正しさ
幸い、怪我人こそ多かったが死者はいないようだった。すぐに避難活動をしたお陰で無事に救い出せた。病院が機能しているかは分からないし、この状況じゃどこも同じようなもんだ。とりあえず救急隊が来るまでは安全の確保も出来やしねえ。
外をぐるっと見渡すが、酷いものだ。初手の地震で崩れたのか、火山噴出物で崩れたのか分からないが、無事な建物の方が圧倒的に少ない。
何が起きているんだ……一体……。
救急隊がやってきたが、向こうも向こうで手が回ってないらしい。最近の人の流入に対して行政機関がほぼほぼマヒしてる。公共の福祉が完全に行き届いていない。
仕事が多いのはギルド以外も同じだが、俺には俺の仕事がある。救急隊にあとは任せて、急いでギルドに向かう。
思った通り、ギルドは完全に無傷だった。ギルド横に増設された避難用の建物には続々と町民が避難していて、職員は総出で対応に追われているようだった。
「スカイ先輩、ご無事でしたか」
「ああ。そっちも無事でよかった。カロ―シア先輩は」
「今、課長に呼ばれて奥に――」
「スカイ! 丁度良かったお前も来い!」
鬼気迫る表情のグラウス課長に呼ばれて、俺は取り敢えずレイテシアと別れた。
奥の会議室には先輩と、それぞれ違う部署の責任者が多く集まり地図を広げ、全員輝石で連絡を取り合っていた。
「ダメだ、やはり輝石が繋がらん。グラウス君。他と連絡が取れない。転移課手動で話を進めてもらえるか?」
「分かりました。聞いての通りだ、ふたりとも。お前たちは歴こそ浅いが仕事ぶりは誰もが認める優秀さだ、任されてくれるな」
「課長、私らふたりとも、まだ何があったかよく分かっていないのですが」
「それは俺も同じだ。ただ、レンドアダンジョンの奥で火山が噴火したそうだ。こんなもんは30年ぶりで俺がガキの頃の話だ、お前らが生まれてもいない頃に私はもう経験済みということだ」
「そんな自慢より、俺らは何をすれば?」
「とりあえず連絡の取れた者から非難と救助を徹底させている。お前たち二人は町境まで行ってウォッチと連携して情報を取れ。今一番火山に近いのはあそこだ」
「その必要はありません」
部屋に入って来たのは、真紅の装具に身を包んだ円卓会議の騎士、アスハさんだ。
よかった。輝石が使えないならどうやって連絡しようかと思ってた。
アスハさんは俺に目をくれることもなく、鎧をかちゃりと鳴らして腕を組んだ。全員の視線を受けながら、誰もが彼女の次の言葉を待った。
「たった今、ダンジョン側の円卓会議が出動して、町境の警備に向かいました。あなたたちギルドは内部での仕事に専念してください」
「越権行為だな。ギルドからも誰からも要請がない。非常事態とは言え、線引きは守っていただかないと困る」
「アルス・エンドールが災害時はルールに縛られるべきではないと。そしてすでにモンスターの群れがこの町に向かってきています。あなたたちでは到底対処できない数です。今すぐ、生き残った人たちでこの町から非難してください」
淡々と落とされる言葉に、誰もが一度動きを止めた。
未曽有の事態。災害でも手一杯なのにモンスターの群れ? 馬鹿な、少なくともこの町は俺が来てから一度もモンスターの襲撃に遭ってない。来る前も、だ。
「ギルドを差し置いて、転移者でこの町を守る? レベルアップ制限もあるんだぞ、君たちでモンスターを狩るには手続きが煩雑過ぎる。クエストの発行もこの様子じゃ――」
「ルールは関係ないと言っています!」
課長の言葉を遮り、ぴしゃりと言い分を放つアスハさん。普段の冷静さよりも、必死で自分を抑えた末に出た感情の爆発に、課長も多少は押されていた。
「この件はウォッチとギルドで対応する。だが、助言はありがたく受け取っておこう。すぐに避難の準備を。お前の家は端だったな、お前の方で帝都に連絡を取ってくれ」
「輝石が使えないのにどうやって――」
「だったら馬でもなんでも走らせろ! 私が指揮を執る。いいな、あんたらは手を出すな。バランスの法がある」
「課長。俺から見ても、円卓会議からの申し出に乗るべきかと」
「この件で転移者が力を着ければどうなる。獣の首輪を緩めればどうなるか」
「俺達ギルドは帝国人、転移者問わず対等に扱うべきではないんですか」
「手が付けられなくなると言っているんだ。ルールを守るのが俺達の仕事だ。おまえもギルドのルールに従え。行け、現場では円卓会議に手を出させないことがお前たち二人の仕事だ。分かったな。モンスターはウォッチに任せろ」
ルール。言い分はまあ分かる。これ以上転移者のレベルが上がることを恐れてのこと。
さらにはクエスト以外で転移者が行政活動に携わる事への徹底排除。転移者が活躍を見せればどうしたって転移者へある程度権利を優遇する必要があるし、転移者側に不満が溜まればまた大戦が起きかねない。結果として、徹底排除が合理的なんだ。
分かるが……いや、やめよう。俺も今はギルド職員に徹底するべきだ。
「スカイ君……何が正しいか、分かるよね」
アスハさんがすれ違う俺の腕を掴んだ。力強かった。彼女はもう、俺達が全員出かかっても勝てない程に強いんだ。始めにあった頃の弱弱しい少女とは違う。
「……俺は帝国人だ」
ダンジョンで吐き出した言葉とは全く違う意味の言葉に、アスハさんはゆっくり手を離した。
今は街がどうなるかどうかの瀬戸際だ。公私混同はギルドには御法度。集中しよう。
馬を駆けて町の外れ、モンスターが向かってきているという堺へ向かう。向かいながらも町の悲惨な状況には思わず視線を向けてしまう。瓦礫もそうだが、人の行き場がない。人が増え過ぎたんだ。救急隊も間に合っちゃいない。
空も灰色に染まりつつあった。ただでさえ陽が沈みかけているっていうのにこれ以上暗くなると被害が拡大する。




