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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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忙しくない時がない

「言ってませんよ別に」


 死ぬほど鬱陶しい課長をグッと後ろへ押し込んだ。まったく、自分の責任問題ばかりで……この人がどうやって出世したのかがよく分かる気がする。


「言ってないね良かったぁ。私の責任になるところだもんねこれ放っておいたら。ねえ! 言ってないもんね、別に何も、私のことは!」

「言ってないですって。それよりかえっていいっすか」

「ゆっくりやすんで」


 最後に肩をパンパンと叩かれた。本当に何かのハラスメントに引っかかってほしい。

 ヒールのお陰で俺は別に何の疲れもなかったけど、言われた通り帰ることにした。

 久しぶりに早上がり。ここは飲みにでも行こうかと街に繰り出すことにした。

 ギルドで働いているからこそ、顔なじみが多くなった。軽く挨拶を交わして、滅多に買わない本や服を見て回るだけで愚痴やらギルドへのご意見やらが多く出る。


「スカイさん、最近転移者が増えたって話だけど、治安とか大丈夫かね」

「大丈夫ですよ。理性的で優しい方も多くいますので」

「スカイさん。最近薬草類が高くて、どうにかなりません?」

「高いってどのくらいですか」

「この間まで200Gだったのが、今は800Gなんです」

「……は?」


 休暇中に仕事が見つかってしまった俺は、すぐにギルドにとんぼ返りすることになった。

 ああクソ、ギルド職員になんてなる物じゃないな。休憩なんてないも同じじゃないか。

 急いで戻ると、ギルドの裏口でちょうど煙草休憩に入っていたらしいカロ―シア先輩がいた。先輩は俺を見つけると心底嫌そうな表情で顔をしかめた。


「吸いながらで大丈夫です」

「不味くなる話じゃないだろうな」

「薬草の値段が四倍になってるみたいです。取引に関する不均衡はウチらギルドの仕事ですよね」

「……課長に相談しよう。あと一本待てるか?」

「さすがに待ちますよ」


 普段あれだけの仕事量をたった一人でこなしているんだ。一本待っても罰は当たらない。

 先輩の風上に腰を下ろして、ぼうっと空を見上げた。こういう穏やかな時間のために生きてるんだなって思う。


「お前、ダンジョンに入ったんだってな。良く助かったな」

「入る前にオリオンの人に保護されました」

「そう言う事にしておく。気を付けろよ。ダンジョンは容易に人が死ぬ。お前、帝都に戻りたいって言ってたろ」

「……先輩は、目の前で困ってる人がいて、自分の夢と天秤にかけた時どっちに傾きますか?」

「天秤に同じもの乗せちゃ、傾かねえだろ」

「先輩のそう言うところ好きですよ」

「先輩に舐めた口叩くな殺すぞ。すう……行くか」


 忙しいカウンターの喧騒が若干和らぐデスク島。基本的にあらゆる書類事務を請け負う人が黙々と作業している。課がいくつもあるが、基本的に長くやってれば度の課の仕事も出来てくるので、ここにいるベテランの先輩方は効率重視で島をひとつにしている。

