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放課後のエンタングルメント  作者: 五五五 五
第三章 冬の果てに
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第132話 空中戦

 希美が地表に仕掛けた魔法陣でハルメニウスを抑え込み、未来が持てる最大の火力を叩き込む。

 ふたりが立てた作戦は単純なものだったが、こちらの手の内を知らない相手には有効な戦術だった。

 希美が所持していた明日香式の魔法紙をふんだんに用いて起動した巨大な魔法陣は、術を使った未来自身が絶句するほどの火力を生み出し、その爆炎は天まで焦がす勢いだった。


(これなら、いくらハルメニウスでも……)


 ひとまず安心しかけるが、希美の行いは未来の心に新たな疑問を生じさせていた。

 彼女が用意した魔法紙は簡単に手に入るものではない。普段アルバイトで作っている物とは一線を画する品物で、明日香家の者以外には造り出せない特別製だ。

 その秘密について訊ねようとする未来だったが、希美の好戦的な横顔を見て気づく。


(まだ終わっていない!?)


 未来が慌てて噴き上がる炎に視線を戻すのと、希美が彼女の手を引いて空に飛び上がるのは、ほとんど同時だった。

 直後に、足下の岩盤を撃ち砕いて、怨嗟の形相を浮かべたハルメニウスが飛び出してくる。

 それを見て希美が嗤った。


「まるでモグラだな、ハッタリウス!」


 彼女の言葉で、未来も理解する。ハルメニウスは重力に逆らうことなく、地中に潜ることで、かろうじて爆炎をかわしたのだ。


「おのれ、魔術師ぃぃぃっ!」


 ハルメニウスは怒り狂っていた。飛行魔術を使って猛然と後を追いかけてくる。

 基本的な魔力の桁が違うため、飛行速度は数段向こうが上だ。敵は追いすがりながら手の平をこちらに向けると、そこに魔力による光を生み出した。


「死ねぇぇぇっ!」


 怒りか、もしくは恐怖で我を忘れているらしく、ハルメニウスは一緒に未来がいるにもかかわらず、希美めがけて熱衝撃波を放出してきた。

 まともにくらうのは論外、かすめただけでも肌が焼けただれるような途方もない熱量だ。

 慌てて金色の傘(アンブレラ)を開く未来だが、それよりも早く希美は懐から取り出した数枚の魔法紙を無造作に放り投げていた。

 未来には込められた魔術を見て取る余裕はなかったが、効果のほどはすぐに形になって現れる。

 ハルメニウスが放出した魔力が、その魔法紙に引きつけられるようにして軌道を大きく変えたのだ。


「なにぃぃぃっ!?」


 驚愕するハルメニウス。

 それは未来も同じだ。

 おそらくは魔力を誘引する術式なのだろう。まるで戦闘機がミサイルを回避するために発射する(デコイ)のようだ。

 原理としては単純だが、実現するためには相手の魔力の質を把握した上で、術式に合わせた調整をしなければならない。そのため実用性は皆無というのが世の魔術師の一致した見解のはずだった。

 しかし、希美は平然とそれを実現させてみせる。

 あるいはハルメニウスの魔力の質については学園の屋上での戦いで把握していたかもしれないが、実戦においてどのような術を使ってくるかなどということを、あらかじめ知っていたはずはない。

 未来はハルメニウスの力以上に希美の才能に戦慄を覚えていた。

 希美はそんな彼女の身体を空中に放り出すと、金色の鎌(プレアデス)を構えて飛行術式を変異させる。自分の身体に働いている慣性を反転させて、物理的にはあり得ない速さで逆側に加速したのだ。

 猛スピードで追跡していたハルメニウスは自らの加速力も祟って、まったく対応できない。いくらなんでも相対速度が速すぎだった。

 金色の光が電光石火という表現すら生ぬるい速度でハルメニウスの身体を引き裂く。

 だが、空中に放り出された未来にはそれを眺めている余裕はない。

 慌てて金色の傘(アンブレラ)を開いて、パラシュートのように落下速度を軽減する。希美はその能力を知っていて未来を放り出したのだ。

 傘を手にゆっくりと舞い降りるバニーガールの姿は、端から見ればメルヘンの世界からやって来た魔法少女のようであった。

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