プロローグ完 そして第一章へ
「変わりはない? アスハさん」
牢、と呼ぶにはあまりに豪勢な部屋の中で本を読むアスハさんに、俺は声をかけた。
豪華な調度品にふかふかのベッド。椅子や机一つとっても造詣が凝られたもので高級感があった。安楽椅子に座るアスハさんは穏やかな表情で読んでいた本を傍の机に置いてこちらにやって来た。
滅茶苦茶になったレンドアのモンスター襲撃から半年、俺は帝都にいた。
デギオン・マリックの暗躍や、レッドロード卿の企ても全てモンスターと噴火による災害が掻き消した。
当分混乱が続くと思われたが、さすがはバランスと円卓会議が解決の方向へ働き掛けて今は束の間の平和だ。
アスハさんはレベル4になり、こうして軟禁状態だった。
いまだに帝国は勘違いを犯している。こんな牢は、アスハさんが本気を出せば出入り自由のマイホームにだってできるんだ。
これはただの善性を信じた檻。腹立たしいことこの上ない。彼女はこの町を救った英雄だというのに。
「元気だよ。スカイ君は、どう? お仕事は慣れた?」
「元々はこっちで働いてたからね。そうだ、転移者も多く移ってきたからレンドアと変わらないよ」
「そっか……今も続けてるの? ダンジョンの調査と……世直し」
俺は頷いた。
色々あって……俺は今、昼はギルドの仕事。夜はダンジョンに潜って調査と、マリックの私兵を排除している。最近は別の事件も多くて大変だった。
あれから周囲の街でモンスターの量が激増した。復興支援とギルドに新設された転移課から転移者を派遣する仕組み。大賑わいだ。あとはペットを探してくれとかそういうのも。
行政の王座に君臨していた帝都のギルドは今やレンドアと変わらない何でも屋になっていた。
時を同じくしてランク問わずダンジョンを許可なく盗掘する荒らしも多く、夜はモンスターよりも人画人を殺す事態にまで発展していた。
「危ないことはしないでね。今の私じゃ、スカイ君を守れないから」
「大丈夫。今度は俺が守るから。じゃあ、また来るよ」
「うん」
アスハさんのこのままにはしておけない。しかし、コルネ審問官が諸々の適任を取って辞任して以降、バランスへの繋がりはないに等しい。
彼女を救うには、俺が力を着けるしかない。今の地位の上に、すぐにでも。
まあかといって、俺は日々の業務をこなすしかない。働きたくても働けない人を助けたり、仕事をあっせんしたり、転移者と帝国人を繋げたり。
仕事は増えるし、出世するには帝都のダンジョンでも攻略するのが手っ取り早いんだろうけど。
夜に仮面をつけて世直ししているようじゃ、まだまだ先も長い。
「次の方どうぞー」
今は、仕事に集中だ。レンドア仕込みの俺は帝都に戻っても既に仕事を捌く速度は一番。
先輩やレイテシアは……レンドアで上手くやっていけているだろうか。
「すみません……転移課が帝都にも窓口を設けたと聞きまして」
やって来たのは帝都のシスターだ。転移者たちは教会で祝福を受け、シスターがギルドに導く。しかし、今まで転移者がレンドアへ集中したせいで帝都に転移課の窓口はなかった。
今回、転移者の活動領域が広がったお陰で帝都にも窓口を開いた。何でも屋だったら今頃大儲けしていただろうが、残念ながらギルドは仲介手数料以外で稼ぐ方法はない。
基本は税金で回されている役所だから。
「はい、どういったご用件で?」
「たぶん、転移者だと思うのですが……彼女を」
シスターが連れてきた少女には……獣の耳が、生えていた。




