ホラー
部屋の中は淀んだ暗さに包まれていた。夜目がきくわけではないが、普通であればいずれは目が慣れてくるもの。だが何故かいつまでたってもその暗さに慣れない。この席へも部屋に入ってから手をひいて連れてこられた。
雰囲気はバッチリだ。
どこからか男の声がした。
「今日は『百物語の集い』にご参加いただきありがとうございます。急遽インターネットによる告知だったため開催できるほどの人数が集まるのか不安ではありましたが、こうしてたくさんのかたがたに参加していただけたことを嬉しく思います。さて、これ以上の挨拶は無粋というもの。皆様ロウソクの準備は整いましたか? では先ほど決めた順番で一番の方、お願いいたします」
それを合図に部屋には不気味な明るさが灯った。
それでも部屋の大きさはわからない。ただ、ロウソクの灯りから両隣、正面にも誰かがいるというのがわかった。
季節は夏。世間ではホラーな季節と言われるが、幽霊にしてみたら季節など関係ないだろう。夏だけに出てくる虫ではないのだ。生きた人間が勝手に風物詩にしているに過ぎない。彼らにしてみれば迷惑な話であるに違いない。
このイベントはインターネットのホラーサイトをネットサーフィンしていて偶然見つけた。怖い話が大好きで、暇があればこの手のホームページを見ていた。だが、残念なことに私には霊感がないらしい。今まで幽霊の存在を信じつつもご対面したことはなかった。
今回このイベントに参加したのは場所が近いことと、もしかしたら幽霊に会えるかもしれないからだ。
百物語。それは降霊術の一つと聞いたことがある。これには一つ問題があった。それは私も怖い話をしなければならない。人前で話すのが苦手な私にはハードルが高かった。
一人二人と話が終わっていくが、緊張から断片的にしか耳に入らない。余裕がなかった。
ついに順番が回ってきた。私はネットで見つけた話を一字一句なぞるように話した。人前で話すのが苦手とはいえ、話すからには飛び切りの怖い話をしたかった。参加が決まってから必死になって探した。
「以上で終わります」
そういってロウソクの火を消したとき、緊張から開放された。すると、ほかの参加者たちがざわめいているのに気がついた。ネットのコピーではまずかったのだろうか。
得も言われない。逃げ出したかった。
誰かが私の後ろにやってきた。
「困りますね」
声から、最初に挨拶をした男だとわかった。
「私たちの集まりで私たちの話をしてどうするのです?」
私は状況が飲み込めずにいた。男はため息混じりに言った。
「ここは人間がいかに恐ろしい存在なのかを百語る場なのですよ?」
振り返ると男に体はなく、頭が宙に浮いていた。
今回のはオチが途中でわかりやすくなってしまいました。