 課長のデスクは島の奥。仕事しているのかサボっているのかギリギリ分からない所だ。


「課長、ちょっといいですか」

「どうした……スカイ、お前、午後休だろ。カロ―シアまでどうした?」

「新入りが仕入れてきた情報ですが、薬草の適正価格が三倍ほどズレているそうです」

「え、マジ? マズくないそれ」

「マズそうなので指示を仰ぎに来ました。ご裁可を」

「いや、って言ってもね……そうなると調査と確認と指導とって感じでやること多いんだよね。それ聞いて来たのはスカイか?」

「はい。帰り道に町の人に捕まりまして」

「揉み消せ」


 まるで何事もないように、デスクの上に置かれた金平糖を口の中に放り込んだ。

 何か言う事もなくぼりぼりと金平糖を砕いた後、指を組んで首をグイっと下げた。


「別に永遠に続くわけじゃないだろ。そんな物に人員をふたりも避けない。第一お前は休みだ。第二に、仕事を捌く速度が速い二人を引っこ抜けない」


 日和過ぎな上に見て見ぬふりをしろと言う課長に俺は溜息を吐きそうになった。

 堪らないな、本当に。人を助けることを辞めて、何がギルドって言うんだ。

 思いを口に出そうとした俺を、先輩は手で制して一礼した。


「承知しました。行くぞ、新入り」

「先輩――」

「ここは帝都じゃない」


 先輩の言葉に、俺も押し黙った。一礼して、課長の島を後にする。

 帝都じゃない、か。確かに俺はこのギルドじゃまだ、余所者なのかもしれないな。

 別に構いはしない。俺だってここをすぐに出て、帝都に戻るのが目的だ。先輩の言う通り、ここは大人しくギルドの仕事だけをやって行けばいい。

 それで、良いのか……?


「先輩、ギルドって何のためにあるんすか」

「……帝国人と転移者たちの生活の保障と最大の安全、公共の福祉を守るためだ」

「物価高は十分生活を脅かす要因でしょう」

「……はあ、お前、見かけによらず頑固で熱いな。黙ってれば出世できるんだぞ? 甘んじればいいものを。まあ、いいだろう、明日まで待てば話を着けてやる」

「本当ですか? ありがとうございます先輩!」

「帰れ、休め。ほら」


 先輩は5000G札を取り出して俺に渡してきた。


「え、なんすかこれ」

「うまいもん食え。ここまで働いた分の時給だ」

「いや、いただけませあざっす!」

「断るなら最初の一階は断り切れ。良いからいけ、消えろ」


 先輩に頭を下げて、ギルドを出た。余計な仕事を背負わないように、今度は町を遠ざけて、高めのお肉を買って家で焼くことにした。

 今日も一日、お疲れさまでした、ってね。


   †


「わたくしが来たからにはロイヤルで気品ある生活をお約束しますわ。この、レイテシア・フォン・レッドロードの名において!」


 営業開始前のギルドにとんでもない異物が飛び込んできた。

 銀とパープルの混ざったロングの巻き髪。肩口に房を降ろして気品と気高さを買うのに一役買っている。着ている制服は同じはずのものなのになんかすごい素材がよさそうに見えるしフリルがところどころ付いている。

 何だこいつは……来て早々今日の仕事量を確認しようとしたらこれだ。

 高笑いをする彼女に誰も彼も目を合わせようともしない。


「私はここの……階級は変わらないが先輩のセナ・カロ―シアだ」

「初めまして、先輩。わたくしが来たからにはもう大丈夫ですわ。この胡散臭いギルドを帝都にあるような物に――」

「余計な事はしなくていい。始めの頃は言われたことだけしているのがお前のためだ」

「庶民の意見は聞きませんわ」


 ざわつく。

 馬鹿なこいつ……不機嫌低気圧大集結鵜の先輩にそんな口きいてタダで済むわけがない。

 先輩は仕事が出来るし面倒見もいいが人間性は普通に暴言を吐く暴れん坊だ。お客様のクレームも一番多い。

 殺されるぞ、最悪は普通に。


「そうか。スカイ、レンヤ・スカイ」

「ここに」

「お前は今日から新入り卒業だ。そこで、お前に新入りの世話役を任せる」

「いや、無茶言わないでください」

「スカイ、私はお前に大いに期待している。お前がこれ以上私の機嫌を損なわない、と」

「え、マジハラスメントっすよそれ」

「落ち着け。課長に掛け合って、お前があの問題児を教育するなら、例の物価高を調査してもいいと許可を得てやった。あいつの成長にもつながって一石二鳥だろ」

「いやですよそんな初っ端から問題児認定されてる奴と一緒に組むなんて」

「ああ。お前の教育係を任命された私も同じ気持ちだった。やれ。いいな」

「……わかりましたよ」

「では通常業務から伝えろ。外回りは午後からとする」


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