ギルドのお仕事
「ようこそ、ギルド、異世界転移課へ」
彼女の背中が見えなくなるまで見送って、息を吐いた。
オリオンには見張りがいない。その代り、法が門番として国境を守っている。法的に国と認められているわけではないので厳密に正しくはないが、同じようなものだ。
薄桃色の花が咲く木々の間を潜れば、転移者以外は殺されても文句が言えないのだから。
まだ見ぬ街、オリオンを背中にギルドに戻ると、騒がしかった。
何事かとカウンターに戻ると、カロ―シア先輩の元へ向かうと、カウンターにはごつい体つきの男二人が我が物顔で占拠していた。
「何度も申し上げている通り、このクエストを受けるにはランクが一つ足りません」
クエストってことは、この二人は転移者か。
ギルドには転移者、俺たち帝国人問わず、ギルド、ウォッチ、バランスでは対処できない問題をクエストと言う形にして発行する機能がある。
クエストには依頼者からクエストと報酬があり、受注者がクリアすると報酬が配られる。ギルドはクエスト依頼者と受注者両名から仲介手数料を得る。
また、ランクと呼ばれるスペシャリティがあり、ギルドがある程度の実力を持つ者にランクを認定している。例えばBランクの人間はAランクのクエストを受けられないように。
「俺たちをルフス兄弟と知って言ってんのか? お嬢ちゃん」
「だな、兄貴。俺達ならAランク程度のクエスト簡単だって兄貴は言ってんだよ。良いだろう? ちょっとぐらいよ」
「存じていますが、仕組み上、お答えできないのです。ランク一つとは言え、命の危険はもちろん、リスクの話もあります」
「俺たちはそれくらい超えて冒険してんだよ。命のやり取りを」
「クソが……話が聞けないのかタコ野郎」
まずい、先輩、長いことタバコが吸えていないせいで苛立ち始めている。
男はカウンターの奥に手を伸ばし、先輩の胸ぐらを掴んだ。
「お嬢ちゃん、俺たちは転移者だ。自由のために戦い、自由のために生きんだよ。良いからさっさとここにハンコを捺しな」
「出来かねます」
尚も突っぱねる先輩に、誰もが無言を貫いた。我関せず。かかわった方がマイナスだと誰もが気付いたからこその静観。
ああ本当に、気分が悪いな。
俺は男の腕を取って、素早く先輩から離した。
「なんだ、この手は、公僕が、しゃしゃってんじゃねえ」
圧倒的な力で、掴んだ上から吹き飛ばされる。これだから、転移者は。
彼らは俺達とは違う理で生きている。歳を取らず、忌々しい、レべルと呼ばれる物を持ち、レベル1は俺達とほとんど変わらない。だが、そこから一つ上がるともう、この差だ。
カウンターの裏にあるデスクに体を強か打ち付けた。馬鹿痛いが、このまま下がれるかよ。
カウンターに足を乗せて、逆に胸ぐらを掴み返した。
「私たちギルドの使命は、我々帝国人と転移者たちの生活の保障と最大の安全、公共の福祉を守る事にあります。これ以上他の利用者様に迷惑をかけるようであれば、ギルド法に基づき、あなた方を排除しなければなりません」
「おい、ガキ。誰様に掴みかかってんだ?」
男は俺の腕を取り返して、今度はカウンターの外へ投げ捨てる。
「俺たち転移者は、お前らみたいに脆い雑魚とは話が違うんだよ。それにな、聞いたことはないか? お客様は神様だって!」
やられる――
巨体が繰り出す踏みつけを避けきれない。レベル差がたった1あるだけで、死ぬのか。
こんなところで、なにも成してないまま、死ねっていうのか、クソが――
「まったく……最近の若い者は血の気が多くてたまんないな」
俺と男の間に入った、銀髪の男。赤々と輝く瞳に色白で中世的な顔立ち。色白で細い体のラインからは想像できないほど軽々と、片腕だけで足を止めて見せた。
白い騎士と言うに相応しい男は雪山を被ったようなロングコートに、肩口には金色である死臭が施されていた。大きく翼を広げた鳥と麦の刻印。
彼は転移者を纏めるオリオンの一員。それだけじゃない、オリオンで実質的に権力を持つ円卓会議の一人……。
アルス・エンドール――
「手前……」
「まったく、ギルドに迷惑かけちゃいけないっていう大前提を守れない困った奴がいると聞いてはいたが……どうする? 僕とやるかい?」
馬鹿兄弟二人がたじろいだ。この二人は確かにそこら辺の転移者と比べると腕が経つ。
だからよく理解している。アルス・エンドールは、史上初、最速で最高レベル3に到達した英雄なのだから。
「ちっ、行くぞ」
「覚えてろよ、公僕のガキが」
悪態をついて人々を蹴散らし、兄妹はギルドを後にした。俺は急いで立ち上がって他の利用者に頭を下げて回る。まったく、散々だな。




