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放課後のエンタングルメント  作者: 五五五 五
第二章 魔女ふたり
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幕間 -追想-

 冷え切った夜風の中で未来は茫然と立ちつくしていた。

 何もかもが失敗だ。

 長い放浪の末に、ようやく目的のものを見つけて舞い上がったものの、それは哀れな道化のダンスに過ぎなかった。

 うつむき、肩を落とす。あまりにも自分が惨めな気がした。涙はもとより、自嘲の笑みさえこぼれてはこない。

 そんな彼女に昴は真っ直ぐな視線を向けている。その手の中で金色の鎌が鈍い光を放っていた。

 投げやりに思う。わたしの首を刎ねるならそうすればいいと。

 未来にはまだ戦う手段も力も残されていたが、もはや生きる気力もない。ここですべてが終わるなら、その方が楽でいい。

 むしろ、ここで恋しい男の手にかかって逝けるのであれば、女冥利に尽きるというものだ。

 未来は瞼を閉じると、静かにその時を待った。

 しかし昴が口を開いたとき、そこから発せられた声は、未来の予想に反して穏やかなものだった。


「未来」


 名を呼ばれて瞼を開けば、目の前には昴の手の平がある。意味が分からず、狼狽したような声をあげた。


「な、何?」

「迎えに来たんだよ」

「え?」

「待ってるって言われたからな」

「な、何を言って……」

「君を助けたいんだ」


 心地良い声が未来の鼓膜を振るわせた。



 忘れられない記憶がある。

 嬉しいときも、泣きたいときも、目を閉じれば彼の姿が浮かぶ。

 その瞬間だけを切り取って胸の奥に刻み込み、ただひたすら反芻し続けてきた。

 世界に絶望し、すべてを憎み、この世を滅ぼそうと画策して、その人の愛する者さえ奪おうとしたというのに、彼は自分に手を差し伸べてくれた。

 それは闇色に塗り潰された人生の中で、初めて目にした光だった。

 できることならば、その手を取って、そこからの人生を彼とともに歩みたかった。

 しかし、それをするには、この手は汚れすぎていたのだ。

 いくつもの命を奪い、いくつもの幸せを打ち砕いてきた。初めは身を守るためだったが、いつしか殺しそのものを楽しむようになっていた。

 心は凍てつき、やさしさは霧散し、真心は枯れ果てた。

 それでも彼という光は、そんな穢れた魂すら救ってくれたのだ。

 彼が好きだ。

 愛している。

 でも、一緒にいることは赦されない。

 決意とともに別の道を進もうとしたが、運命はそれすらも赦してはくれなかった。現れた敵が、この身を貫き、別れの言葉さえ遺せずに命の灯火は消えた。

 しかし――

 金色の光が摂理を覆した。

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