの塊には、全く通用していないのだ。

「……ダボが! 物理的な損傷も、熱量も意味を成さへんのか!」

 凉子もまた、電流鞭ライトニング・ウィップの青白いプラズマを全方位に乱れ打った。数万ボルトの雷光が異形たちを貫き、一瞬にして蒸発させる。だが、蒸発した黒いガスは空中で瞬時に凝縮し、再び牙を剥いて襲いかかってくる。

『――無駄ダ。コノ空間ニハ、オ前タチノ宇宙ノ物理法則モ、魔術ノ理モ、一切適用サレナイ。ココハ、「意味」ソノモノガ解体サレル、絶対的ナ「無」ノ領域ナノダカラ』

 神託の嘲笑うような思念が、脳髄をガンガンと揺らす。

『オ前タチノ武器ハ、我ラニハ届カナイ。……ダガ、我ラハ、オ前タチノ最モ脆イ場所ヲ、完全ニ破壊スルコトガデキル』

 次の瞬間、迫り来ていた無数の異形たちが、ピタリと動きを止め、一斉にその場でドロドロと溶け崩れた。

 そして、それらの黒い粘液が、灰色の砂漠の上で急速に形を変え、全く別の「風景」を再構築し始めたのである。

 それは、『神託』による物理的・霊的な攻撃ではない。

 二人の少女の魂の最も奥底に隠された、決して触れられたくない過去の記憶とトラウマを強制的に抉り出し、精神そのものを内側から崩壊させるための、極めて悪質で致命的な「概念攻撃メンタル・アサルト」であった。


「……な、んですって……?」

 北條孝子の視界から、灰色の荒野が完全に消え失せた。

 彼女が今立っているのは、見覚えのある、そして二度と見たくなかったおぞましい場所。

 赤黒い血の池が煮えたぎり、針の山がどこまでも続く、冥府の最下層。

 十五歳の時に思い出した、自らの前世の記憶。何一つ罪を犯していない清廉な魂であったにもかかわらず、冷徹な地獄のシステムのバグによって理不尽に堕とされ、数万時間にも及ぶ無限の責め苦を受けた、あの絶望の空間であった。

『――罪人ヨ。平伏セ。悲鳴ヲ上ゲ、己ガ罪ヲ悔イ改メヨ』

 空から、顔のない巨大な閻魔の幻影が、孝子を見下ろして無慈悲な判決を下す。

 周囲では、炎に焼かれ、鬼に肉を削がれる亡者たちが、絶望の悲鳴を上げている。

「……黙りなさいあそばせ。わたくしは、罪など犯しておりませんわ! わたくしは、誰にも屈しない! こんな理不尽な苦痛に、わたくしの気高い魂が折れるとでも思って……!」

 孝子は、必死に自らを奮い立たせ、電光剣を構えようとした。

 だが、彼女の右手には、何もない。電光剣も、千枚通しも、そして彼女を常に守ってくれていたガーディの影すらも、この精神の牢獄の中には存在しなかった。

 彼女は、ただの無力で、残酷な運命に弄ばれるだけの「か弱い少女」に引き戻されていたのだ。

『――強ガルナ、惨メナ小娘ヨ。オ前ノソノ「高慢サ」モ、他者ヲイタブル「サディズム」モ、全テハ恐怖カラ目ヲ背ケルタメノ、哀レナ自己防衛ニ過ギナイノダ』

 神託の声が、閻魔の顔を借りて冷酷に響く。

『本当ハ、痛イノガ怖イノダロウ? 誰カニ守ッテ欲シイノダロウ? ガーディトイウ番犬ニ依存シナケレバ、自分ノ存在意義スラ保テナイ。オ前ノ「混沌」ナド、所詮ハ傷ツクコトヲ恐レタ小鳥ノ、無意味ナ羽バタキニ過ギナイ』

「違うッ……! わたくしは、わたくしは……!」

 孝子の足元から、煮えたぎる血の池が這い上がり、彼女の華奢な足を、ドレスコートを、じわじわと飲み込んでいく。焼け焦げるような幻痛が、彼女の脳髄を直接焼き切ろうとする。

