やりがいのある職場です
「わかった。だがせめて、俺のいる前でやってくれ。そうすりゃ尻拭いが出来る。いいな」
「職場というものは、年次だけで偉さが変わるのですか?」
「年次が上がれば当然にあるレベルまでの仕事ができるとされるからな。中にはサボりもいるが。ギルドにはギルドの役目がある。貴族のやり方は不要だ、お嬢様」
「そんな物で民は救えません。ただでさえ、帝都は転移者の反乱に怯えていますのに。私の祖父と母だって……いいえ、これは無駄話ですわね。初日のご指導、ありがとうございました」
一礼し、嵐は去っていった。残された俺は通常業務に加えて報告書の作成と、あと始末書何枚書かなきゃいけないのかの試案が肩にのしかかった。
溜息を吐く俺を後目にすたすたと帰ろうとする課長を途中でなんとか捕まえた。
「かっちょ、ちょっと、待ってくだ、こら待て!」
「なによもう、スカイ君さあ。定時なの、お疲れい!」
「お疲れいじゃないっすよ。ちょっとあいつ、レッドロード、なんとかしてくださいよ」
「ふむ。スカイよ、ひとつ、はっきりさせておくとしよう」
課長は鞄を持ち直すと、俺の胸に指を一本突き刺した。
「いいか、彼女は帝国の名門貴族、レッドロード侯爵閣下のご息女だ。侯爵閣下が息を一つ吹いてみろ、我々のような小者は吹き飛ぶぞ。何故かって? 彼女の祖先はウォッチの創設者だ」
「つまり?」
「あんま強く言えません」
頭を下げて急いで帰ろうとする課長を力づくで止める。
「なになになに」
「納得いかないっすよそんなの! ギルドは何なんですか!」
「小僧が、ギルドの何たるかを語る前に役目を果たせ。お前の役目は何だ、スカイ」
「新入りの新人教育と通常業務です。あとは物価高の調査です」
「そうだ。まず自分を完璧にして人に意見するんだな。もう帰れ」
「残業です」
「ほら、コーヒー飲め」
お小遣いをジャラジャラと俺に握らせて課長は足早に帰って行った。
まあ言い方は悪いが、言ってることはある程度合ってる、か。
「おい、スカイ」
「なんすか、先輩。もう上がりっすよ」
「始末書よこせ。あと、報告書」
「スカイ君、俺も一枚くれよ」
「スカイ君、私も何枚も書いて来たからわかるよ」
「誇る事じゃ無くね? 俺じゃあ買い出し行ってくるわ。センスで良いな」
わらわらと、山のようにあった書類が少なくなっていく。
俺は何が起きたのかさっぱり分からないまま、人から人へ視線を移した。んだ、これ。
「おい、みんなが残業してるんだ、ぼさっとするな。それ飲んだら始めるぞ」
「いや、え、皆さん、なんで」
「いやさ、スカイ君が夜勤中にダンジョンで人を助けたってカロ―シアが言っててさ」
「普段すごいお仕事頑張ってくれるし、お世話になってるからこの位ね」
「そうそう。いや懐かしいなあ、同機が手伝ってくれてね。新人教育も押し付けちゃったし」
「だ、そうだ馬鹿。良かったな」
「俺は……帝都に……」
「知ってるよ。スカイ君優秀だし、まあいずれは、とは思ってる」
「それとこれは本当に別。ここにいるまでは、私ら先輩に頼りなって」
「そうそう。ひとりでやるの難しいこと多いよ。特に今回は、お嬢様だから、まずは庶民的なところから教えて行かないと」
「おい馬鹿、黙ってるな。言う事は」
堪らないよな、本当にさ……。
「ありがとうございます」
頭を下げる。俺はずっとここで一人だと思っていた。事実、ひとりでいるつもりだった。
帝都から田舎に飛ばされた厄介者。誰もが俺から遠ざかっていると思っていた。
だけど……俺だけだったんだな。
その日はみんなで騒ぎながら業務を片付け、明日以降のタイムテーブルを組み立てつつ、明日以降は全員で新人を見る体制にしてはどうかという話になった。
通常業務の割合を考えつつ、カウンターでの回転率。利用者自身で可能なものは協力してもらう方法にする。
久しぶりに残業した俺たちは晴れやかな気持ちで翌日以降の業務をむかえることになった。




