幕間 -追想-
冷え切った夜風の中で未来は茫然と立ちつくしていた。
何もかもが失敗だ。
長い放浪の末に、ようやく目的のものを見つけて舞い上がったものの、それは哀れな道化のダンスに過ぎなかった。
うつむき、肩を落とす。あまりにも自分が惨めな気がした。涙はもとより、自嘲の笑みさえこぼれてはこない。
そんな彼女に昴は真っ直ぐな視線を向けている。その手の中で金色の鎌が鈍い光を放っていた。
投げやりに思う。わたしの首を刎ねるならそうすればいいと。
未来にはまだ戦う手段も力も残されていたが、もはや生きる気力もない。ここですべてが終わるなら、その方が楽でいい。
むしろ、ここで恋しい男の手にかかって逝けるのであれば、女冥利に尽きるというものだ。
未来は瞼を閉じると、静かにその時を待った。
しかし昴が口を開いたとき、そこから発せられた声は、未来の予想に反して穏やかなものだった。
「未来」
名を呼ばれて瞼を開けば、目の前には昴の手の平がある。意味が分からず、狼狽したような声をあげた。
「な、何?」
「迎えに来たんだよ」
「え?」
「待ってるって言われたからな」
「な、何を言って……」
「君を助けたいんだ」
心地良い声が未来の鼓膜を振るわせた。
◆
忘れられない記憶がある。
嬉しいときも、泣きたいときも、目を閉じれば彼の姿が浮かぶ。
その瞬間だけを切り取って胸の奥に刻み込み、ただひたすら反芻し続けてきた。
世界に絶望し、すべてを憎み、この世を滅ぼそうと画策して、その人の愛する者さえ奪おうとしたというのに、彼は自分に手を差し伸べてくれた。
それは闇色に塗り潰された人生の中で、初めて目にした光だった。
できることならば、その手を取って、そこからの人生を彼とともに歩みたかった。
しかし、それをするには、この手は汚れすぎていたのだ。
いくつもの命を奪い、いくつもの幸せを打ち砕いてきた。初めは身を守るためだったが、いつしか殺しそのものを楽しむようになっていた。
心は凍てつき、やさしさは霧散し、真心は枯れ果てた。
それでも彼という光は、そんな穢れた魂すら救ってくれたのだ。
彼が好きだ。
愛している。
でも、一緒にいることは赦されない。
決意とともに別の道を進もうとしたが、運命はそれすらも赦してはくれなかった。現れた敵が、この身を貫き、別れの言葉さえ遺せずに命の灯火は消えた。
しかし――
金色の光が摂理を覆した。