 彼女の魂が、自らの根源的な恐怖と直面させられ、その気高いプライドが音を立ててひび割れようとしていた。

 一方、高清水凉子の視界もまた、全く別の絶望の風景へと書き換えられていた。

「……ここは……」

 凉子が立っていたのは、一面が純白の大理石で覆われた、チリ一つない無菌室のような巨大な講堂であった。

 天界の、天使養成校。

 彼女がかつて所属し、そして自らの意志で全てを捨て去った、偽りの調和の象徴。

 周囲には、全く同じ白い衣服を纏い、全く同じ完璧な笑顔を顔に貼り付けた、何千人もの「かつての同級生(天使)たち」が、寸分の狂いもなく整列していた。

『――凉子よ。なぜ、列を乱すのです? なぜ、大いなる愛の調和を拒むのです?』

 壇上に立つ、顔のない天使の教官が、極めて優しく、しかし絶対的な強制力を伴った声で語りかけてくる。

「……お黙りなさいな。あんたらの言う愛なんて、ただのシステムを維持するための同調圧力やんか。個人の論理も思考も全て奪い取って、ただニタニタ笑うだけの人形に成り下がるなんて、ごっつい美しくないわ。私は、そんなバグだらけの秩序コスモスを否定して、自ら堕ちたんや」

 凉子は、毅然とした態度で、教官を冷たく睨み返した。

 だが、彼女の腰のベルトには、ショック棒も、電流鞭もない。亨という、彼女の論理を現実に変換してくれる「翼」も、この精神空間には存在しなかった。

『――哀レナ欠陥品バグヨ。オ前ノソノ「論理ロジック」トハ、一体何ダ?』

 教官の顔がドロリと崩れ、『神託』の悪意に満ちた声が講堂に響き渡った。

『計算シ尽クサレタ秩序? 無駄ノナイ美学? ……笑ワセルナ。ソレハ全テ、他者ト深ク関ワルコトデ生ジル「感情」トイウ不確定要素カヲ、極度ニ恐レタ結果ノ、逃避ニ過ギナイ』

「……ッ!」

『オ前ハ、愛サレルコトモ、愛スルコトモ恐レタ。ダカラ、全テヲ「データ」トシテ処理シ、無機質ナ仮面ヲ被ッテ、自分ハ完璧ダト思イ込モウトシテイルダケダ。……詫間亨トイウ男ヘノ依存モ、所詮ハ自分ヲ肯定シテクレル便利ナ機械ツールガ欲シカッタダケ。オ前ノ「秩序」ナド、孤独ニ震エル臆病者ノ、脆イ砂ノ城ニ過ギナイ』

