圧倒的な差
「何を考えているんですか、彼は帝国人ですよ。ここで治療なんて」
「そう言うな。彼女が助けていなければ彼は死んでいた。そっちの方が大きな問題だろう」
「ダンジョン捜索中に死人が出ました、なんて報告は二度と御免ですよ。しかも彼は渦中の人物です」
「まあまあ。今回は生きていた、いや、今回も生きてたんだから。何か強運めいたものを感じるから僕は好きだよ」
「まったく……騎士長は……では、目覚めたらご自身で説明なさってください。アスハさんもきちんと寝かしつけるように」
そんな会話で目を覚ますのがとても気まずくて、俺はしばらく狸寝入りを決め込んだ。
人が減るのを見計らっていたが、そんな俺の様子を見透かしたように、話題に上がった騎士長様は俺の右足を擽った。
「ひえあ!」
「あ、起きてた。なんだよもう、アスハさん、眠り姫にキスしたら起きたよ」
かけた声の先に視線を送ると、俺が寝かされていたベッドにうつ伏せで眠っていたらしいアスハさんががばっと起き上がった。
「え、あ……え、おふたりが、キスを?」
「違う違うただでさえ寝ぼけてるんだから止めてくださいそれ以上の誤解は! 誤解だけは!」
「マジおもろいよね、彼女。人の話も聞かずに出てっちゃってさ。丁度いい、帝国人の君にも聞いてもらおうかな。この間一応正式に話したことだけど、君ももう関係者だ」
エンドールさんは遠い場所にあった椅子を持ってきて腰かけると、背もたれに顎を置いて話し始めた。
「まずアスハさん。確かに僕たちは帰還の魔法を探し回って何年も経ってる。僕は前回の大戦に参加する前からいたから70年くらいかな。マジでその間ダンジョンの研究が進まなかった」
「それを聞いて私は思わず……」
「そうだね。まあ確かに性急だったが、僕らも説明しきらなかったのはかなり悪かった。不安にさせたから。だからありがとう、レンヤ・スカイ君。君のお陰で助かった」
「いや……助けられたのは俺の方です。俺……自分でもダンジョンで誰かを助けることができるって過信してました。なのに……この様です……あれ、怪我が治ってる」
「ウチには優秀なヒーラーがいるんでね。帰ってきてもらった。お礼はこっちで言っておくよ。もう戦場に出たからね。引っ張りだこなんだよ」
「これが……スキルってやつですか」
「まあ、アレの場合は薬学にも精通しているから何ともだけどね。お陰で君は助かったけど、内緒にしてくれないか? 僕らは帝国人にスキルを使えない」
スキル――
魔法ではない別の体系で超常の力を起こす。俺たちの国じゃなんでそうなるのか説明できず、ただ起きる事象を受け入れることしか出来ない魔法のようで魔法を越えた物。
レベルとスキルがあるお陰で、彼らは警備やダンジョンの調査、そしてモンスター討伐から傭兵業に至るまで多くの戦う仕事がある。また、ダンジョンやモンスター討伐に限り、彼らは帝国人と協力して経済活動が出来る。
全て、バランスが考えた法だ。帝国人に対してかなり不利とも言えるが、そうでもしなければ人体の構造的な問題で俺たちは転移者に全く及ばない。
「もちろんです」
「さすがはギルド職員。バランスやらウォッチと違って話が分かる。今から君たち二人のアリバイを伝えるから、あの高慢ちきなコルネ審問官に何を聞かれてもそう答えてね」
俺は思わず視線を逸らした。
ギルド、ウォッチ、バランスにはそれぞれ高官と呼ばれる者が存在する。
下位の者、例えば課長や部長、俺たち現場を束ねる審問官、その審問官を束ね、組織全体が滞らないように動く執政官、そして執政官を束ねる神聖官。審問官は珍しいがそこまで見ないわけではない。主に問題が発生した時にやってくる死神のような存在だから可能なら会いたくはないというのが通例だ。
そんな物に、付け焼刃のアリバイが通るとは思わない。
「まず、アスハさんはこれから始まるダンジョン攻略の事前調査に向かっていたことにする。それを町民が間違えて通報。君がダンジョンに向かうが、夜も深くオリオンで保護。また、ダンジョン調査と言う機密情報が漏洩しないために拘束していたことにする。ここで君たちには選択肢を与えようかなと思うんだ」
ニコッと、エンドールさんは笑って見せた。元々俺たちの関係はキナ臭過ぎた。
ギルドはどちらの味方でもあり、どちらの体にもなり得るのだから。
「全てを曝け出して、転移者と帝国人の軋轢を深めるか、アスハさんは騎士団に入ってアリバイに加担する。スカイ君は今から話すダンジョン攻略について沈黙を守ると誓う」
「私は……夢が出来ました。だから、それに近づける騎士団へ入ります」
「俺は口が堅いです」
「よろしい。我々円卓議会は近く攻略部隊を編成し、ダンジョンを踏破する。この世界の謎を明かす必要があるからね。そろそろ始めないといけない」
「二つ質問が」
「どうぞ」
「なんで今なんですか。今まで転移者も俺達も散々無理だったのに」
「まあ、こっちのレベル3が合計3人になったから、かな。さっきのダンジョン、僕たちの間ではゴブリンの根城って呼んでるんだよね。あの中のゴブリンは総じてレベル2だから、レベル差で勝てるんだよ」
「馬鹿な……あいつらは化け物です、いくらなんでも――」
「やれるんだ。僕たちは前世ってか、元の世界でこういうのを何度も見た。ゲームっていうんだけどさ、ゲームでは、レベルが相手より高ければ大体勝てる。ね、アスハさん」
「私はRPGはしてないので、わからないです。FPSなら」
「なんすか? PDAサイクルならわかるんすけど」
「まあ同じようなもの。もう一個の質問は?」
「ああ……そこまで無理して攻略を急ぐ理由は何ですか。俺たちと違って、あなたたちは歳を取らない」
「ああ、簡単だよ。僕らは大戦以前と以降で人が増え過ぎた。正直これ以上増えたら、良からぬことをしでかそうとする人間が増えかねない。そうでなくとも僕たちは、バランスからレベル制限をかけられて、3の数も交渉の末ようやく3人に解禁された。ただレベル2の上限はもう来ている。勝手にレベルを上げて法に抵触すればまた戦争になる」




