第76話 ブーストオン
金色の大金槌と鎚矛が繰り返し激突し、火花とともに轟音を響かせる。魔力まで秘めた重量感のある武器同士の激突は、その衝撃波だけで周囲のアスファルトを破壊していった。
「こりゃあ、はた迷惑だわ。車が通れなくなりそう」
ちょうど間合いが離れたところで朋子が口にすると、深天に似たそれは、やはり彼女には似つかわしくない険のある表情を浮かべる。
「余裕だな、地球防衛部。仲間内ではお前が一番のザコという話だったが、なかなかどうしてやるじゃないか」
「いやいや、そちらがお弱いだけですよ」
謙遜するかのような言葉で挑発すると、深天に似た女は気分を害したらしく般若のような形相で叫んだ。
「ほざけ!」
砕けたアスファルトをさらに踏み砕きながら襲いかかってくる。
朋子は敵を見据えて、金色の大金槌を足下に叩きつけた。
衝撃が大地を揺らし、アスファルトが大きく陥没するが、その瞬間には敵はすでに宙に逃れている。
「甘いわ!」
深天に似た女が叫ぶ。だが、元より跳ばすのが朋子の狙いだ。
「ブーストオン!」
朋子が叫ぶと金色の大金槌の後部が開き、そこからロケットエンジンのような噴出口が出現する。
「なっ!?」
敵が仰天して声をあげた。
解放された金色の大金槌の噴出口が光を放ち、爆発的な推進力が生まれる。それによって猛スピードで跳躍した朋子は、身構える敵の横をすり抜けて背後を取った。
そのまま金色の大金槌の推進力を使って、問答無用の一撃を放つ。
深天に似た女は反応すらできなかった。
電光石火の一撃が女の背中に命中し、ハエ叩きに遭ったハエのように、一瞬で陥没した地面の底に叩きつけられる。その様はまるで墓標に埋没される骸のようだ。
容赦なく敵を叩き落とした朋子は、そちらに一瞥をくれたあと、空中で金色の大金槌を下向きにして器用にその上に跳び乗った。ちょうど柄が操縦桿のようになった格好だ。
そのまま金色の大金槌の推進力で加速すると、ザンゲと戦い続けるエイダの元へと急行し、敵の側面をかすめるように飛行して彼女の身体をかっさらう。
「なんだ!?」
「先輩!?」
ザンゲのみならずエイダも驚きの声をあげるが、構うことなく再び宙に舞い上がる。
「ひとまず逃げるよ!」
それだけ告げると、降り始めた雨粒を弾き飛ばしながら、部室のある文化部棟へとまっしぐらに飛んでいった。