「違う……! 私の論理は、そんなんやない……!」

 凉子の周囲で、何千人もの天使たちが、一斉に彼女を指さし、完璧な笑顔のまま、無機質な声で「エラー、エラー、エラー」と合唱を始めた。

 その同調圧力と自己否定の波が、凉子の強靭な精神の防壁を、論理的なバグとして少しずつ、確実に侵食していく。

 灰色の『虚無の庭園』の現実空間では、二人の少女は完全に動きを止め、うつろな目で立ち尽くしていた。

 孝子の身体から燃え上がっていた赤い業火のオーラは、まるで酸欠になった蝋燭の炎のように弱々しく明滅し、今にも消え去ろうとしている。

 凉子の身体を包んでいた青白い雷光の力場は、不規則なノイズを立ててショートを繰り返し、その純白のスーツは生気を失いかけていた。

『――サア、無駄ナ抵抗ハヤメテ、自我ヲ手放セ。オ前タチノチッポケナ美学モ、論理モ、全テハ我ガ「虚無」ノ中デ、新タナル法則ノ一部トシテ溶カシテヤロウ』

 神託の思念が、勝利を確信し、二人の魂を完全に喰らい尽くそうと、巨大な黒い影となって彼女たちを覆い隠そうとした。

 このままでは、彼女たちの自我は完全に崩壊し、宇宙の外側の混沌の一部として永遠に取り込まれてしまう。

 だが。

 神々すらも干渉できないこの絶対的な絶望の淵において、彼女たちの魂を繋ぎ止める「最後のくさび」が存在した。

 それは、天照大御神から「この世界を救うための武器」として渡された、二振りの短剣。

 孝子のドレスコートのポケットに忍ばせられた、漆黒の『月詠の刃』。

 凉子のベルトにマウントされた、水晶の『月詠の刃』。

 世界を救うためなどではない。

 ただ、自らの最も憎むべき相手と、互いの喉元に刃を突きつけ合いながら交わした、「必ずお前をわたくし(私)の手で殺す」という、あの歪みきった『契約』。

 神託の精神攻撃によって全てが色褪せ、自らの存在理由すら見失いかけた二人の魂の中で、その二振りの短剣が帯びる神気だけが、チリリ、と熱く、そして冷たく、彼女たちの自我を刺激したのである。

(……そうだわ。わたくしは、こんな退屈で泥臭い幻影の中で、終わるわけにはいきませんのよ)

 血の池地獄の幻影の中で、孝子の漆黒の瞳に、微かな、しかし絶対に消えない強烈な光が戻った。

(わたくしには、やらなければならないことがありましてよ。……あの、憎らしくて、鼻持ちならなくて、血の通っていない人形のような『堕天使』の顔を、このわたくしの手で、絶望に歪ませてやらなければならないのですから! あんな女との約束を破って、こんなバケモノに喰われるなど……わたくしの気高きプライドが、絶対に許しませんわッ!)

(……ダボが。こんな非論理的で下品なバグに、私のシステムが書き換えられるわけあらへんやろ)

 天使たちの嘲笑の幻影の中で、凉子の青い瞳に、絶対零度の極限の論理の光が再び灯った。

(私には、絶対に果たさなあかんタスクがあるんや。……あの、野蛮で下品で、他人の痛みを悦ぶだけの『地獄のネズミ』。あいつの非論理的な炎を、この私の手で、塵一つ残さず完全に浄化デリートせなあかんのやから! あんな女に背中を預けたまま、こんなエラーコードに敗北するなんて……私の完璧な秩序コスモスが、絶対に許さへんッ!)

 二人の魂が、互いへの強烈な「殺意」と「対抗意識」、そして「お前を殺すのは私だ」という剥き出しのエゴイズムを最強の防壁として、神託の概念攻撃を内側から強引に食い破ったのである。

「「――お黙りなさいな(あそばせ)ッ!!」」

 現実の虚無の庭園。

 完全に沈黙していた二人の少女の身体から、先ほどまでとは比較にならないほど高密度で、純粋なエネルギーが爆発的に噴出した。

 孝子の放つ地獄の業火は、もはや単なる熱ではない。彼女の絶対的な自我そのものを燃やす、黒き炎。

 凉子の放つ天の雷光は、もはや単なるプラズマではない。彼女の極限の論理そのものを具現化した、白き稲妻。

『――ナッ!? 馬鹿ナ、我ガ精神支配ヲ、自力デ破ッタダト!?』

 神託の思念が、初めて明確な驚愕と狼狽を露わにした。

「……堕天使様! 準備はよろしくて!?」

 孝子が、ドレスコートのポケットから、漆黒の『月詠の刃』を抜き放ち、それを左手の千枚通しと交差させて構えた。

「……言われんでも、私の演算はとっくに完了しとうよ、地獄のネズミさん!」

 凉子もまた、ベルトから水晶の『月詠の刃』を抜き放ち、それを右手のショック棒と直列に接続して構えた。

 二人の少女の視線が、庭園の最奥、最も黒く淀んだ空間――神託の『核』であり、この世界と混沌の海を繋ぐ次元の亀裂へと、真っ直ぐに向けられた。

 神々すらも恐れた虚無の空間で、決して交わることのない二つの刃が、今、最大のバグを完全に消去デリートするための、たった一度きりの、そして究極の共鳴ソウル・レゾナンスを果たそうとしていたのである。

X(Twitter)では脚本版などもつぶやいています。

https://x.com/TakumiFuji2025

 決して交わらない「混沌」と「秩序」が奏でる、狂気と美学のダークファンタジー。神すら震える極上の不協和音ディスコードを、とくと味わいなさいませ!

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